地域おこし 主体

地域おこし

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/09 03:17 UTC 版)

主体

地域おこしの主体(企画者、実行者)は次のようなものがある。

なお、2011年7月9日に大分県佐伯市で開催された「国道326号・10号沿線活性化シンポジウム」において、「観光カリスマ」の山田桂一郎[4]は「行政に頼ってはダメ」としたうえで、観光客には新たに開発し売り出した「商品」などではなく、地域のライフスタイル(地域の人々の暮らし)からえり抜いたものに価値を認めてもらう必要性があることを述べている[5][注 2]

手法

以下のようなさまざまな試みが地方自治体や各種団体・組織で行われているが、どこにでも有効な決定的な策というものがあるわけではない。その地域ごとの特色や立地、人口や産業の状況を判断し、独自性のある地域おこし施策の計画・実施が望まれる。他の地域の真似するほど地域ごとの独自の特色がなくなり、同じようなものが増えた分、相対的に魅力が減ってゆく。よって、他の地域と比較した場合の、自地域の特色、本当の強みを見抜く必要がある。

成功したケースにおいては、立地、時代背景、推進したリーダー、関係団体の協力、組織化などに恵まれたケースが多い。そうした要因を考慮せず、成功事例をそのまま真似しただけでは、地域色が出しきれず失敗に終わることが多い。

人口の維持・増加策

地域振興のためには、人口を維持、または増加させる必要がある。そのためには、他地域から人を呼び込むことと、他地域への人口流出を防ぐことが必要である。主な人口の維持増加策として、次のようなものが挙げられる[6](一部は他の節のものと重複している)

  1. 当該自治体への移住の推進・支援(たとえばUターンJターンIターンでの移住の推進)
  2. 自治体のPR(たとえばインターネットでの情報発信、IターンUターン推進誌での広告、CMキャラクターなどを使ったものなど。いわゆる「お役所仕事」的に形式的に実行しても大抵は効果が無く、民間企業並みに、実際のところどれだけの人数にメッセージや情報が届いているか(リーチ数)、どれだけの人数が反応してくれたか(レスポンス数)、反応した人の心的な反応の内容や態度の変化、などをしっかり把握して、広告効果を厳しく吟味・判定して工夫をないとうまくゆかない。)
  3. 居住支援(たとえば空き家公営住宅の提供、家賃補助など)
  4. 雇用の確保(たとえば企業誘致・新産業創出・6次産業化など)
  5. 結婚支援(たとえば若者の出会い、仲人サービスなど)
  6. 育児世帯への経済支援(たとえば出産一時金の上乗せなど)
  7. 子育て環境の充実(たとえば保育所整備など)
  8. 学校施設、教育環境の充実
  9. インフラストラクチャー整備(たとえばコミュニティバス・道路・下水道などの整備)
  10. コンパクトシティの推進(施設・住居などを分散させず、集約させること]
  11. イベントを開催(幅広い年齢に興味を持ってもらえるような)

ただし、人口減少が激しい自治体ほど、家賃補助のような経済支援による応急処置的な移住策を選択し、子育て環境の充実といった定住促進策を行うのが難しい状況にある。経済的支援は、若い世代の誘引策としては効果が一時的で持続的な定住策としては未知数である。過度に経済支援を行った場合、自治体の財政を悪化させ、かえって地域の弱体化に拍車をかける恐れがある。また、移住の呼びかけが過熱して自治体が人口を奪い合うようになれば、小規模自治体がさらに疲弊することが懸念される。そのため様々な側面から費用対効果を検証し、実態にあった施策をとることが必要であるとされる[6]

産業の振興

  • 地元の漁業農業の振興
  • (農業地域)地域の農作物の品質向上・基準策定・地域ブランド化とその広報。新たな有望な農作物品種への挑戦と、成功した品種の地域内の農家への普及
  • 道の駅を設置し、観光客に対し地域の農産物や特産物を直売し、生産者の収入や地元民の雇用につなげる
  • 企業・工場の誘致(「企業が地方へ進出する際に発生する、何らかのメリット(用地確保、減税など)の提示」と「地元の人の雇用割合、地元枠のノルマの要求・確保・契約書のとりかわし」をワンセットで行う。ただ来てもらうだけでは、必ずしも地元の人の雇用につながらない)
  • 観光資源の発掘・創出・再検討(後述

文化戦略

観光によって観光業宿泊業など)が盛んになると、小売業卸売業などにも経済効果が波及し、域内の経済が活発になる。そのため、観光振興は地域経済の活性化につながる[7]

