コウヤマキ
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分布・生態
日本固有種であり、本州(福島県北西部、中部地方以西)、四国、九州(宮崎県まで)に散在的に分布する[3][12][18][21]。酸性土壌を好み、木曽川沿いの山地、紀伊半島の高野山や大台ケ原、四国の面河渓など中央構造線沿いの温帯から暖帯の標高 700 m 近辺の山地の岩場に多く、モミ、ツガ、クロベ、トガサワラ、ツクバネガシ、アラカシなどと混生する[12][21][19][26](図5)。暗い林床でも実生は生育できるが、土壌が露出したギャップを好む[22]。韓国に分布するとの記述もあるが[27]、これは栽培個体に由来すると考えられている[28]。
保全状況評価
国際自然保護連合 (IUCN) のレッドリストでは、コウヤマキは近危急種(NT)に指定されている[1]。古くから保護されてきたので現代に至って多いことになった[29]。中でも大木が多く、高野山ではツガと共に尾根筋に多く、他の樹種に比べて伐採されにくかったことも幸いしたとも言える[29]。
日本全体としては絶滅危惧等の指定はないが、日本の各都道府県では、以下のレッドリストの指定(統一カテゴリ名)を受けている(2022年現在)[30]。
宮城県大崎市の「祇却寺のコウヤマキ」(図6)と愛知県新城市の「甘泉寺のコウヤマキ」は国の天然記念物に指定されている[31]。他にも県や市町村指定の天然記念物とされている例もある[32][33][34]。
人間との関わり
材
材は耐水性に優れ、風呂桶、手桶、漬け物桶、味噌桶、寿司桶、飯櫃、流し板などに用いられる[35][36][37][26]。ヒノキに比べて香りが少ないため、食料品を入れる器具に向いている[26]。建築材としても使われ、また変色や腐蝕が少ないため外壁用の板材にも適している[26]。耐水性があるため和船の用材ともされた[26]。ただし蓄材量が少なく、高価である[26]。また樹皮は槙肌(槇皮、まいはだ、まきはだ)とよばれ、舟や桶、井戸の壁などの水漏れを防ぐ充填材に使われる[36][26][38][39]。
木質は柔らかく、木理は通直で肌目は精、加工は容易[36][26]。心材と辺材の境界はやや明瞭で心材は淡黄褐色、辺材は乳白色である[36][26]。成長が遅いため、年輪の幅が狭い[36]。早材と晩材の移行は緩やかで晩材幅は非常に狭い[20]。気乾比重は0.35–0.50[36]。針葉樹としては、硬さは中庸[36]。
木曽地方に産する5種の良木を「木曽五木」というが、ヒノキ、アスナロ、ネズコ、サワラとともにコウヤマキが含まれる[40]。また高野山では、寺院の建築用材として重要なスギ、ヒノキ、アカマツ、モミ、ツガおよびコウヤマキが「高野六木」に選定されている[41]。
古代日本においても材として重要な樹種であり、『日本書紀』において棺の有用材としてコウヤマキが記されている[19]。実際に古墳時代前期の竪穴式石室に埋葬された木棺(割竹形木棺、舟形木棺)は、コウヤマキ製のものが多い[19][43](図7)。またコウヤマキが自生しない朝鮮半島でも、百済の武寧王の棺にコウヤマキが使われており、古代の日本と朝鮮半島の交流を示している[19]。
植栽
樹形が美しいため、神社、寺院、庭園などに植栽される[3][35][36](下図8)。世界各地で観賞用に植栽されるが、生育には湿度・温度が高い夏と降水量が多いことを必要とする[21][22]。日本の林学者・造園学者である本多静六は、コウヤマキとヒマラヤスギ、ナンヨウスギを世界三大庭園樹とした[12][44][45]。
その他
高野山で真言宗を開いた空海は、修行の妨げになるとして高野山での花や果樹などの栽培を禁じていた[46]。そのため、仏に供える花の代用としてコウヤマキが用いられることがある[46](図9)。江戸時代に成立した『和漢三才図会』(1712年)には、「高野槙は紀州高野山より出づ、人その小枝を折り仏前に供する故に未だに大木を見ず」と記している[29]。常緑樹の小枝を神仏に捧げることはあらゆる宗教で共通しており、高野山の場合はコウヤマキが最も都合がよく、トゲもなく扱いやすいことも使われた理由であろうと植物学者の辻井達一は述べている[29]。
岐阜県中津川市[47]、和歌山県高野町[48]、島根県吉賀町[49]、宮崎県西米良村[50]では、コウヤマキを自治体の木としている[51]。
2006年(平成18年)9月6日に誕生した秋篠宮家の悠仁親王のお印(皇族個人のシンボル)はコウヤマキである[52]。
発毛剤開発の研究の副産物として、コウヤマキのエタノール抽出物に抗菌効果があることが見つかり[53]、これを利用した歯磨き用ジェルなどオーラルケア用品が販売されている[54]。
注釈
- ^ コウヤマキ科は、ヒノキ科、イチイ科などとともにヒノキ目に分類されることが多いが[2][3][4]、マツ科(およびグネツム類)を含む全ての球果類(針葉樹)からなる広義のマツ目に分類することもある[5]。
- ^ a b c d マキ、ホンマキ、クサマキがイヌマキ(マキ科)を意味することもある[13][15][16]。
- ^ "雄花"ともよばれるが、厳密には花ではなく小胞子嚢穂(雄性胞子嚢穂)とされる[23]。雄性球花や雄性球果ともよばれる[24][25]。
- ^ "雌花"ともよばれるが、厳密には花ではなく大胞子嚢穂(雌性胞子嚢穂)とされる[23][24]。送受粉段階の胞子嚢穂は球花とよばれ、成熟し種子をつけた雌球花は下記のように球果とよばれる[24]。
- ^ 2022年現在では、スギ科はヒノキ科に含められている[2]。
出典
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