長所・短所とジレンマ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 08:28 UTC 版)
予知のジレンマ 地震が起こった 地震が起こらなかった 警報を出した 被害が軽減される 誤報による損失、混乱が生じる 警報を出さなかった 大きな被害が出る ― しきい値(赤の破線)を下げると被害は減るが、誤報のリスクが高まる。 地震予知が可能となった場合のメリットや生じるであろう問題を論じる試みは、地震予知に楽観的な見通しがあった1970年代以降に行われた。 日本では、大規模地震対策特別措置法が制定された1978年(昭和53年)前後に、警報に伴う混乱の問題が議論されたほか、静岡県は被害想定の中で予知された場合と予知されなかった場合の経済損失や人的被害を明記している。 アメリカ合衆国では、1975年にアメリカ科学アカデミーが発行した報告書『Earthquake Prediction and Public Policy』の中で、メリットとデメリット、公平性の問題、法的問題や経済的問題などが詳しく検討されている。この報告書では、ある仮定に基づいて行われた推定ではあるが、予知情報が発表されることで、経済活動が低下したり、地価が下落したり、住宅に対する損害保険の機能が低下して加入制限等に至ったり、地震が予想される地域で疎開や人口減少が起きたりする、といった様々な影響が生じる可能性が指摘されている。こうした影響のうちのいくつかは、不正確な地震予知情報が発表された1970年代後半-1980年代前半のギリシャ、メキシコ、ペルーで実際に発生している(#社会の混乱参照)。 例えば、静岡県の東海地震第3次被害想定では、予知できた場合、直接的・間接的な被害を合わせて予知できなかった場合の1割にあたる約2兆8,000億円が軽減されるほか、死者は約75%減少すると想定されている。一方、東海地震の警戒宣言が発表された場合の経済的損失は、1994年日本総合研究所の報告によれば1日当たり約7,100億円と見積もられている。このように、予知にはメリットもデメリットもある。 ここで重要となるのが、予知の不確実性の問題である。大地震が起こる確率が、例えば2日間以内に80%という予測があるとすれば、それは警報を発するメリットが大きいと考えられるが、2日間以内に5%という予測だった場合は、デメリットが大きいので警報を発しないという判断に至るかもしれない。 確率論を単純に考えれば、2日間以内に5%という予測は、2日間で大地震が発生する確率は20分の1であるのに対して、地震が発生しない確率は20分の19と圧倒的に高い。警報を発するか発しないかのしきい値を下げることで、警報を出しやすくすれば地震による損失は軽減できるが、誤報だった場合の損失は逆に増加することになり、逆も然りである。 また他方では、予知可能という前提が認識として広がったことで、静岡県では東海地震予知の際の避難路・避難場所や放送設備の整備などに重点が置かれて、構造物の耐震化が進まず、一時期は周辺都県に比べて遅れる事態となった。1995年以降、静岡県は方針を転換し、地震対策を強化している。
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