複素数
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性質と特徴付け
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体構造
複素数全体からなる集合 C は可換体になる。つまり、以下の事実が成り立つ。
- 閉性:任意の二つの複素数の和および積は再び複素数になる。
- 反数の存在:任意の複素数 z に加法逆元 −z が存在してそれもまた複素数である。
- 逆数の存在:任意の非零複素数に対して乗法逆元 1/z が存在する。
- さらにいくつかの法則を満足する。複素数 z1, z2, z3 に対して
これらの性質は、実数全体からなる集合 R が可換体であるという事実の下、先に与えた基本的な和と積の定義式から証明することができる。
実数と異なり、虚数に通常の大小関係 (z1 < z2) はない。つまり、複素数体 C は順序体にはならない[5][9]。これは、自乗すると負である数(例えば虚数単位 i)が存在することによる。
代数的閉体
代数学の基本定理より、複素数を係数とする代数方程式の解は存在しまた複素数になる。つまり、
は、少なくとも一つの複素根 z を持つ。
上記の多項式の複素根の一つを α1 とし、因数定理を帰納的に用いると、上記の多項式は
と複素数の範囲で因数分解される。これは、複素数が代数方程式による数の拡張の最大であることを意味している。つまり、C は代数的閉体である。
代数学の基本定理の証明にはさまざまな方法がある。例えばリウヴィルの定理などを用いる解析的な方法や、巻き数などを使う位相的な証明、あるいは奇数次の実係数多項式が少なくとも一つの実根を持つ事実にガロア理論を組み合わせた証明などがある。
この事実により、「任意の代数的閉体に対して成り立つ定理」を C にも適用できる。例えば、任意の空でない複素正方行列は少なくとも一つの複素固有値を持つ。
代数的特徴付け
体 C は以下の三つの性質:
- 標数は 0 である。これは 1 を何回足しても 1 + 1 + … + 1 ≠ 0 となるという意味である。
- C の素体 Q 上の超越次数は連続体濃度に等しい。
- 代数的閉体である。(#代数的閉体を参照)
を満足する。この三つの性質を持つ任意の体は、体として C に同型であることが示せる。例えば Qp の代数的閉包はこれら三つを満たすので、C に同型となる。この代数的な C の特徴付けの帰結として、C は自身に同型な真の部分体を無数に含むことが分かる。
また C は複素ピュイズー級数体に同型である(が、その同型を決めるには選択公理が必要となる)。
位相体としての特徴付け
C には代数的側面のみならず、近傍や連続性などの解析学や位相空間論の分野で考慮の対象となる性質も備わっている。そのような位相的性質に関して C は、適当な意味で収束の概念を考えることのできる位相体を成すことに注意しよう。
C は以下の三条件を満たす部分集合 P を持つ。
- P は加法、乗法および逆元を取ることについて閉じている。
- P の異なる元 x, y に対して、x − y または y − x のうちの何れか一方のみが P に属する。
- S が P の空でない部分集合ならば、適当な x ∈ C に対して S + P = x + P が成り立つ。
この P はつまり正の実数全体の成す集合である。さらに言えば、C は非自明な対合的反自己同型として複素共軛変換 x ↦ x* を持ち、任意の非零複素数 x に対して xx* ∈ P が成り立つ。
これらの性質を満たす任意の体 F には、任意の x ∈ F, p ∈ P に対する集合 B(x, p) = { y | p − (y − x)(y − x)* ∈ P} を開基とすることによって、位相を入れることができ、この位相に関して F は C に位相体として同型になる。
これとは別の位相的な特徴付けに、連結な局所コンパクト位相体は R および C に限ることが利用できる。実際このとき、非零複素数の全体 C ∖ {0} は連結だが、非零実数の全体 R ∖ {0} は連結でないという事実を併せれば、R と峻別することができる。
乗法群の構造
非零複素数の全体 C* = C ∖ {0} は、複素数体 C の乗法群 C× であり、C における距離空間としての部分位相空間と見て、位相群を成す。また、絶対値 1 の複素数全体の成す群(円周群)U はその部分位相群であり、写像
