道教における龍王
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/01 17:49 UTC 版)
中国では、仏教の八大竜王や八部衆の一つである龍と、中国古来の龍の観念が習合して、インド伝来の龍王とはまた別の、四海龍王などの道教の龍王信仰が定着した。古代中国で龍といえば、天地を往来する霊獣であり、瑞祥の生きものである四霊の一つであり、五行説の東方・木行・青に当てはめてられる四神の一つ「青龍」であった。これに対し龍王は、漢代までの文献にはあらわれない、漢訳仏典成立後に広まったと考えられる概念である。龍王はサンスクリットのナーガラージャの漢訳であるが、中野美代子の指摘するところでは、龍王の語は竜族の頭(かしら)というよりも特定の地域に分封された王という意味合いが強い。龍王は特定の土地と結びついた存在であるとして、中野は玄奘の『大唐西域記』を引き合いに出している。中国では、民間の龍王信仰が盛んになると、東西南北中央の五つの方角の龍王である五方龍王や、四海龍王、四天龍王のほか、各地の河や湖に龍王が配され、池や井戸などにも龍王が棲んでいるとされた。 龍王は水を司り、海龍王は津波を起こしたり、川や湖の龍王はそれぞれの土地の雨や天候を支配しているとされた。龍が雨を司るという観念は漢代にはすでに確立していたことが『淮南子』等から窺知される。董仲舒の著とされる『春秋繁露』「求雨篇」には、土で作った大龍と小龍を神壇に置くなどして龍を祀るという具体的な雨乞いの作法が記されている。道教研究者の坂出祥伸は、このような民間の祈雨儀礼は道教に取り入れられ、さらには密教の請雨修法にも影響を与えたのではないかと考察している。例えば唐代の成立とされる阿地瞿多訳『陀羅尼集経』巻十一の「祈雨壇法」は、壇の四方に泥で作った龍王像を置き、壇の内外に泥の小龍を多数置くと説いており、このような密教の修法は、前述の『春秋繁露』に記された土で造った大龍・小龍を置くという雨乞いの方法を受け継いでいると坂出は指摘する。道教においては『請雨龍王経』『大雨龍王経』などの請雨経典に数多くの龍王の名が挙げられている。『太上洞淵神呪経』第十三巻「竜王品」にも天の龍を招いて雨を降らせる呪法が説かれ、四海の龍王と中央の大水龍王の名がみえる。民間の龍王信仰においても、かつては中国のあちこちに龍王廟があり、農村では龍王に雨を祈願する祭祀が行われた。
※この「道教における龍王」の解説は、「竜王」の解説の一部です。
「道教における龍王」を含む「竜王」の記事については、「竜王」の概要を参照ください。
- 道教における龍王のページへのリンク