外来種
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/21 10:05 UTC 版)
外来種のもたらす問題
侵略性の強い外来種が引き起こす問題として、生態系に与える影響、遺伝子の撹乱、第一次産業などへの被害、感染症及びヒトの生命への被害などが挙げられるが、2つ以上にまたがるものも珍しくない。
生態系への影響
在来種の動植物を捕食したり、食物や繁殖場所など生息環境を奪うことで競争種などを減少させたりする。いずれの場合も、生態系のバランスを崩し、二次的にも大きな影響を与える可能性がある。
- 生態系のサイズが小さい島嶼地域では、ノヤギ(粗食と悪環境に強く、草を根こそぎ引き抜いて食物とする)の放置によって、植生へ壊滅的な打撃を与える場合がある[11]。ハワイ諸島、ガラパゴス諸島、日本(伊豆諸島、小笠原諸島、尖閣諸島)などの例が挙げられる[33]。
- 沖縄島や奄美大島に定着したジャワマングース(南西アジア原産)は、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギなど希少な小動物の多い両島の生態系に深刻な被害を与えている[20]。
- 1930年頃、阪神地方の養殖場から逃亡した個体が元になって西日本で分布を広げたチョウセンイタチは、在来のニホンイタチより体が大きく食性も広いことから人間の生活環境への適応力に優れており、在来のニホンイタチを駆逐していった[12]。ニホンイタチについても、ネズミ駆除の目的で移入された三宅島などの離島においてアカコッコなどの固有種に対する被害が生じている[12]。
- グアム島は、貨物に紛れて定着したミナミオオガシラ(オーストラリアなど原産)の捕食により、島固有の森林性鳥類11種のうち8種が絶滅し、島の鳥類相は壊滅的被害を受けた[13]。
- 1960年代に小笠原諸島に導入されて数百万もの個体数まで拡大したグリーンアノール(北アメリカ原産)は、オガサワラシジミやオガサワラゼミなどの小笠原固有の昆虫を捕食し、昆虫群集の衰退をもたらしている[34]。
- アフリカのビクトリア湖では、1950年代後半にナイルパーチ(西アフリカからナイル川流域原産)が導入されて、カワスズメ科の小型の魚類200種以上が絶滅した[11]。この一連の出来事は「ビクトリア湖の悲劇」とも呼ばれている。
- ボタンウキクサ、オオカナダモ、コカナダモ、オオフサモ、ナガエツルノゲイトウ、ミズヒマワリなどの水生植物は、大増殖して水面を覆いつくすことで在来植物の生育を妨げ、一斉に枯死した場合は水質を悪化させる[35]。なかでもホテイアオイ(熱帯アメリカ原産)は一面に咲く光景はとても美しいが、ほかの外来水生植物と同様に世界的な問題となっており、「最悪の水生害草」と呼ばれる[35]。
- 日本の里山に植栽されている孟宗竹からなる竹林は戦後の里山管理の衰退により、放置されていたり逸出していたりして、生育域は拡大する傾向にある。これは天敵が存在しない為であり、生態系に影響を与えつつある。この問題が基本的に過疎の弊害として語られる機会が多いのは身近な竹が外来種であるという認識が薄いためといえる。
遺伝子の攪乱
外来種が在来種と交雑することによって在来種の遺伝子が変容することがある。この現象を遺伝子浸透(遺伝子汚染)という[5]。外来種の遺伝子が広範囲に拡散すれば、それまでの遺伝子プール(その個体群が共有する一定の変異幅をもつ遺伝子の総体)の状態を回復することは、事実上不可能となる。固有種・固有亜種に外来遺伝子が流入した場合、長い進化の歴史を経て形成されてきたそれらの種や亜種が消滅することになるため、問題は特に深刻である。
農作物や家畜の品種改良の場合、人為的条件での適応、すなわち人間にとって優れた特性の獲得が、交配により達成され、原種と大きく異なった形態の品種が生み出されることが多い。このような例を踏まえて、遺伝子の攪乱(かくらん)は種としては新たな適応の機会であり、悪い事ではないという意見も見受けられる[36]。しかし、自然環境下の動植物で遺伝子の攪乱が広がった場合、攪乱前の状態に戻すことはできず、交雑種が新たな害を及ぼしたり、生態系全体のバランスに大きな影響を与える恐れもある。
- 伊豆大島・和歌山県・青森県で野生化が確認されているタイワンザルや、房総半島に定着しているアカゲザルは、日本固有のニホンザルと交雑が可能であり、実際に雑種が生まれている[12]。これが全国に広がれば、純粋なニホンザルは消滅してしまうことも考えられる。
- タイリクバラタナゴ(中国、台湾、朝鮮半島原産)は1940年代前半に、中国から他の魚(ハクレン・ソウギョなど)に混じって利根川水系に導入されたが、1960年代以降、人為的に全国各地に分布を広げた[37]。西日本各地で在来のニッポンバラタナゴと交雑し、雑種個体群として累代を続けた結果、純粋なニッポンバラタナゴの生息地はきわめて局所的に残るのみとなり、ニッポンバラタナゴの絶滅が懸念されている[37]。
- 京都府の賀茂川において、食用として持ち込まれたチュウゴクオオサンショウウオが野生化し、日本固有種である在来のオオサンショウウオとの交雑が問題になっている[38]。ただし、チュウゴクオオサンショウウオも、IUCNのレッドリスト(Ver.3.1)において「Critically Endangered(絶滅寸前)」とされており、ワシントン条約で付属書Iにも掲載されているため、外来種として単純に処理できないことが問題を複雑にしている[38]。
