フッベーザとは? わかりやすく解説

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フッベーザ

(chalamit から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/28 21:53 UTC 版)

フッベーザアラビア語: خبيزة; 英語: Khobeizeh, khubēzza, Khubbaizeh, Khubeza, khobeza; ホッベーゼフベイザフベザ; ヘブライ語: חֲלָמִית, chalamit; ハラミット)は、野生食用植物を使った中東レバント地域の伝統的な料理であり、ヨルダンレバノンシリアエジプトシナイ半島、そして特にパレスチナ郷土料理のひとつである[1][2]

この料理に使われる野草ゼニアオイ属の植物自体もフッベーザと呼ばれ、ミナミフランスアオイ英語版[3][4](学名:Malva nicaeensis All.[5])やウスベニアオイ[6][注 1]Malva sylvestris L.[8])などが含まれる[9]

フッベーザは採集が行われる地元では親しまれている一方、質素な家庭料理と考えられており、客人のもてなしに振る舞われることはあまりない[2]

語源

アラビア語名のkhubeiza(フッベーザ)は、小さなパンを意味する。これは、この植物のやはり食用になる平たく丸い種子の形が、アラブ世界平たいパンのようであることに由来する[10]

調理法

フッベーザは葉や茎が若いうちに採集し、良く洗ったあとぶつ切りにし、刻んだタマネギニンニクと共にオリーブオイルで炒め、塩で味付けをする。調理後の盛り付けの際レモン汁を搾りかけ、温かいうちに提供される。唐辛子で飾ることも多く、ホブズグリーンオリーブ、そしてラブネ(水切りヨーグルト)を添えて食されることが多い[1]。オリーブオイルの代わりにバターを使ったり、少量の水やコショウも加える場合もある[11]。またアレンジとしてレンズマメトマトを加えることもある[12]

その他の使用例

フッベーザはブドウの葉の代用として使用できる。

葉菜としてのフッベーザはブドウの葉と同様に使用できるため、ワラク・ダワーリのぶどうの葉の代わりにスパイスで味付けされたや肉を巻いたり[13]、詰め物料理の薬味にとして使用される[14]スープに具材として加えたり、炒めてキャラメル化したタマネギとともに煮込みダンプリング入りのシチューにしたりもする[2]。またラバテラ・クレティカ英語版Lavatera cretica L.〈英名のCretan mallowの意味はクレタアオイ〉)の種類は、スクランブルエッグオムレツに混ぜると大変美味だとされる[15][16][17]。生でも食され、サラダのようにレモン汁とオリーブオイルで和えられたり、オリーブのピクルス、生タマネギ、ホブスと共に食されることもある[17]

野草としてのフッベーザ

フッベーザはホウレンソウケールの間のような味がするとされ[2]鉄分が豊富でビタミンACを含むため栄養価が非常に高く、ホウレンソウと同等かそれ以上の栄養価を含んでいる[13][18]。薬用効果もあるとされ、伝統薬用植物として整腸鎮咳に使用されていた[5]

冬の雨が降った後の2月から4月に芽吹く春の味覚であるが[2][13]、春以外の季節用に自然乾燥して保存することも行われる[17]

ヨルダン川西岸地区パレスチナ人を対象に行われた調査では、味覚的に評価の高い野生のハーブおよび葉菜として頻繁に挙げられた上位5種は、好まれる順に、シリアンオレガノ英語版ザアタルに使用される)、ギリシャセージ英語版、フッベーザ(ウスベニアオイ)、シクラメン、およびアックーブ英語版(通常Gundelia tournefortiiを指す)であった[19]

野生食用植物の利用に対する需要は年々減少している。現代西洋的なライフスタイルの影響により食習慣が変化していることから、野草を識別したり、採集したり、調理・加工するために必要な伝統的知識を若い世代に受け継いでいく習慣を失いつつある。大規模農業の発展に伴い栽培された農産物を容易に入手になったことや、中高年層の多くが野生食用植物の採集を過去の貧困の象徴としてスティグマを感じていることも需要の減少と伝統の継承喪失に拍車をかけている[20]

また、過放牧、農地拡大、過剰採集、無秩序な野焼き、薪の過剰採取などが、野生食用植物種の生育環境への脅威となっている[21]

パレスチナにおいては、イスラエルの占領のため採集が可能な野草の生息地域の縮小と、入植地周辺を警備するイスラエル兵や武装入植者による暴行の脅威、イスラエル政府による野生食用植物採集禁止令[注 2]などからも伝統習慣が脅かされている[13][2][23]

ゴラン高原ドルーズ派の料理は、ほぼシリア料理英語版なぞらえたものだが、地元で採れる食材としてフッベーザを加えひと工夫加えることもある[24]

ヘブライ聖書諸書に含まれるヨブ記(6章6節)の中でフッベーザは触りたくないほど味気ないものとして描写されており[10]、2020年まで多くの野草の採集禁止令もあったこともあり、イスラエルではあり余るほど自生するもののあまり活発に採集はされては来なかった。が、近年では一部の間ではこの野草はグルメ的な地産食材として扱われ、有名レストランでフッベーザを使った料理が提供されている[13]

救荒植物として

第一次中東戦争においてエルサレムが包囲され物流が滞った際、ユダヤ人住人たちはフッベーザを採集することで足りない食料の埋め合わせし、それでさまざまな料理を調理することで包囲を乗り切った[10]

