九九式短小銃 九九式短小銃の概要

九九式短小銃

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/20 01:56 UTC 版)

九九式短小銃・九九式小銃
九九式短小銃の初期型。単脚が欠損している。
九九式短小銃・九九式小銃
種類 小銃
製造国 日本
設計・製造  大日本帝国陸軍
仕様
口径 7.7mm
銃身長 657mm(短小銃)
797mm(小銃)
ライフリング 4条右回り
使用弾薬 九九式普通実包
装弾数 5発
作動方式 ボルトアクション式
全長 1,118mm(短小銃)
1,258mm(小銃)
重量 3,800g(短小銃)
4,100g(小銃)
銃口初速 730m/s(短小銃)
740m/s(小銃)
射程 照尺最大1,500m(短小銃)
照尺最大1,700m(小銃)
最大射程 3,400m
歴史 
設計年 1930年代中後期
製造期間 1941年 - 1945年
配備期間 1941年 - 1945年1954年1961年(陸自
配備先 #主力装備として採用された主な国、組織
関連戦争・紛争 第二次世界大戦国共内戦第一次インドシナ戦争インドネシア独立戦争朝鮮戦争ベトナム戦争
バリエーション #派生型
製造数 2,500,000
テンプレートを表示

制式名「九九式」は「皇紀2599年」(=1939年)に採用された事から。

沿革

  • 大正8年 - 試製7.7mm小銃の研究を開始
  • 大正12年 - 試作研究終了。次期小銃の基礎資料となる
  • 昭和4年4月 - 試製甲号7.7mm歩兵銃審査開始
  • 昭和4年6月 - 審査終了。次期小銃の基礎資料となる
  • 昭和13年4月8、9日 - 7.7mm協議会開催。小銃・機関銃・実包について協議された
  • 昭和13年4月 - 次期小銃の設計に着手
  • 昭和13年10月 - 次期小銃1次試作完了。耐久性の改善要求が出された
  • 昭和14年1月 - 2次試作完了。制退器を削除、照尺の改良、製造の簡易化がなされた
  • 昭和14年5月 - 3次試作完了。実用試験に供された
  • 昭和14年7月15日 - 仮制式制定上申
  • 昭和16年 - 生産開始
  • 昭和16年4月 - 小倉陸軍造兵廠研究所で陸軍技師・水野武雄が九九式小銃を半自動化した改造ピダーセン自動小銃の製作に成功(当時の国状によりこの小銃は正式採用されなかった)
  • 昭和16年12月 - 太平洋戦争大東亜戦争)開戦
  • 昭和20年8月 - 太平洋戦争敗戦により生産中止
  • 昭和25年 - GHQの指示により、九九式短小銃14万丁がM1ガーランドと同じ弾薬実包)を発射できるよう改造される 
  • 昭和25年6月 - 朝鮮戦争勃発により韓国軍が開戦初期、九九式短小銃を一部使用(米軍の参戦と共にM1ガーランドに代替)
  • 昭和25年8月 - 警察予備隊の発足により同隊が九九式短小銃を使用
  • 昭和36年6月 - 保安隊を経て自衛隊が使用していた九九式短小銃は経年により不良品判定を受け射撃禁止措置とされる
  • 昭和39年9月 - 豊和工業に在籍していた九九式短小銃の開発陣が64式7.62mm小銃を完成させ、自衛隊に制式採用された。

概要

九九式短小銃(初期型)を携行する完全軍装の帝国陸軍の兵士。上帯と下帯の間に単脚が写っている。

本銃は1900年代末以降、長らく帝国陸軍の主力小銃であった三八式歩兵銃(三八式小銃)の後継として開発・採用された。三八式歩兵銃からの改善点は主に以下の通りとなる。

  • 弾薬を九九式軽機関銃と共通化(九二式重機関銃とも一方的ながら共通化)
  • 威力向上のため、6.5mmから7.7mmへ口径の大型化
  • 命中精度向上のため、照星・照門の改良、対空表尺を装備
  • 反動増大対策(銃口安定性増大)のため、単脚(モノポッド)を装備
  • 反動増大対策のため、Gew98Kar98kのものに似た反動受の金具を弾倉の前方に装備(銃床へ伝わる反動を分散)、また前帯・後帯をねじで固定(ずれ止め)
  • 機動性向上のため、銃身の短縮、総重量の軽減
  • 量産性向上のため、部品のゲージ規格化品質管理の導入
  • 歩兵部隊の近接支援火力を増大するため、小銃擲弾の装着が可能
  • 日照による温度差での銃身の屈曲防止のため、上部被筒を装備
  • 照星損傷防止のため、三八式歩兵銃後期生産型と同様のフロントサイトガード(照星座)を装備
  • クリーニングロッド(槊杖)収納部の固定方法を改良し、誤って抜け出ることを防止
  • 弾倉底蓋に蝶番を装備し、開いた際の部品紛失を予防
  • 銃把の上面・下面を補強する鉄製のフレーム(支え金)を延長
  • 床尾板を鍛造の板形状から、Kar98kのものに似たカップ形状のプレス製に変更。この改良は三八式小銃でも後期生産型以降に導入されていた。
  • 強度に直接影響しない箇所(レシーバー(尾筒)の後端、トリガーガード(安全鉄)など)の形状を簡略化