- ペットとして輸入されて逃げ出した外国産クワガタムシやカブトムシによる在来種の遺伝子攪乱も危惧されている(ヒラタクワガタと亜種の間柄であるオオヒラタクワガタとの交雑など)[10]。
- 外来種と在来種が交雑することでより侵略性の強い生物種が生み出されてしまうこともある。その代表例がスパルティナ・アングリカという非常に侵略的なイネ科の植物で、この生物は19世紀にアメリカからイギリスに持ち込まれた外来種とイギリスにもともと存在していた在来種との1代雑種の染色体数が倍加して起源している[10]。
第一次産業への影響
第一次産業に外来種が大きく貢献することがある一方で、農林業や漁業に膨大な被害を与え、数十億円に達する被害額を生じさせる外来種もいる。
- 戦前まで毛皮獣として日本で盛んに飼養されたヌートリア(南アメリカ原産)は、戦後、需要がなくなるとともに放され、中部地方以西の各地の河川や沼地に定着した。イネやニンジン、サツマイモなどの農作物に大きな被害を与えていることが報告されている[11]。ほかに日本の例では、アライグマやキョン、イノブタなどの陸生哺乳類が農作物被害を引き起こしている[12]。
- 第二次世界大戦中の日本では、食糧増産のために中国から四大家魚(ソウギョ ・ハクレン・コクレン・アオウオ)を利根川水系に導入した[14]。しかし戦後、これら4種は食糧問題の解決には十分資さないまま、ソウギョを水域の除草目的に転用することとなった。ソウギョの過剰な放流で、在来の水生植物群落をほぼ壊滅的な状態に追い込んだケースも見られた[14]。富栄養化した水域ではソウギョによる水草除去が一段落した後、植物プランクトンが大量発生し、水草が繁茂していたとき以上に環境が悪化して問題となった。
- 1860年代のフランスでは、アメリカから流入した寄生虫ブドウネアブラムシ(フィロキセラ)によってヨーロッパブドウが全滅に近い打撃を受け、フランス経済は推定約100億フラン以上のダメージを負った(19世紀フランスのフィロキセラ禍)[39]。この被害はフランスだけに留まらず、フランス周辺国や日本でも同様に深刻な被害をもたらした[40]。
- 19世紀のアイルランドでは、主要食物であったジャガイモにアメリカから流入したエキビョウキンが流行し、ジャガイモ飢饉が発生した。地主や貴族による輸出停止措置などを取られなかった事も影響し、100万人もの餓死者を出すこととなった[41]。
- イチイヅタの変異型はキラー海藻と呼ばれており、コーレルペニン(Caulerpenyne)などの毒性二次代謝産物を10数種類産出する[42]。水温10度以上であれば、光の届かない水深100mまでのほとんどの海底状況・水環境にて支配的に繁殖するため、ウニなどの草食性生物が飢えて沿岸生態系を破壊している[42]。千切れても細胞片から繁殖するため、被害を拡大させる海底を切削する浚渫が行えなくなる[42]。生存可能領域が広く、アンカーなどに絡まっても乾燥に強いため地中海から始まりオーストラリア、アメリカなどにも繁殖領域を拡大している[42][43][44][45]。
感染症及びヒトの生命への被害
従来その地域では見られなかった病原菌や寄生虫が外来種とともに移入された場合、人間や在来種に被害を与える場合がある。
- 1905年ごろのニホンオオカミの絶滅の原因の1つとして、輸入犬からの伝染病である狂犬病や犬ジステンパーによる個体数の減少が指摘されている。(タヌキやキタキツネにも同様の伝染病の被害が出ている)
- タンザニアのセレンゲティ国立公園では、公園周辺に暮らす3万頭ものノイヌが持ち込んだ犬ジステンパーによってライオンの25%が死亡した[13]。
- ノネコが原因と思われる猫後天性免疫不全症候群(ネコエイズ)が、ツシマヤマネコに感染した事例も見つかっており、イリオモテヤマネコへの脅威も懸念されていたが[46][47]、2010年代にはノネコを捕獲したのちに里親を探し譲渡するという活動に取り組み、全頭譲渡成功という成果を達成している[48]。
- 世界各地に定着しているアルゼンチンアリ(南アメリカ原産)は、屋内に侵入したり、就寝中の人間を咬むなどして、不快害虫となっている[49]。さらに、アルカロイド系の毒をもつアカヒアリ(南アメリカ原産)によって咬まれることで北アメリカでは大勢の人間が死亡する事態になっている[11]。
- ブタクサやオオブタクサなどのキク科植物、そしてカモガヤやオオアワガエリなどのイネ科植物は花粉症を引き起こし、人間の健康に悪影響を及ぼす[11]。とくにこれらの外来植物は雑草として市街地などの人間に身近な場所に生育している。
- 1937年に北海道の礼文島で害獣駆除のために輸入されたキツネの中に人間が感染すると重篤な肝炎を引き起こすことがあるエキノコックスという寄生虫に感染したものがいた。礼文島ではキツネは完全に駆逐されたものの、エキノコックスは海を渡って北海道本土のキタキツネに感染して広がり、人間への感染も確認されている。さらに2005年には埼玉県でエキノコックスの卵が確認されたことからホンドキツネへの感染拡大が懸念されている[50]。
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