複素数 形式的構成

複素数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/10 14:35 UTC 版)

形式的構成

実数の対として

1835年にハミルトンによって、負の数の平方根を用いない複素数の定義が与えられた。

実数の順序対 (a, b) および (c, d) に対して和と積を

(a, b) + (c, d) = (a + c, b + d)
(a, b) × (c, d) = (acbd, ad + bc)

により定めるとき、(a, b)複素数という。実数 a(a, 0) で表され、虚数単位 i(0, 1) に当たる。このとき、R2+, × に関してとなり、零元(0, 0)単位元(1, 0) である[14]

ハミルトンの代数的な見方に対するこだわりは、複素数をさらに拡張した四元数の発見へと結び付いた。

剰余環としての構成

複素数体 C の代数的な構造は、体および多項式の概念により、自然に構成することができる。

とは、四則演算ができてよく知られた計算法則を満たすものである(例えば有理数体など)。実数全体の成す集合 R は体である。また、係数体が R の多項式全体の成す集合 R[X] は、通常の加法、乗法に関してを成す(多項式環と呼ばれる)ことに注意する。

剰余環 R[X]/(X2 + 1) は、R を含む体であることは示すことができる。この拡大体において、X, −X(の属する剰余類)は −1 の平方根である。この剰余環の任意の元は、多項式の除法の原理より、a + bXa, b は実数)の形の多項式を代表元に一意に持つ。ゆえに、R[X]/(X2 + 1)R 上の2次元ベクトル空間であり、(1, X)(が属する剰余類)はその基底である。

R[X]/(X2 + 1) の元(剰余類)a + bXa, b は実数)を、実数の順序対 (a, b) に対応させると、前節で述べた体が得られる。この2つの体は体同型である。

行列表現

複素数 α = a + bi を、C 上の(左からの)作用と見ると、それに対応する R2 上での一次変換の表現行列を考えることができる。

対応

により、複素数は実二次正方行列で表現することができる。特に、実数単位 1, 虚数単位 i

である。この対応により、複素数の加法および乗法は、この対応によって通常の行列の和英語版および行列の乗法に対応する。複素共役転置行列に対応している。

極形式表示を a + bi = r(cos θ + i sin θ) とすると、

は角度 θ回転行列のスカラー r 倍であり、これは複素数の積が R2 上で原点を中心とする相似拡大英語版回転の合成を引き起こすことに対応する。

複素数 z = a + bi の表現行列を A とすると、A行列式

det A = a2 + b2 = |z|2

は対応する複素数の絶対値の平方である。

複素数のこの行列表現はよく用いられる標準的なものだが、虚数単位 i に対応する行列 を例えば に置き換えても、平方が単位行列−1 倍であり、複素数の別の行列表現が無数に考えられる(後述、また実二次正方行列の項も参照)。


注釈

  1. ^ ガウスは、1831年[1]に発表した論文で、複素数を : "Komplexe Zahl"(「複合的な数」)と表し、初めて複素数に名前を付けた[2][3]
    : "Complex number" を最初に「複素数」と訳したのは、日本の藤沢利喜太郎である[4]。1889年の著書『数学用語英和対訳字書』[1] p.7 による。(ただし、東京数学会社による、"Composite number"(合成数)の日本語訳「複素数」も見られる)
  2. ^ 辞書式順序全順序であるが、複素数に入れると +, × と両立しない。
  3. ^ 1 と実数体上線型独立ベクトル uu2 = 1 or 0 となるものとすれば、別の種類の二元数が得られる。
  4. ^ 複素数を拡張した四元数では、逆数はこの式で定義される[10]
  5. ^ これは正確には適当なリーマン面を考えるべきであろうけれども、直観的には tan(arctan(α)) = α かつ arctan(tan(β)) = β が常に成り立っているように枝を渡る(特定の一つの枝を固定したのでは不連続となる点の前後で、実際には隣の枝に遷る)と理解することができる。

出典

  1. ^ なぜ虚数単位iの2乗は-1になるのか?#6.3.3. 複素数の由来 x_seek
  2. ^ 複素数 2006/10/05 (PDF) 矢崎成俊 p.3
  3. ^ 複素平面の基本概念 (PDF) p.3
  4. ^ 片野善一郎『数学用語と記号ものがたり』裳華房、2003年8月25日、63頁。 
  5. ^ a b ニューアクション編集委員会『NEW ACTION LEGEND数学2+B―思考と戦略 数列・ベクトル』(単行本)東京書籍、2019年2月1日、53頁。ISBN 978-4487379927 
  6. ^ Weisstein, Eric W. "Complex Number". mathworld.wolfram.com (英語).
  7. ^ Murray Ralph Spiegel 著、石原宗一 訳『複素解析』オーム社マグロウヒル大学演習〉、1995年5月。ISBN 978-4274130106 
  8. ^ Aufmann, Richard N.; Barker, Vernon C.; Nation, Richard D. (2007), “Chapter P”, College Algebra and Trigonometry (6 ed.), Cengage Learning, p. 66, ISBN 0-618-82515-0, https://books.google.com/?id=g5j-cT-vg_wC&pg=PA66 
  9. ^ a b c 表 (1988)
  10. ^ {{{2}}}』 - 高校数学の美しい物語
  11. ^ Kasana, H.S. (2005), “Chapter 1”, Complex Variables: Theory And Applications (2nd ed.), PHI Learning Pvt. Ltd, p. 14, ISBN 81-203-2641-5, https://books.google.com/books?id=rFhiJqkrALIC&pg=PA14 
  12. ^ Nilsson, James William; Riedel, Susan A. (2008), “Chapter 9”, Electric circuits (8th ed.), Prentice Hall, p. 338, ISBN 0-13-198925-1, https://books.google.com/books?id=sxmM8RFL99wC&pg=PA338 
  13. ^ 木村 & 高野 1991, p. 4.
  14. ^ 高木『解析概論』付録I, §10.
  15. ^ 高木 (1996, 14. 函数論縁起)
  16. ^ a b 高木 (1996, pp. 94f.)
  17. ^ 高木 (1965, §9. 代数学の基本定理)
  18. ^ なお電気電子工学分野では虚数単位は「j」を用いることが多い(電流(の密度)「i」と混同を避けるため)。
  19. ^ a b 志賀 (1989, pp. 212–214)
  20. ^ a b 高木 (1996, pp. 102–116)
  21. ^ Kevin McCrimmon (2004) A Taste of Jordan Algebras, p.64, Universitext, Springer ISBN 0-387-95447-3 MR2014924
  22. ^ エビングハウスほか (2012)






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