豆 豆の概要

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 08:09 UTC 版)

大きさ・色・形など様々な豆

概要

莢に詰まった豆

マメ科植物の果実は、豆果: Legume)であり、雌蕊子房心皮が成長して形成された鞘の中に種子がある。種子は胚乳が発達せず、子葉が発達して栄養を蓄える[1]。対して、イネ科の植物は栄養を胚乳に蓄える[2]。鞘を形成する莢果(きょうか)で[3]、果皮が乾燥した乾果である。完熟すると鞘がさける裂開果(れっかいか)や[4]、鞘が種子毎に仕切られ完熟すると仕切り毎に分かれる節果(せつか)などがある[5]

マメ科植物のダイズ、インゲンマメ、ヒヨコ豆、アズキなどは1年草であるが、同科には多年生草本アルファルファや、樹高が20m以上になる常緑高木タマリンド落葉高木のニセアカシアヒロハフサマメノキなど様々な形態の種(しゅ)がある。「豆」の定義はマメ科植物の種子や果実のことであるが、大きさが約2mmのアルファルファの種子はその小ささから「種(たね)」と表現され[6]、果肉を利用するタマリンドは果物(フルーツ)として扱われ、食用にしない種子は豆ではなく「たね」と呼ばれる[7]

豆は他の植物の種子より大きく栄養豊富であることから、人間を含む多くの動物にとって重要な食料となっている。様々なマメが古代より世界各地で栽培されてきた。他の穀物に比べて水を必要としないため栽培適応地も広範囲で、丈夫な皮を持つことから収穫後に乾燥させても粒割れを起こさずカビ昆虫による食害も受け難いなど保存・貯蔵面の利点がある。現在にいたるまで、各国で豆料理や豆の加工食品が利用されている。反面、ほとんどが炭水化物であるコメ小麦トウモロコシイモ類などと比べ、味などの面で癖が強い(味がある)、単位面積あたりの収量が劣る、調理にも長時間かかる事などから、豆を主食とする民族は少ないが、高栄養価でもあり、主食穀物イモ類につぐ重要な食材となっている。

歴史

「豆を食べる男」(16世紀後半) アンニーバレ・カラッチ

豆は人類の農耕文明において、穀物と同じように、長い期間にわたって作物となってきた歴史がある。現在100ヶ国以上で栽培され食用の豆では最大の生産量のインゲンマメは、メキシコで紀元前4000年頃のものが見つかっており、メソアメリカが原産と考えられている。2012年にゲノム分析からメソアメリカが原産で1万1千年前にメソアメリカの栽培種と南米の栽培種へ分化したとする報告があった[8]。その後、南北アメリカ大陸へ広がり、スペイン人のアメリカ大陸への進出後は「旧大陸」に紹介された。ラッカセイパラグアイの周辺ボリビアブラジルアルゼンチンに囲まれた地域が原産と考えられており[9]、ペルーの遺跡から約7600年前のラッカセイがみつかっている[10]。ラッカセイはスペイン人到来以前にメソアメリカへ伝わっていた。その後スペインおよびポルトガルにより世界へ広まった。

エンドウレンズマメメソポタミア周辺の西アジアが原産と考えられており、トルコの紀元前5500年頃の遺跡から見つかっているほか、それ以前のトルキスタンの遺跡でも見つかっている。ソラマメは北アフリカかメソポタミアが原産と考えられており、メソポタミアでは紀元前2-3千年ごろには栽培が始まった。ヒヨコマメはヒマラヤ西部から西南アジアにかけての地域が原産と考えられており、これらの豆は古代に陸路で各地へ伝播した[11]

大豆中国が原産で、古代より日本を含め東アジア東南アジアへ伝わったが、世界的な伝播は遅く、ヨーロッパへは18世紀に、アメリカ州へは19世紀に紹介された。現在、米国ブラジルアルゼンチンは大豆の大生産国であるが、大豆の生産は20世紀に入り飼料作物として栽培され始めたものである[12]

国連総会によって、2016年が国際マメ年: International Year of Pulses、略称: IYP 2016)に指定され、持続可能な農業生産のために豆類の使用が奨励されることとなった[13]

日本の豆の歴史

日本では、紀元前4000年頃(縄文時代後期)に、大豆の原種と言われるツルマメを利用していた痕跡が出土している[14]。中国原産の大豆は約2000年前の(弥生時代初期)に伝来したと考えられており、味噌醤油の製造法は奈良時代に伝わり、鎌倉時代には各地に大豆の栽培が広まった[15]

アズキは中国が原産と考えられているが、アズキの祖先と考えられる野生種ヤブツルアズキV.angularis var. nipponensis(Ohwi) Ohwi & Ohashi)が日本からヒマラヤまでの地域で見つかっており、アズキの原産地の再検討が必要となっている[16]アズキは滋賀県の粟津湖底遺跡(紀元前4000年頃)[17]登呂遺跡(弥生時代、紀元1世紀頃)から出土しており、古代より各地で栽培されていたと考えられる。

西アジア原産のソラマメとエンドウは中国経由で8世紀頃、ササゲが9世紀頃、アメリカ大陸原産の作物は16世紀半ばに始まった南蛮貿易で日本へ紹介された可能性はあるが、インゲンマメ(隠元豆)は中国経由で17世紀に、ラッカセイ(南京豆)はフィリピン・中国経由で18世紀頃に伝来したというのが通説となっている[18]


注釈

  1. ^ FAOの集計では生産に関しては2013-7時点で2011年分まで情報があるが、用途などの情報が含まれているCommodity BalanceやFood Supplyの情報は2009年度分までである。
  2. ^ FAOの2009年度の集計によると、豆類の供給サイドでの廃棄率は3.3%、大豆やラッカセイを含む油糧作物の廃棄率は3.6%であった。