2023年10月にパレスチナ・イスラエル戦争が発生すると、軍事封鎖下のパレスチナのガザ地区では搬入される救援物資の量が制限され、住民たちは食料危機を5段階で表す総合的食料安全保障レベル分類英語版(IPC)において最高レベルであるフェーズ5である壊滅的な飢餓、つまり飢饉英語版状態に置かれていると、2024年のスーダンに続き世界で5例目のフェーズ5への引き上げ報告を受けた[13][25][26]。それに先駆け、食料が枯渇し、高値で売買されるようになると、ガザ地区の住民たちは飢えを凌ぐためフッベーザの採集を始め、入手出来なくなった農作物のブドウの葉やキャベツ、そしてモロヘイヤの代わりにフッベーザを利用した[2][13]。同様に不足している燃料が無くても生でも食せるほか、木材などの燃料が入手できれば具の少ないスープにすることも出来た[2]。採集は女性や子供が担ったが、フッベーザが自生しているのはイスラエルとの境界に近い戦闘最前線でもあるガザ地区の周縁部に多く、採集は危険が伴うものだった[13]。過剰採集でフッベーザも枯渇してしまうことを住民は危惧し、また危険を冒して採集したフッベーザでも、深刻な飢饉に対して一時しのぎの救済であることも懸念された[13][27]。 住民たちがフッベーザを食している様子はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通して世界に伝えられた[13]

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ この種には園芸種も含まれるので[7]、全てのウスベニアオイが食用に向いている訳ではない。
  2. ^ 2020年、採集禁止令は採集上限などの制限があるものの緩和された[22]

出典

  1. ^ a b Khobeizeh | Traditional Vegetable Dish From Palestine | TasteAtlas”. www.tasteatlas.com. 2025年8月18日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h “To Battle Wartime Hunger, Gazans Turn to a Humble Leafy Green” (英語). New York Times. (2024年4月7日). https://www.nytimes.com/2024/04/07/world/middleeast/gaza-hunger-food-khobeza.html 2025年8月19日閲覧。 
  3. ^ ゼニアオイ Malva mauritiana アオイ科 Malvaceae ゼニアオイ属 三河の植物観察”. mikawanoyasou.org. 2025年8月18日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司; 梶田忠 (2003年). “検索結果詳細表示: Malva nicaeensis All.”. BG Plants 和名-学名インデックス (YList). 2025年8月18日閲覧。
  5. ^ a b Malva nicaeensis Bull Mallow PFAF Plant Database”. pfaf.org. 2025年8月18日閲覧。
  6. ^ 米倉浩司; 梶田忠 (2003年). “検索結果詳細表示: Malva sylvestris L.”. BG Plants 和名-学名インデックス (YList). 2025年8月18日閲覧。
  7. ^ ウスベニアオイ Malva sylvestris アオイ科 Malvaceae ゼニアオイ属 三河の植物観察”. mikawanoyasou.org. 2025年8月18日閲覧。
  8. ^ Malva sylvestris Mallow, High mallow, French Hollyhock, Common Mallow, Tree Mallow, Tall Mallow PFAF Plant Database”. pfaf.org. 2025年8月18日閲覧。
  9. ^ Ali-Shtayeh et al. 2008, p. 13.
  10. ^ a b c Mallow” (英語). Jewish Virtual Library. 2025年8月19日閲覧。
  11. ^ Dalman 2020, p. 342.
  12. ^ Bailey & Danin 1981, p. 155.
  13. ^ a b c d e f g h i j Zbeedat, Nagham (2024年3月6日). “Khubeza, the Wild Plant Palestinians in Gaza Are Foraging for Amid Soaring Hunger and War” (英語). Haaretz. 2025年8月18日閲覧。
  14. ^ Shmida 2005, p. 300.
  15. ^ Shmida 2005, p. 315.
  16. ^ Ḳrispil 1985, pp. 680–687 (s.v. מעוג).
  17. ^ a b c Ali-Shtayeh et al. 2008, p. 6.
  18. ^ Basheer et al. 2021, p. 1294.
  19. ^ Ali-Shtayeh et al. 2008, p. 7.
  20. ^ Ali-Shtayeh et al. 2008, p. 12.
  21. ^ Ali-Shtayeh et al. 2008, p. 11.
  22. ^ Zafrir, Rinat (2020年3月12日). “After Decades, Israel Permits Picking of Plant Popular in Arab Kitchens” (英語). Haaretz. 2025年8月19日閲覧。
  23. ^ “In Jumana Manna’s Film, a Wild Plant Crosses the Political Line” (英語). New York Times. (2022年9月29日). https://www.nytimes.com/2022/09/29/arts/design/jumana-manna-film-foragers-review.html 2025年8月19日閲覧。 
  24. ^ Kessler, Dana (2019年11月15日). “A Taste of Druze Cuisine” (英語). Tablet Magazine. https://www.tabletmag.com/sections/food/articles/taste-of-druze-cuisine 
  25. ^ ガザ市の飢饉は「人類の失敗」と国連事務総長、専門機関が最高レベルの危機を報告”. BBCニュース (2025年8月23日). 2025年8月23日閲覧。
  26. ^ 森岡みづほ (2025年8月22日). “ガザの50万人以上が「飢饉」 最も深刻な状況、世界で5例目の認定”. 朝日新聞. 2025年8月23日閲覧。
  27. ^ Issa, Mahmoud (2024年3月26日). “Gaza's hungry eat wild plant with no aid relief in sight” (英語). Reuters. https://www.reuters.com/world/middle-east/gazas-hungry-eat-wild-plant-with-no-aid-relief-sight-2024-03-25/ 2025年8月19日閲覧。 

参考文献

関連図書

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