および写像
は位相群としての同型である。ここに、R/Z は商位相群、R∗
+ は正の実数の全体が乗法についてなす群であり、× は位相群の直積を表す。
注釈
- ^ ガウスは、1831年[1]に発表した論文で、複素数を 独: "Komplexe Zahl"(「複合的な数」)と表し、初めて複素数に名前を付けた[2][3]。
英: "Complex number" を最初に「複素数」と訳したのは、日本の藤沢利喜太郎である[4]。1889年の著書『数学用語英和対訳字書』[1] p.7 による。(ただし、東京数学会社による、"Composite number"(合成数)の日本語訳「複素数」も見られる) - ^ 辞書式順序は全順序であるが、複素数に入れると +, × と両立しない。
「順序集合」を参照
- ^ 1 と実数体上線型独立なベクトル u が u2 = 1 or 0 となるものとすれば、別の種類の二元数が得られる。
- ^ 複素数を拡張した四元数では、逆数はこの式で定義される[10]。
- ^ これは正確には適当なリーマン面を考えるべきであろうけれども、直観的には tan(arctan(α)) = α かつ arctan(tan(β)) = β が常に成り立っているように枝を渡る(特定の一つの枝を固定したのでは不連続となる点の前後で、実際には隣の枝に遷る)と理解することができる。
出典
- ^ なぜ虚数単位iの2乗は-1になるのか?#6.3.3. 複素数の由来 x_seek
- ^ 複素数 2006/10/05 (PDF) 矢崎成俊 p.3
- ^ 複素平面の基本概念 (PDF) p.3
- ^ 片野善一郎『数学用語と記号ものがたり』裳華房、2003年8月25日、63頁。
- ^ a b ニューアクション編集委員会『NEW ACTION LEGEND数学2+B―思考と戦略 数列・ベクトル』(単行本)東京書籍、2019年2月1日、53頁。ISBN 978-4487379927。
- ^ Weisstein, Eric W. "Complex Number". mathworld.wolfram.com (英語).
- ^ Murray Ralph Spiegel 著、石原宗一 訳『複素解析』オーム社〈マグロウヒル大学演習〉、1995年5月。ISBN 978-4274130106。
- ^ Aufmann, Richard N.; Barker, Vernon C.; Nation, Richard D. (2007), “Chapter P”, College Algebra and Trigonometry (6 ed.), Cengage Learning, p. 66, ISBN 0-618-82515-0
- ^ a b c 表 (1988)
- ^ 『{{{2}}}』 - 高校数学の美しい物語
- ^ Kasana, H.S. (2005), “Chapter 1”, Complex Variables: Theory And Applications (2nd ed.), PHI Learning Pvt. Ltd, p. 14, ISBN 81-203-2641-5
- ^ Nilsson, James William; Riedel, Susan A. (2008), “Chapter 9”, Electric circuits (8th ed.), Prentice Hall, p. 338, ISBN 0-13-198925-1
- ^ 木村 & 高野 1991, p. 4.
- ^ 高木『解析概論』付録I, §10.
- ^ 高木 (1996, 14. 函数論縁起)
- ^ a b 高木 (1996, pp. 94f.)
- ^ 高木 (1965, §9. 代数学の基本定理)
- ^ なお電気電子工学分野では虚数単位は「j」を用いることが多い(電流(の密度)「i」と混同を避けるため)。
- ^ a b 志賀 (1989, pp. 212–214)
- ^ a b 高木 (1996, pp. 102–116)
- ^ Kevin McCrimmon (2004) A Taste of Jordan Algebras, p.64, Universitext, Springer ISBN 0-387-95447-3 MR2014924
- ^ エビングハウスほか (2012)
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