出典

  1. ^ a b kotobank - デジタル大辞泉 「豆」
  2. ^ 写真でわかる園芸用語集 「胚乳」
  3. ^ 写真でわかる園芸用語集 「莢果(きょうか)」
  4. ^ 写真でわかる園芸用語集 「裂開果(れっかいか)」
  5. ^ 写真でわかる園芸用語集 「節果(せつか)」
  6. ^ 楽天 「「種 アルファルファの検索結果」
  7. ^ 朝日新聞・どらく 「タマリンド」
  8. ^ BBC Mundo (西語)El frihol se origino en Mesoamerica
  9. ^ en:Peanut#Historyより。
  10. ^ Dillehay, Tom D.. “Earliest-known evidence of peanut, cotton and squash farming found”. 2007年6月29日閲覧。
  11. ^ 豆類協会 「豆の通ってきた道」
  12. ^ 豆類協会 「大豆」
  13. ^ 国際マメ年について (IYP 2016)”. FAO駐日連絡事務所. 2016年12月7日閲覧。
  14. ^ キッコーマン 「大豆の歴史」
  15. ^ グリコ 「大豆のおはなし」
  16. ^ 豆類協会 「豆の通ってきた道」
  17. ^ 滋賀県湖北農業農村振興事務所 「滋賀県長浜市における小豆の生産振興について」
  18. ^ 豆類協会 「豆の日本への伝来の歴史」 (PDF)
  19. ^ a b 農林水産省 「特集2 雑豆(1)」
  20. ^ 農林水産省 「豆のこと、もっと知りたい。」
  21. ^ 豆類協会 「Q&A 豆の種類について」
  22. ^ 豆類協会 「豆の主な栄養素」
  23. ^ weblio - 日本豆類基金協会 「いんげんまめ」
  24. ^ 国際連合食糧農業機関(FAO) Classifications Production/Crops/ item code=176 Beans, dry
  25. ^ kotobank - デジタル大辞泉 「豌豆豆」
  26. ^ 跡見学園女子大学 「きまめ」
  27. ^ kotobank - 世界大百科事典 「キマメ」
  28. ^ 「ささげ」
  29. ^ 豆類協会 「ささげ」
  30. ^ a b c d e f g 豆類協会 「海外からの輸入」
  31. ^ 農林水産省 「豆のこと、もっと知りたい。」
  32. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 国際連合食糧農業機関(FAO) FAOSTAT Food and agriculture data
  33. ^ 国際連合食糧農業機関(FAO) Classifications Food Supply/Crops Primary Equivalent/ item code=2555 Soybeans
  34. ^ 豆類協会 「国内生産」
  35. ^ 永らく最大の生産国であった米国は7倍、ブラジル497倍、アルゼンチン約5万倍、パラグアイ5018倍などが急増、インドも2522倍
  36. ^ 大生産国ではあるが国内需要を満たせておらず、総交易量の約6割を輸入。
  37. ^ 1961年と81年はソ連の数値
  38. ^ 1961年と81年はソ連に含まれる
  39. ^ 1961年の生産量は米国、中国、インドネシアに次ぐ量であった。
  40. ^ 「白いんげん豆の摂取による健康被害事例について」
  41. ^ 健康食品管理士認定協会 「白いんげん豆食中毒事件」
  42. ^ 英語版のen:Glucose-6-phosphate dehydrogenase deficiency#Signs and symptomsの記述ではFavismとG6PDの関連は are not well understoodとある。
  43. ^ 医歯薬出版株式会社 「日本人の食事摂取基準(2010年版)」
  44. ^ Bloomberg Appetite for Meat in China Means Agriculture Imports, FAO Says
  45. ^ 農林水産省 「大豆をめぐる最近の動向について H22-1」
  46. ^ 「野菜350g」は本当にカラダにいいの…?食生活のウソホント”. FRIDAYデジタル (2020年7月16日). 2020年11月27日閲覧。
  47. ^ Godman, Heidi (2021年12月1日). “Harvard study: Healthy diet associated with lower COVID-19 risk and severity” (英語). Harvard Health. 2021年12月5日閲覧。
  48. ^ 吉川雅之、薬用食物の糖尿病予防成分 『化学と生物』 2002年 40巻 3号 p.172-178, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.40.172
  49. ^ 豆類ポリフェノールの抗酸化活性ならびにα-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ阻害活性、齋藤優介ほか、日本食品科学工学会誌、Vol.54(2007) No.12
  50. ^ アメリカ合衆国農務省(USDA) Nutrient data laboratory
  51. ^ Harold McGee 2008, pp. 471–476.
  52. ^ 楽天レシピ 「金時豆の甘煮」
  53. ^ allrecipes.com Boston Baked Beans
  54. ^ kotobank 「pea soup」
  55. ^ 豆類協会 「豆の戻し方」
  56. ^ コスモポリタン_(雑誌) 「栄養満点!レンズ豆の美味しい使い方とおすすめレシピ」
  57. ^ エジプト大使館 「エジプト料理」
  58. ^ 飲み物がわかる辞典. “珈琲(コーヒー)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2024年5月3日閲覧。
  59. ^ 精選版 日本国語大辞典. “カカオ(かかお)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2024年5月3日閲覧。
  60. ^ kotobank - 平凡社世界大百科事典 「高杯∥高坏」
  61. ^ goo辞書 - 小学館デジタル大辞泉 「坏」
  62. ^ 裘錫圭 1988, p. 116.
  63. ^ 張世超 1996, pp. 1167–8.
  64. ^ 季旭昇 2014, pp. 404–5.
  65. ^ 林志強等 2017, p. 58.
  66. ^ 裘錫圭 1988, pp. 246–7.






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