道徳感情論
道徳感情論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/05 00:01 UTC 版)
詳細は「道徳情操論」を参照 『道徳感情論』は、スミスがグラスゴー大学の教壇に立っていた時期に書かれた本であり、1759年に出版された。スミスは生涯に『道徳感情論』と『国富論』という2冊しか書物を遺していないが、『国富論』が経済学に属する本であるのに対して『道徳感情論』は倫理学に関する本とされる。 今日のような秩序だった社会において人々は法の下で安心して安全な生活を送ることができるが、その根幹には人間のどのような本性があるのだろうか。『道徳感情論』において、スミスはこの問題に応えようと試みた。スミスの師であるフランシス・ハッチソンがこうした社会秩序が人間のひとつの特殊な感情に起因すると考えたのに対し、スミスは社会秩序が人間のさまざまな感情が作用し合った結果として形成されると考えていた。『道徳感情論』の原題The Theory of Moral SentimentsのSentimentsが単数形ではなく複数形であるのも、こうしたスミスの思想が反影されている。 『道徳感情論』においてスミスが社会秩序の要因と考えた感情とは、端的に言えば同感(英: symphathy)である。スミスが重要視した同感とは、他人の感情および行為の適切性(英: property)を評価する能力であり、こうしたスミスの思想は現代の神経科学者や行動経済学者からも注目されている。 スミスは、同感を通じて人々が自身の感情や行為が評価されていることを意識し、是認されることを望み否認されることを嫌っていると考えた。しかし、現実社会にはしばしば他人の間にも利害対立があるから、人々が自身の感情や行為の適切性を測るためには利害対立から独立した中立的な基準が必要である。スミスはこの基準を公平な観察者(英: impartial spectator)と呼び、人々が具体的な誰かの視線ではなく胸中の公平な観察者の視線を意識しながら行動していると考えた。 ただし、偶然(英: fortune)の下では、公平な観察者の評価と世間の評価とが異なる場合がある。スミスはこのような不規則性(英: irregularity)が社会的に重要な意味があると考え、偶然の下で公平な観察者の評価を重視する行為者を賢人(英: wise man)、世間の評価を重視する行為者を弱い人(英: weal man)と呼んだ。人間は自己統制(英: self-command)によって胸中の公平な観察者の声に従おうとするが、激しい情念の下では自己欺瞞によって公平な観察者の声を無視しようとする矛盾した存在である。 『道徳感情論』は自愛心を主張するものとしてグラスゴー大学におけるスミスの後任者トマス・リードなどによって非難され、かつてはスミスの主著として読まれることも少なかった。
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