ラッシュ時 ラッシュ時の概要

ラッシュ時

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/27 07:04 UTC 版)

概要

多くの鉄道路線バス路線・道路では、通常は朝は企業や学校へ向かう都心方面の列車バス・道路が通勤・通学客によって混雑し、夕方・夜間には企業や学校から帰宅する郊外方面の列車・バス・道路が混雑する。この混雑を迎える時間帯が「ラッシュ時」と呼ばれる時間帯である。

ラッシュ時は日中よりも利用客が多いため交通事業者側の増収につながると誤解される場合も多いが、定期券利用者が多く、ラッシュ時のために新たな車両や設備、係員を準備する必要があるなど、事業者側にも多くの支出や投資を伴う。ラッシュ時の負荷に設備の容量を合わせるとラッシュ時以外では過剰となりうる[注 1]

日本の状況

朝ラッシュ・夜ラッシュ

JR 東京駅の朝ラッシュ時の様子(8時45分ごろ、2005年)
東急電鉄東京メトロ 渋谷駅の夕ラッシュ時の状況(20時ごろ、2008年)
小田急線の朝ラッシュ時に乗客を押し込む押し屋(2016年)

どの都市圏であっても、朝は郊外から都心方面へ向かう列車やバスが通勤・通学客によって、夕・夜間は都心から郊外方面へ向かう列車やバスが帰宅客によってそれぞれ混雑する。東京圏の鉄道路線では、朝のラッシュ時は上り線が、夜のラッシュ時は下り線が混雑する。

都心方向は出勤・始業時間が集中する平日の7時台 - 9時台に[1]、郊外方向は帰宅時間が集中する18時台 - 20時台に混雑のピークを迎え、それぞれラッシュ時と呼ばれる。朝のラッシュ時と夕・夜間のラッシュ時を区別し、前者を「朝ラッシュ時」または「通勤ラッシュ」、後者を「夜(よる)ラッシュ時」または「帰宅ラッシュ」と分けて呼ぶこともある。

朝ラッシュ時は、時間帯が短い分、企業や学校の出社・始業時刻が短時間に集中するため、通勤・通学客が集中して混雑度が最も高くなる。一方で夕ラッシュ時は企業や学校の退社・終業時刻が分散するため、混雑度は日中より高く、朝より低い程度になるものの、時間帯は朝ラッシュ時よりも長くなる。特に金曜日の深夜は、宴会コンパ等などにより終電間際でも激しく混雑することが多い。

ラッシュ時は乗降人員が格段に多く、必然的に停車時分を平常時より長く設定する必要があり、表定速度は低下する。輸送力を確保するために運転間隔を平常時より短縮していることから、駆け込み乗車や扉挟みによる再開閉の対応等で生じた僅かな遅延が後続列車に波及しやすい。遅延が生じた場合、先行列車との運転間隔が広がることによって次駅の乗車人員と停車時分が増加し、当該列車の混雑率が上昇するのは避けられない。運転本数が多いラッシュ時では、停車時分の増加は更なる遅延を招くだけでなく、後続列車の駅間停車を発生させる原因にもなり、最悪の場合ダイヤ乱れが生じることになる。

東京メトロでは遅延が生じた時の対策として、先行列車を駅に長時間停車させる運転間隔の調整を行い、既に遅延している後続列車に乗客が集中するのを防止している。バスについても、渋滞が生じることを前提としたラッシュ時のダイヤでは、路外に設置された停留所で時間調整を行う路線がある。

ラッシュ時以外の混雑しない時間帯については、朝ラッシュ時より前の時間帯を「早朝(時間帯)」、朝ラッシュ時と夕ラッシュ時の間の時間帯を「日中(時間帯)」または「データイム」、夜ラッシュ時の後の時間帯を「夜間・深夜(時間帯)」と呼ぶことが多い。JR西日本アーバンネットワークでは、大阪駅基準で22時以降を「深夜時間帯」と定義している。

