IV型線毛
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/10/19 16:10 UTC 版)
IV型線毛はグラム陰性菌や古細菌に広く存在する。 役割としては,付着や宿主への感染にはたらくもの、twitching運動やDNAの取込みにはたらくものがある。構造としては、細胞膜から生じ、外膜を貫通して、細胞外へ伸びた毛であり、長さ約2-10 µm、径約7 nmで、内部は中空にはなっていない。線毛全体はフレキシブルで、先端は付着性である。II型分泌装置によって形成され、PilTと呼ぶATPアーゼによって線毛は細胞膜内に引き込まれる。 淋菌Neisseria gonorrhoeaeや緑膿菌Pseudomonas aeruginosaでは、IV型線毛は宿主への感染、twitching運動などにはたらいている。粘液細菌Myxococcus xanthusでは、滑走運動を起こしている。twitching運動するシアノバクテリアSynechocystisにも同様の線毛があり、その運動やDNAの取込みに必須である。線毛の先端は周囲の物体に付着し、線毛の根元が細胞内に引き込まれることで、細胞が周囲の物体に引き寄せられるという。このため、線毛による運動は物体表面でのみ起きる。この点では、鞭毛による遊泳運動とは本質的に異なる運動である。DNAなどを細胞内に取り込むときも、この線毛の引き込み運動が利用されるという。なお、twitching運動は、進行方向や運動速度が頻繁に変化する特徴をもつ。 粘液細菌Myxococcus xanthusの滑走運動はS運動(social motility)とA運動(adventure motility)が知られている。前者は、柔らかい寒天の表面を細胞集団で移動する運動でIV型線毛がかかわっている。桿状の細胞の一方の末端にのみ数本のIV型線毛を生じていて、となりの細胞のIV型線毛に付着したり、細胞外多糖などに接着し、引き込み運動によって線毛を生じている末端方向へ前進運動する。A運動は、硬い寒天の表面を単独細胞で移動する運動で、そのしくみはまだよくわかっていない。どちらの運動も数分間で向きを180度変える往復運動であり、進行方向が反転するとき、これまで生じていた末端から線毛は消失し、反対側の末端に新たに線毛が形成される。 腸管病原性大腸菌の桿状細胞の両極に生じるIV型線毛は集まって束状線毛(BFP, bundle-forming pilus)を形成する。これによって小腸の上皮にコロニーを形成する。その主要ピリンはbundlinという。プラスミド上のbfpオペロンにある14個の遺伝子からつくられる。 グラム陽性菌には、IV型線毛はないが、IV型線毛のホモログの遺伝子群は存在する。以下の形質転換用偽線毛の項目を参照。 古細菌のIV型線毛についてはあまり研究が進んでいないが、古細菌の共通祖先はIV型線毛の遺伝子を持っていたようである。なお、古細菌の鞭毛はIV型線毛とよく似た遺伝子によってつくられている。
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