地元住民にとって「当たり前」で「何でもないこと」(山・海・水・田園風景・棚田・雪原・星空・自然環境全般など)が、観光資源になる。

旅行先で人々と交流したり、現地独特の人々の生活様式をじっくり見たり実際に体験することでその人の「人生の一部」になるような旅を好む人々の割合が次第に増えてきている。そこで「農業体験コース」「漁業体験コース」などを設けるという方法もある。

地元民が子供のころから何気なく食べている料理(地元の日常食・家庭料理郷土料理)を、他の地域の人々も食べてみたいと思えるような形で提供し、上手に広報して多くの人々に知ってもらえば、商業ベースに乗ることもある。獣害が深刻な地域では、森や里山に自然の動物が出没するということなので、シカイノシシの肉をジビエとして売り出すという方法がある(和歌山県など)[8]。また、風が吹き抜ける地域では、風力発電機大規模な風力発電所ウィンドファーム)を設置して、当該地域に必要な電力のかなりの割合をそれでまかない、その地域の経済的な強みとしたり、あるいは売電を行うという方法もある。例えば、北海道のオロロン街道(稚内市から留萌市あたりまで、日本海側に面した数百kmの街道)、えりも町襟裳岬)、千葉県の銚子市の海岸の丘の上などでは、風が強い場所に風力発電機が立ち並び、地域に役立つ電力を生みだしている。また、風力発電機が多数立ち並ぶ風景は印象的で、一種の観光資源となり、それを目当てに観光客が訪れるようにもなる。

上手くいけばメディアで話題となるが、他の地域が模倣することで埋もれてしまい、長期的には効果が薄くなってしまうことがある。ミニ独立国・ご当地キャラクター(ゆるキャラ)・B級グルメなどは、あまりに乱立が過ぎて、効果が激減してしまったといわれる。アート産業への多大な税金投入も問題となっている[9]。象徴的な事例ではあいちトリエンナーレの2019年の騒動が挙げられる。

箱物行政

箱物行政とは、日本の地域自治体などが美術館博物館・スポーツ公園・リゾート施設などの公共施設(=箱もの)を建設すること。

安定成長期までは一定の成果があることもあったものの、失われた10年を経て負の遺産と化したものも多い。「箱物」は、各地域で似たようなものが乱立し、相対的に人を引き寄せる力が弱い。また、建造後の毎年の維持費(管理者の人件費、建築物の補修費など)が大きく、赤字になりやすい。そのため、地域衰退の要因のひとつにもなっている。また土建業者と、地元有力議員・助役・市長などの間の賄賂のやりとりや、談合が起きやすい。

  • 目玉施設の整備
  • 都市開発・再開発

インフラ整備

  • 情報インフラの整備(情報格差の減少)
  • 交通インフラの整備
    • 利用が減少し、廃止の危機にある鉄道・路線バスへの運行経費や車両購入費用補助、コミュニティバスの運行、タクシー利用補助券の配布。
    • バスマップ(路線図・時刻表・乗り方・バスを利用して行ける施設を記載)の配布。乗り方教室・無料運行日の実施や、体験乗車券の配布。鉄道との乗り継ぎ時間を極力短くしたダイヤ編成。バスロケーションシステム(走行位置情報)の提供。学生・高齢者・障害者・運転免許証返納者向けに割引した定期券の発行。環境定期券制度の導入。観光施設入場料とセットになった割引乗車券の発売といった利用促進策
    • 鉄道駅への公共施設の移転集約や、待合室・パークアンドライド用駐車場の整備

その他

特区
2002年には行政改革により、従来の法規制の一部を緩和できる構造改革特別区域が制定できるようになり、全国各地で様々な「特区」が生まれつつあり、これらの特区内での様々な活動に、地域振興の期待が寄せられている。
詳細は構造改革特別区域を参照のこと。
地域ブランド
地域団体商標(地域ブランド)が2006年4月の改正商標法によって要件が緩和されたことで、地域ブランドによる「地域おこし」が注目されている。これらでは従来地場産品の一般名称として利用されていた呼称を「商標」とすることで、他の地域で製造された類似品に同名称を用いられないですむ排他性もあり、類似品を廃することで地場産業の育成にも期待がもたれている。
シンボルマーク・シンボルスローガンの作成
栃木県宇都宮市が該当する。「住めば愉快だ宇都宮」というシンボルマークを作成して民間の店舗や団体が使用したり、オリジナルのシンボルマークを作成したりして魅力を伝える作戦[10]
ウィキペディアタウン
自治体や住民・ボランティアが街の名所・施設などを積極的にWikipedia上で記事化・充実化することで、地域振興を図る動きもある[11]
大規模イベントの開催
地域おこしを目的としたイベントをきっかけに知名度や観光誘引力を向上させる手法がある。例として『ももクロ春の一大事 〜笑顔のチカラ つなげるオモイ〜』が挙げられる(女性音楽グループのももいろクローバーZが、毎年異なる地方自治体と協働でコンサート開催を軸とした広報活動を手掛けており、2020年の「第12回観光庁長官表彰」で特別感謝状が贈呈された[12][13][14])。
姉妹都市、同名地域との交流

地域振興の例

日本全国規模のもの

一部自治体で行われたもの

海外の例

本の街
下記の2つの成功例から、二番煎じで「本の街」にする事例が多く見られた。
  • ヘイ・オン・ワイ - イギリスの本の街として有名。昔からあるヘイ城の中にも古書店があり、それぞれの店が個性をもった専門的な本を担当する。イベントや国からの独立も行っている。
  • ルデュ英語版 - ベルギーで過疎の村で行われた古書店のイベントから、古書店が集まるようになった。
芸術
  • ナント - もともとブルターニュ公のお膝元で奴隷貿易でにぎわったが20世紀から低迷。アートの町としてイベントなどを開催し、2004年に「欧州で最も住みやすい都市」1位などを獲得した。

注釈

  1. ^ 一般概念としては、「community vitalization」となる。コミュニティ自治体、街、村)がその名を掲げて「~ vitalization」「~ town vitalization」「~ village vitalization」のように使うことが多い。なお、アメリカでは、日本と状況が異なるため、都市部での部分的な荒廃がから様々な問題が発生し、「downtown vitalization ダウンタウン(都市中心部)の活性化」がしばしば話題になる。
  2. ^ なお、特定地域についての言及だが、あくまで山田は(同シンポジウムにおいて東九州自動車道が開通し、国道326号国道10号沿線の佐伯市豊後大野市延岡市で地域住民が何もしなければ観光客が吸い取られるだけになる危惧があるとし)、「同地域にはすでに十分な素材・価値(観光資源)があり、住民がその価値を認めて客を細分化し取り込んでいくことが重要である」旨を述べた(出典:「活性化連携が鍵-東九州道開通後見据えシンポジウム」夕刊デイリーWebヘッドラインニュース

出典

  1. ^ a b 市川虎彦まちづくり論の陥穽 : 地域自立の論理から自治体間競争の論理へ」 『松山大学論集』 2001年 13巻 1号 p.157-175, NAID 110004687356, 松山大学
  2. ^ 遠いが価値、巡れば納得 過疎地で輝く新観光名所 日本経済新聞 「地方都市の中心市街地は地盤沈下が止まらない」
  3. ^ 街が変わり、共同体が減る 「過疎化、少子高齢化、そして都市のドーナツ化現象」
  4. ^ インバウンド業界トップインタビュー 観光カリスマ 山田桂一郎
  5. ^ 「国道326号・10号沿線活性化シンポジウム」0982.tv記事(2011年12月13日閲覧)
  6. ^ a b 星貴子『地方創生―政府戦略に対する首長の判断③』(日本総研2015年
  7. ^ 観光産業の地域経済への波及効果分析手法の検討及び地域ストーリーづくりに関する調査日本交通公社2015年
  8. ^ [pref.wakayama.lg.jp/prefg/070400/zibiedetiikiokoshi.html] [1]
  9. ^ ウォーホル作品に3億円 戸惑う鳥取県民 - いろ★ドリ NHK、2023年1月29日閲覧
  10. ^ 宇都宮ブランド推進協議会 愉快ロゴ
  11. ^ 15周年を迎えたウィキペディアが、地域振興の主役になるかもしれない(前編)”. Jタウンネット. 2023年8月13日閲覧。
  12. ^ 「第12回観光庁長官表彰」の受賞者の発表について”. 観光庁 (2020年10月2日). 2022年11月13日閲覧。
  13. ^ 「ももクロ」に観光庁から感謝状 地域振興イベント開いた滋賀・東近江で授与式”. 毎日新聞 (2020年11月4日). 2022年11月13日閲覧。
  14. ^ 観光庁から「ももクロ」に特別感謝状”. 滋賀報知新聞 (2020年11月7日). 2022年11月13日閲覧。
  15. ^ a b c 市川虎彦「「地域活性化」再考 : 人口と雇用の観点から」『松山大学論集』第25巻第5号、松山大学総合研究所、2013年12月、45-67頁、CRID 1050282813434647168ISSN 09163298 
  16. ^ 各国の地方政府の体系 偽物の官製成功事例を見抜く5つのポイント”. 東洋経済オンライン (2015年4月2日). 2016年10月14日閲覧。
  17. ^ 「ベストセラーの内側」日本経済新聞2014年2月5日夕刊11面
  18. ^ リンク切れ





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