欧米では朝ラッシュ時でも畳めば新聞が読める程度なのに対し、高度経済成長期の日本の鉄道(特に東京大都市圏の鉄道)は乗車率300%を超えることが日常であった状況から「寿司詰め」「通勤地獄」「殺人的混雑」と評され、特に新宿駅の朝ラッシュは世界的にも有名であった。鉄道会社ではドアから乗客がはみ出さないように車内に押し込む『押し屋』と呼ばれる職員を配置するなどの対応を取っていた。2005年東急田園都市線パナソニックノートパソコンの耐圧性テストを行った際に100kgの圧力を記録するなど[2][3]、乗客に大きな負荷がかかっている。

現在は輸送力増強はもとより、時差通勤や在宅ワークの促進等の各種対策、さらには団塊の世代の引退をはじめとする労働人口の減少によってラッシュ時の混雑は緩和されており、東京圏でも2009年度以降は平均混雑率が170%を下回っている。しかし、ピーク時の混雑率が200%程度になる路線も未だ現存している。このような日本のラッシュ時の様子について、海外から写真家が撮影に訪れることもある[4]

東京圏31区間、大阪圏20区間、名古屋圏8区間の最混雑区間における平均混雑率の推移は下表のとおりである[5]

東京圏主要31区間のピーク時における平均混雑率等の推移
年度別平均混雑率(%)
年度 東京圏 大阪圏 名古屋圏
1975年(昭和50年) 221 199 205
1980年(昭和55年) 214 188 204
1985年(昭和60年) 212 187 192
1989年(平成元年) 202 168 175
1990年(平成02年) 203 171 183
1991年(平成03年) 200 168 182
1992年(平成04年) 201 167 182
1993年(平成05年) 197 166 173
1994年(平成06年) 194
1995年(平成07年) 192 157 165
1996年(平成08年) 189 151 163
1997年(平成09年) 186 149 162
1998年(平成10年) 183 147 157
1999年(平成11年) 180 144 153
2000年(平成12年) 175 144 150
2001年(平成13年) 175 142 149
2002年(平成14年) 173 138 147
2003年(平成15年) 171 137 146
2004年(平成16年) 171 134 147
2005年(平成17年) 170 134 146
2006年(平成18年) 170 136 145
2007年(平成19年) 171 133 146
2008年(平成20年) 171 130 139
2009年(平成21年) 167 127 137
2010年(平成22年) 166 124 135
2011年(平成23年) 164 123 127
2012年(平成24年) 165 122 130
2013年(平成25年) 165 124 131
2014年(平成26年) 165 123 131
2015年(平成27年) 164 124 134
2016年(平成28年) 165 125 130
2017年(平成29年) 163 125 131
2018年(平成30年) 163 126 132
2019年(令和元年) 163 126 132
2020年(令和02年) 107 103 104
年度別路線混雑率(%)
都市圏 鉄道事業者(現) 路線 1970年 1980年 1990年 2000年 2010年
東京圏 JR東日本 東海道線 261 256 225 208 188
横須賀線 311 224 245 190 193
中央線快速電車 256 259 255 218 194
京浜東北線 251 250 277 233 195
常磐快速線 - 269 221 205 171
総武線各駅停車 257 263 247 215 203
東武鉄道 伊勢崎線
(東武スカイツリーライン)
236 185 195 152 140
西武鉄道 池袋線 224 234 209 169 165
京王電鉄 京王線 224 202 192 168 165
東急電鉄 田園都市線 - 231 197 196 182
小田急電鉄 小田原線 232 205 201 190 188
東京メトロ 銀座線 234 236 196 173 160
丸ノ内線 277 201 216 160 153
日比谷線 243 223 211 173 154
東西線 - 230 196 197 196
有楽町線 - 210 209 176 168
千代田線 - 255 217 192 179
大阪圏 JR西日本 大阪環状線 274 232 177 175 129
片町線 225 246 172 144 129
近畿日本鉄道 奈良線 194 192 172 151 137
南海電気鉄道 南海本線 215 183 174 134 117
京阪電気鉄道 京阪本線 223 186 173 145 113
阪急電鉄 神戸本線 208 191 159 145 137
Osaka Metro 御堂筋線 221 222 206 156 143
名古屋圏 名古屋市営地下鉄 東山線 239 265 236 184 147

