配偶体型自家不和合性
配偶体型自家不和合性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/11 21:08 UTC 版)
「自家不和合性 (植物)」の記事における「配偶体型自家不和合性」の解説
配偶体型自家不和合性(gametophytic self-incompatibility, GSI)では、花粉の表現型は、花粉自体の半数性遺伝子型で決定される。これは比較的に良く見かける自家不和合性のタイプであり、ナス科・バラ科・オオバコ科・マメ科・アカバナ科・キキョウ科・ケシ科・イネ科で観察される。以下に、配偶体型自家不和合性について二つの異なったメカニズムについて詳細を記述する。 リボヌクレアーゼメカニズム ナス科の配偶体型自家不和合性の雌性決定要素は、1989年に発見された。引き続いて、バラ科・オオバコ科でも同じ遺伝子族のタンパク質が見つかった。早い時期から、これら遠縁の科における配偶体型自家不和合性の共通祖先が想定されていたが、系統学的研究および共通の雄性決定要素(SLF:S-locus F-box, SFB:S haplotype-specific Fbox protein)の発見によってそれらの相同性が明確になった。このメカニズムは約9,000万年前に生じ、全被子植物の約半数に影響を与えている祖先的な性質である。 このメカニズムでは、花粉管が花柱の約1/3の位置まで達したときに伸長停止が起きる。雌性決定要素であるリボヌクレアーゼ(S-RNase)は、雄性・雌性決定要素が同じハプロタイプの翻訳産物である場合に、花粉管内のリボソームRNA(rRNA)の分解をもたらし、花粉管伸長の阻害と花粉粒の致死を起こすのであろう。 SLF/SFBはF-ボックスタンパク質ファミリーの一種であると推定されている。F-ボックスタンパク質は一般的にユビキチンリガーゼとして機能する。SLF/SFBは、適合したS-RNase分子を認識し、RNaseをプロテアソームでの分解に送り込む事によって機能している可能性がある。 S-糖タンパク質メカニズム S-糖タンパク質が自家不和合性に関与するメカニズムはヒナゲシで詳しく調べられている。このメカニズムでは、花粉成長は、柱頭に花粉が付着して数分以内に花粉発芽が妨げられる。 雌性決定要素は、柱頭で発現し細胞外へ分泌される分子量の小さいタンパク質である。雄性決定要素は同定されてはいないが、おそらくはある種の細胞膜に局在するレセプターであろう。雄性および雌性決定要素の相互作用は、花粉管への細胞間シグナル伝達を決定し、結果として花粉管へのカルシウム陽イオンの流入を起こす。これは花粉管の伸長にとって重要である花粉管の細胞内カルシウムイオン濃度勾配に影響を与える。カルシウムイオンの流入は1-2分のうちに花粉管の伸長を阻害する。この段階では花粉抑制は可逆的であり、ある種の操作によって伸長を再開し、胚珠の受精を行わせることもできる。 引き続いて、花粉管伸長に必要なピロリン酸化酵素であるp26サイトゾルタンパク質が、リン酸化によって不活性化される。おそらく、そのリン酸化はp26のタンパク質の組み立てを阻止することになる。花粉管細胞の骨格において、アクチンフィラメントの脱重合反応および再構築が起きる。受粉から10分以内に、花粉は死に至る過程に向かう。3-4時間経過後に、花粉のDNAの断片化が始まり、最終的(10-14時間後)には花粉の細胞はアポトーシス的に死ぬ。
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