複素数 歴史

複素数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/10 14:35 UTC 版)

歴史

負の数の平方根について、いささかなりとも言及している最も古い文献は、数学者で発明家のアレクサンドリアのヘロンによる『測量術』(Stereometrica) である。そこで彼は、現実には不可能なピラミッドの錐台について考察しているものの、計算を誤り、不可能であることを見逃している。

16世紀にイタリアの数学者カルダーノボンベリによって三次方程式の解の公式が考察され、特に相異なる 3 個の実数解を持つ場合に解の公式を用いると、負の数の平方根を取ることが必要になることが分かった。当時は、まだ、負の数でさえあまり認められておらず、回避しようと努力したが、それは不可能なことであった。

17世紀になりルネ・デカルトによって、 (imaginary) という言葉が用いられ、虚数と呼ばれるようになった。デカルトは作図の不可能性と結び付けて論じ、虚数に対して否定的な見方を強くさせた。

その後、ウォリスにより幾何学的な解釈が試みられ、ヨハン・ベルヌーイオイラーダランベールらにより、虚数を用いた解析学物理学に関する研究が多くなされた。

複素平面が世に出たのは、1797年にノルウェーの数学者カスパー・ベッセル英語版 (Caspar Wessel) によって提出された論文が最初とされている。しかしこの論文はデンマーク語で書かれ、デンマーク以外では読まれずに1895年に発見されるまで日の目を見ることはなかった。1806年にジャン=ロベール・アルガン英語版 (Jean-Robert Argand) によって出版された複素平面に関するパンフレットは、ルジャンドルを通して広まったものの、その後、特に進展は無く忘れられていった。

1814年にコーシー複素解析を始め、複素数を変数に取る解析関数複素線積分が論じられるようになった[15]

1831年に、機は熟したと見たガウスが、複素平面を論じ、複素平面はガウス平面として知られるようになった[16]。ここに、虚数に対する否定的な視点は完全に取り除かれ、複素数が受け入れられていくようになる。実は、ガウスはベッセル(1797年)より前の1796年以前にすでに複素平面の考えに到達していた。1799年に提出されたガウスの学位論文は、今日、代数学の基本定理と呼ばれる定理の証明であり[17]、複素数の重要な特徴付けを行うものだが、複素数の概念を表に出さずに巧妙に隠して論じている[16]


注釈

  1. ^ ガウスは、1831年[1]に発表した論文で、複素数を : "Komplexe Zahl"(「複合的な数」)と表し、初めて複素数に名前を付けた[2][3]
    : "Complex number" を最初に「複素数」と訳したのは、日本の藤沢利喜太郎である[4]。1889年の著書『数学用語英和対訳字書』[1] p.7 による。(ただし、東京数学会社による、"Composite number"(合成数)の日本語訳「複素数」も見られる)
  2. ^ 辞書式順序全順序であるが、複素数に入れると +, × と両立しない。
  3. ^ 1 と実数体上線型独立ベクトル uu2 = 1 or 0 となるものとすれば、別の種類の二元数が得られる。
  4. ^ 複素数を拡張した四元数では、逆数はこの式で定義される[10]
  5. ^ これは正確には適当なリーマン面を考えるべきであろうけれども、直観的には tan(arctan(α)) = α かつ arctan(tan(β)) = β が常に成り立っているように枝を渡る(特定の一つの枝を固定したのでは不連続となる点の前後で、実際には隣の枝に遷る)と理解することができる。

出典

  1. ^ なぜ虚数単位iの2乗は-1になるのか?#6.3.3. 複素数の由来 x_seek
  2. ^ 複素数 2006/10/05 (PDF) 矢崎成俊 p.3
  3. ^ 複素平面の基本概念 (PDF) p.3
  4. ^ 片野善一郎『数学用語と記号ものがたり』裳華房、2003年8月25日、63頁。 
  5. ^ a b ニューアクション編集委員会『NEW ACTION LEGEND数学2+B―思考と戦略 数列・ベクトル』(単行本)東京書籍、2019年2月1日、53頁。ISBN 978-4487379927 
  6. ^ Weisstein, Eric W. "Complex Number". mathworld.wolfram.com (英語).
  7. ^ Murray Ralph Spiegel 著、石原宗一 訳『複素解析』オーム社マグロウヒル大学演習〉、1995年5月。ISBN 978-4274130106 
  8. ^ Aufmann, Richard N.; Barker, Vernon C.; Nation, Richard D. (2007), “Chapter P”, College Algebra and Trigonometry (6 ed.), Cengage Learning, p. 66, ISBN 0-618-82515-0, https://books.google.com/?id=g5j-cT-vg_wC&pg=PA66 
  9. ^ a b c 表 (1988)
  10. ^ {{{2}}}』 - 高校数学の美しい物語
  11. ^ Kasana, H.S. (2005), “Chapter 1”, Complex Variables: Theory And Applications (2nd ed.), PHI Learning Pvt. Ltd, p. 14, ISBN 81-203-2641-5, https://books.google.com/books?id=rFhiJqkrALIC&pg=PA14 
  12. ^ Nilsson, James William; Riedel, Susan A. (2008), “Chapter 9”, Electric circuits (8th ed.), Prentice Hall, p. 338, ISBN 0-13-198925-1, https://books.google.com/books?id=sxmM8RFL99wC&pg=PA338 
  13. ^ 木村 & 高野 1991, p. 4.
  14. ^ 高木『解析概論』付録I, §10.
  15. ^ 高木 (1996, 14. 函数論縁起)
  16. ^ a b 高木 (1996, pp. 94f.)
  17. ^ 高木 (1965, §9. 代数学の基本定理)
  18. ^ なお電気電子工学分野では虚数単位は「j」を用いることが多い(電流(の密度)「i」と混同を避けるため)。
  19. ^ a b 志賀 (1989, pp. 212–214)
  20. ^ a b 高木 (1996, pp. 102–116)
  21. ^ Kevin McCrimmon (2004) A Taste of Jordan Algebras, p.64, Universitext, Springer ISBN 0-387-95447-3 MR2014924
  22. ^ エビングハウスほか (2012)






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