逆方面のラッシュ

首都圏近郊においては先述の通り、朝方上り列車が混雑し、夕方下り列車が混雑するのが通例であるが、朝方下り方面が混雑し、夜上り方面が混雑する路線もある。一例として、都心と羽田空港を結ぶ東京モノレール羽田空港線は、朝ラッシュ時の最混雑区間がモノレール浜松町駅から天王洲アイル駅までとなっている。

具体的には、以下の2つの場合がある。

ラッシュ時と日中の違い

鉄道

日本の鉄道ではラッシュ時の混雑を緩和するため、ラッシュ時には列車の増発や車両の増結やラッシュ時に対応した列車種別の変更などがなされる。

増発
鉄道では、ラッシュ時となる時間帯には増発される。1時間あたりの本数も日中より多くなり、運転間隔が日中より短くなる。
  • 反面、一方向に集中的に運転させるため、ラッシュ時前後の時間帯や逆方向への列車の本数が日中より少なくなる路線がある。逆に、行き止まり型の路線の場合は大量の折り返し列車が設定されることで、需要に反して本数が過大となる。
  • JR神戸線京都線宝塚線など一部の路線では夕方ラッシュ時も日中とほぼ同じの本数で運行されている。
  • 日中に始発終着とする電車のない駅の始発・終着電車も運転される。
  • 工業地帯など、日中の交通需要が見込めない地域を走行する場合には、ラッシュ時のみ列車が運転され、日中は全く運転されないという路線もある(鶴見線大川支線山陽本線和田岬支線名鉄築港線など)。
増結
ラッシュ時には通常の編成よりも多い両数の編成で列車が運転されることがある。増結によって、増結した車両の分だけ多くの人が乗車でき、その分だけ混雑が緩和する。増結分は駅でのホーム有効長の延長が必要になるが、用地や費用等で延長が困難な場合はドアカットかホーム有効長が短くなる駅の手前で解結を行う場合がある。優等列車の場合、該当駅を通過することもある。
列車種別の変更
JR中央線の通勤特快。停車駅が少ない。ラッシュ時のみの運転
座席定員制のホームライナー
路線により、日中とは違う列車種別の列車を運転することがある。ラッシュ時のみに運転される列車や、逆にラッシュ時には運転されない列車がある。
ラッシュ時にしか運転していない列車種別には、大別すると通勤種別ホームライナーがある。
通勤種別
通勤快速や通勤急行等、ラッシュ時に通勤需要に対応するための列車。種別名に通勤が冠されることが多いが、冠されない場合もある。路線・会社ごとに、日中の停車駅の数から増減がある。原則的に朝ラッシュ時は都心に行き、夕方都心から帰ってくる乗客向けに、平日朝の上りと、平日夕方・夜間の下りに運転されるが、例外的に朝の下り、夕方・夜間の上りに運転されるものもある。基本的に日中や土曜日休日ダイヤは設定されない。
JR神戸線・京都線では、朝ラッシュ時に通過駅のある「快速」(舞子駅垂水駅須磨駅を通過する快速および京都駅 - 大阪駅間が快速(途中停車駅は長岡京駅・高槻駅・茨木駅・新大阪駅))になる列車を設定している。この列車は「快速」であるが、新快速と同じ速度で運転している。[注 2]
ホームライナー
座席定員制普通列車。平日夕方・夜間の下りと平日朝の上りに運転される。乗車するには乗車券のほかに別途ライナー券が必要となる。
地下鉄においては、ラッシュ時には昼間時に利用客の少ない駅も乗降客が増加するため、優等列車を運転しないことが一般的である。
近年は、これまでラッシュ時にも優等列車を運転していた区間について、優等列車としての運行を廃止し、すべて各駅停車として運転される対策がとられることがある。これは、速達列車は一般に各駅停車より混雑するため、高い混雑が列車の遅れの原因となっているところ、全列車を各駅停車とすることで列車ごとの混雑を平準化して列車の遅れを防止しようとする狙いがある。2000年に名鉄瀬戸線で行われた例があるほか、2007年より私鉄混雑率ワースト1・2である東京メトロ東西線東急田園都市線で実施され、特に後者はメディアにも強く注目された(東西線については速達種別より各駅停車の遅延が目立ち、速達系通過駅の停車列車増加のため実施された)。
押し屋の配置
鉄道駅では、混雑度が増してくる大都市周辺の主要駅を中心に、朝に「押し屋」と呼ばれる電車に乗り切れない人を車内に押し込む係員をアルバイトなどで雇い、ホームに配置することがある。
女性専用車両
混雑車両における痴漢防止の観点などから、大都市周辺を中心にラッシュ時に女性専用車両が設定される路線が多い。しかし、これによりかえって他の車両の混雑が悪化したり、乗降が多い駅の改札口や階段等に近い車両に乗ろうとする乗客の思考から有効な利用がなされなかったりという問題が発生している。また一部には男性差別であるとの指摘もある。乗車口前には警備員が常駐している。例外として、小学生以下の子供・体の不自由な人、その介助の男性も利用することができる。
ラッシュ時専用改札口
ラッシュ時のみに使用される改札口が設けられることがある。かつては阪急電鉄のように完全に無人の出口(フリーパスゲート)が設置された例もあった(現在は廃止)。ストアードフェアシステムや不正乗車防止システムの導入により自動改札機の設置が必須になったことや、遠隔操作により改札口の常時稼働が可能になったことなどにより、都市部では減少している。
ホームの用途の変更
櫛型ホームを有する都心の終着駅では、朝ラッシュ時に乗客を早く降ろすために、通常乗車用として使っているホームからも降車させることがある。
両側にホームがある駅では、通常降車用のホームを始発列車の優先乗車ホームとして使用している事例がある。