九九式小銃・短小銃を装備した部隊には、実包が共通化されていた九九式軽機関銃が分隊あたり1挺配備された。銃剣は三八式歩兵銃に引き続いて三十年式銃剣を採用している。

最大の生産工場は名古屋陸軍造兵廠鳥居松製造所であり、他に東京第一陸軍造兵廠小倉陸軍造兵廠・仁川陸軍造兵廠・南満陸軍造兵廠の各陸軍造兵廠工廠)、また東京重機工業(現:JUKI)や東洋工業(現:マツダ)等の民間企業でも生産された。短小銃の生産数は約250万挺と言われ、日本の小銃生産史上、三八式歩兵銃に続いて第2位の生産量とされている。詳細な生産数については戦中戦後の混乱で資料が残っておらず、完全には把握されていない。

1940年代初期の緊迫した情勢と国力の限界ゆえに、三八式歩兵銃(6.5mm)から九九式小銃・短小銃(7.7mm)へと全面更新することは出来なかったが、九九式短小銃自体は太平洋戦争時の日本軍(陸海軍)主力小銃として使用された。主な配備部隊は南方戦線を中心とし、例としてガダルカナルの戦い一木支隊アッツ島の戦いにおける第7師団ビアク島の戦いにおける第35師団ペリリュー島の戦いにおける第14師団フィリピン防衛戦における第68旅団硫黄島の戦いにおける第109師団南樺太の戦いにおける第88師団占守島の戦いにおける第91師団。ほかビルマの戦いサイパン島の戦い沖縄の戦い満州の戦い日ソ戦いなどでも使用された。

九九式小銃・短小銃はドイツ国防軍Kar98kソ連労農赤軍モシン・ナガン M1891/30アメリカ軍スプリングフィールド M1903イギリス軍リー・エンフィールド No.4 Mk Iなど、第二次世界大戦当時の列強各国軍における同世代の主力小銃と比較しても互角以上の性能と信頼性を備えていた。太平洋戦争開戦当時は、新式小銃とも称され先に装備した部隊の士気は高まったという。

一方で、長銃身・小口径弾ゆえに反動が小さい三八式歩兵銃に比べ、短銃身・大口径弾ゆえに反動が大きい九九式短小銃は命中率が低下しやすく、反動の増大と命中精度の低下の対策として、九七式狙撃銃で採用されていた他国にあまり例をみない単脚が装備されているが、これが有用であったという使用者の証言は少ない。命中率の 低下から新型小銃は改悪と評価される場合もあるが、スコープ等を使用する遠距離狙撃以外の通常の戦闘での使用や近距離での撃ち合いでは特に問題にはならなかった。また、大戦末期には国力の低下から小銃に限らず粗製品が生産されたため、その末期型九九式短小銃に関しては本来の性能は期待できなかったという。太平洋の密林において頻発したごく近距離での戦闘では米軍が広く配備した半自動小銃であるM1ガーランド、半自動カービン(騎銃・騎兵銃)のM1カービンに撃ち負ける場面がしばしばみられた。本銃の半自動小銃化も計画され試作品も完成していたが、弾薬消費が補給(国力)の限界を超えることと日中戦争の戦線拡大により見送られている。

名称

九九式短小銃(中期型)

本銃には大きく分けて短銃身型と長銃身型があるが、あくまで制式においては一貫して長銃身型を「九九式小銃」、短銃身型を「九九式短小銃」と称し厳密に区別されている。また、いわゆる長銃身型をさす「九九式長小銃」の呼称は俗称であり、これは制式名称ではない。なお、本銃の狙撃銃型として、九九式狙撃銃(九九式小銃ベース)と九九式短狙撃銃(九九式短小銃ベース)が存在するが、これらも制式において「小銃(狙撃銃)」と「短小銃(短狙撃銃)」は区別されている。

