2000年代以降の状況
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/04 14:58 UTC 版)
その後も、競技そのものの魅力を伝える作品、競技をとりまく登場人物の日常や個々の内面を描く作品などといったスポーツ漫画の傾向は続いている。より日常生活に立脚した作品が主流となり、貧富の格差による対立軸に基づく上昇志向や、それを実現させるための過度の根性や努力といった要素が描かれることは少ない。 2003年から『月刊アフタヌーン』で連載されている野球漫画『おおきく振りかぶって』(ひぐちアサ)はスポーツ漫画の世界にはじめて関係主義を全面的に導入した作品と評されており、才能や努力よりも先に他者との関係性が第一にあり、チームメイト同士や周囲を取り巻く人々の細やかな日常や心理描写が描かれた。精神科医の斎藤環は『おおきく振りかぶって』以降に登場した作品のひとつで、2006年から『イブニング』で連載されているバレーボール漫画『少女ファイト』(日本橋ヨヲコ)の傾向について「『スポ根』とは別の意味での、きわめて勁い精神性が存在する。それはまず何より『他者への配慮』という形で現れる」と評し、かつてのスポ根における精神性と明確に区別している。また、多くの野球漫画を発表している三田紀房は「今の読者にかつてのスポ根の情念は通じない」と明言し、自身の作品『砂の栄冠』では「多くの人々の支えで主人公が才能を開花させる。他者とのコミュニケーションと関係性を描いた上で感動をもたらしたい」と語った。 一方、1990年代後半から少年漫画の世界では機転や才能を伴った作品が主流となっており、スポーツ漫画においても努力自体が勝敗を決するのではなく、機転や才能を伴ってはじめて効果を発揮するものとして描かれる傾向がある。精神科医の熊代亨はその代表例として、2007年から『週刊少年マガジン』で連載されたテニス漫画『ベイビーステップ』(勝木光)を挙げている。この作品では主人公が「努力を効率化させる才能」を持つ人物として描かれるなど、努力の位置づけが従来のスポ根とは異なっている。そのため、熊代は機転や才能に裏付けられたものでない愚直な努力のみでは、成長なき格差社会の下で育った読者には説得力を持ち得なくなっていると指摘している。こうした傾向について精神科医の斎藤環は「これまでの反動なのか、努力の新しい捉え方が広がりつつある。努力に代わる言葉として宿命論や精神論とほど遠い言葉にすれば受け入れやすいのか」としている。 2021年にCOMIC BULL編集長の土屋萌からは、近年では漫画が1話で見切られやすい状況にある中、スポーツ漫画は盛り上がるまでに時間がかかるが「非現実的なレベルアップ」は受け入れられない傾向にあるため難易度が上がり、スポ根に限らずスポーツ漫画自体が減少しているという意見がある。
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