バス

バスでも、ラッシュ時には増便がなされたり、急行バスが運行される系統もある。区間運行便や高校生・大学生などの通学など、需要を限定したノンストップの直通系統も存在する。


注釈

  1. ^ 電力のアンペア契約と同じで、一日で一分間だけ15アンペアのドライヤーを稼働させるためには、全体を通して15Aの契約が必要である。
  2. ^ 以前は大阪駅 - 京都駅間が快速になる列車が多かったが、高槻駅で「普通」・「快速」を切り替える列車が増え、2010年3月13日改正では朝のみになっている。また、1995年6月11日までは神足駅(長岡京駅)は通過していた。
  3. ^ ただし、東武の日比谷線直通用車両は東京メトロと同じ18m車両であり、また5扉車もあった。
  4. ^ 通勤五方面作戦の対象路線のうち、中央線の三鷹駅以西の高架工事が現在進行中である。(詳細は「通勤五方面作戦」の項を参照)。
  5. ^ 日本では、大戦直後の運行状況が極度に悪化した一時期に、食料の買い出しを目的に、都市部から郊外の農村部へ向かう列車でこのような光景が見られた。

出典

  1. ^ 混雑率データ(平成28年度) - 国土交通省
  2. ^ 山田祥平のRe:config.sys - Impress PC Watch、2005年5月6日
  3. ^ Let'snoteシリーズ新製品発表会〜耐加重量100kgを実演 - Impress PC Watch、2005年4月26日
  4. ^ CNN.co.jp : 東京の「通勤地獄」、香港の裏通り カメラがのぞいた大都市生活の実態 - (1/3)
  5. ^ 混雑率の推移 - 国土交通省
  6. ^ 時差通勤を 国鉄、呼びかけ『朝日新聞』1970年(昭和45年)11月7日夕刊 3版 11面
  7. ^ 列車の屋根、もう乗れません 事故死防止へ裁判所命令―バングラ:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2022年7月23日閲覧。
  8. ^ AFP/Ambreen Ali (2008年6月27日). “混雑で1日平均12人が死亡、ムンバイの通勤列車”. 2010年3月30日閲覧。


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