銃身が長銃身型(九九式小銃)より14cmほど短い短銃身型を九九式短小銃と称すが、長銃身型は「歩兵銃」として三八式歩兵銃を元に、短銃身型は「騎銃」として三八式騎銃および四四式騎銃を元に、並行して試作されたものである。歩兵銃の方は順調に開発が進んだものの、騎銃の方は大口径化により従来の騎銃と同等の銃身長では反動過大・命中不良などの弊害を来たしたことや、当時の世界の情勢を鑑み、従来の歩兵銃と騎銃のほぼ中間の銃身長とすること(のちの九九式短小銃)になった。最終的に歩兵銃と騎銃は、銃身長と負革の装着位置の他は同様式のものとされ、それぞれ九九式小銃・九九式短小銃として採用(仮制式制定上申)されている。

しかしながら、実際に主力小銃として量産・配備されたのは九九式短小銃であった事から(九九式小銃自体は早々に生産が中止され総生産数は約38,000挺。短小銃は約250万挺)、自然と短銃身型の方が「九九式小銃」と呼称されるようになった。

英語圏を中心とする日本国外においては「Arisaka 7.7mm Rifle」「Arisaka M1939 Rifle」「Type99 Rifle」「M99 Rifle」とも呼称される。


  1. ^ 陸軍技術本部『小銃審査の件』大正8年~昭和13年」 アジア歴史資料センター Ref.C01007115500 
  2. ^ 陸軍技術本部『八九式旋回機関銃仮制式制定の件』昭和4年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001315300 
  3. ^ 陸軍技術本部『八九式旋回固定機関銃実包並同擬製弾仮制式制定の件』昭和5年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001240600 
  4. ^ 陸軍省『九二式重機関銃仮制式制定の件』昭和8年」 アジア歴史資料センター Ref.C12121818000 
  5. ^ 陸軍技術本部『九二式重機関銃弾薬九二式普通実包仮制式制定の件』昭和8年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001317900 
  6. ^ 陸軍技術本部『九二式重機関銃制式制定の件』昭和14年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001750800 
  7. ^ 陸軍技術本部第一部『昭和八年六月三十日軍需審議会に於ける応答事項』昭和8年」 アジア歴史資料センター Ref.C12121818200 
  8. ^ 銃砲課『九九式小銃外四点仮(準)制式制定及陸軍技術本部研究方針追加の件』昭和15年」 アジア歴史資料センター Ref.C01004909300 
  9. ^ 陸軍技術本部『九七式車載重機関銃弾薬仮制式制定の件』昭和12年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001625300 
  10. ^ 陸軍技術本部『九七式車載重機関銃仮制式制定の件』昭和12年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001630800 
  11. ^ 陸軍軍需審議会『弾薬統制要領規程の件』昭和14年」 アジア歴史資料センター Ref.C01004670200 
  12. ^ 陸軍技術本部『九二式重機関銃外一点弾薬中改正の件』昭和15年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001857200 
  13. ^ 梅本弘 『ビルマ航空戦・上』 大日本絵画、2002年11月、p.344
  14. ^ 井川一久『日越関係発展の方途を探る研究 ヴェトナム独立戦争参加日本人―その実態と日越両国にとっての歴史的意味―』2006年、日本財団、42頁
  15. ^ 枪起机落:用步枪击落日寇飞机的八路军宋岭春中国中央電視台「科技博览」节目,2007年7月30日。
  16. ^ ポール・T. ギルクリスト「空母パイロット (新戦史シリーズ)」1992年、朝日ソノラマ
  17. ^ オア・ケリー「F/A-18の秘密 (新戦史シリーズ)」1992年、朝日ソノラマ
  18. ^ Walter, John (2006). Rifles of the World (3rd ed.). Iola, WI: Krause Publications. p. 33. ISBN 0-89689-241-7. https://books.google.com/books?id=Eq2Dnj4sDZIC&pg=PA33 
  19. ^ a b c 津野瀬光男『小火器読本』かや書房、1994年、91-93頁。ISBN 978-4906124060 
  20. ^ 伊藤眞吉「鉄砲の安全(その4)」『銃砲年鑑〈'10~'11〉』全日本狩猟倶楽部、2010年、117頁。ISBN 9784915426070 
  21. ^ 試製七.七粍歩兵銃 - 藤田兵器研究所
  22. ^ arisakatype99page - Carbines for Collectors.com
  23. ^ 試作一式テラ銃 - 25番
  24. ^ 小橋良夫『日本の秘密兵器(陸軍篇)』学習研究社、2002年
  25. ^ TAKI'S HOME PAGE IMPERIAL JAPANESE ARMY PAGE - Rifle
  26. ^ Experimental 99 Paratrooper Rifle - Military Surplus.com






固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「九九式短小銃」の関連用語

九九式短小銃のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



九九式短小銃のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの九九式短小銃 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS