道徳感情論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/27 17:16 UTC 版)
道徳感情論 The Theory of Moral Sentiments |
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著者 | アダム・スミス | |
発行日 | 1759年4月12日 (遅くともこの日迄に) | |
発行元 | "printed for Andrew Millar, in the Strand; and Alexander Kincaid and J. Bell, in Edinburgh" | |
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『道徳感情論』(どうとくかんじょうろん、英: The Theory of Moral Sentiments)は、1759年に出版されたイギリスの哲学者・経済学者であるアダム・スミスによる道徳哲学(倫理学)に関する著作[1]。古い翻訳では『道徳情操論』(どうとくじょうそうろん)とも。
社会心理学・道徳心理学の先駆とも言える内容の著作であり、人間が「他者への想像力(imagination)・共感(sympathy)」を出発点として、「適切性(propriety)」「是認(approbation)」「判断力(judgement)」といった感覚を支える「道徳感情(moral sentiments)」を形成していく仕組みや、それに影響を与え得る様々な要素について、総合的に考察されている。
スミスのもう1つの主著『国富論 (諸国民の富)』とも内容的に関連している。
構成
以下の全7部から成る(最終第6版)。
- 第1部 - 行為(action)の適切性(propriety)について。- 全3篇。
- 第2部 - 利点(merit)と欠点(demerit)について、あるいは、報奨(reward)と罰(punishment)の対象(objects)について。- 全3篇。
- 第3部 - 我々自身の感情(sentiments)と行為(conduct)に関する我々の判断(judgements)の基礎(foundation)、および義務感(sense of duty)について。- 全6章。
- 第4部 - 是認(approbation)という感情(sentiment)に対して、効用(utility)がもつ効果(effect)について。- 全2章。
- 第5部 - 道徳的(moral)な是認(approbation)や否認(disapprobation)という感情(sentiment)に対する、慣習(custom)や流行(fashion)の影響(influence)について。- 全2章。
- 第6部 - 美徳(virtue)の特徴(character)について。- 全3篇。
- 第7部 - 道徳哲学(moral philosophy)の体系(systems)について。- 全4篇。
第1部
- 第1部 - 行為(action)の適切性(propriety)について。- 全3篇。
- 第1篇 - 適切性(propriety)という感覚(sense)について。- 全5章。
- 第1章 - 共感(sympathy)について。
- 第2章 - 相互共感(mutual sympathy)の喜び(pleasure)について。
- 第3章 - 自分たち自身(our own)との一致(concord)・不一致(dissonance)によって、他者(other men)の気持ち(affections)の適切性(propriety)・不適切性(impropriety)を判断(judge)する手法(manner)について。
- 第4章 - (同じ主題(subject)の続き。)
- 第5章 - 友好的(amiable)および尊敬的(respectable)な徳(virtues)について。
- 第2篇 - 適切性(propriety)と両立するさまざまな情念(passions)の程度について。- 全5章。
- 第1章 - 身体(body)に起源(origin)を持つ情念(passions)について。
- 第2章 - 想像力(imagination)の特定の作動(particular turn)や習慣(habit)に、起源(origin)を持つ情念(passions)について。
- 第3章 - 非社会的(unsocial)な情念(passions)について。
- 第4章 - 社会的(social)な情念(passions)について。
- 第5章 - 利己的(selfish)な情念(passions)について。
- 第3篇 - 行為(action)の適切性(propriety)をめぐる人間の判断(judgement)に及ぼす、繁栄(prosperity)と逆境(adversity)の効果(effects)について -- すなわち、後者よりも前者の状態にあるほうが、はるかに人間の是認(approbation)を得やすくなる理由は何か。- 全3章。
- 第1章 - 一般的(generally)に悲しみ(sorrow)への共感(sympathy)は、喜び(joy)への共感(sympathy)より、より鮮明な感覚(lively sensation)だが、主要関係者(the person principally concerned)に自然(naturally)に感じられるものよりは、はるかに不足している(short)ということ。
- 第2章 - 野心(ambition)の起源(origin)について、そして階級(ranks)の区別(distinction)について。
- 第3章 - 富者(the rich)や高位者(the great)を称賛(admire)し、貧しく劣った境遇の者(persons of poor and mean condition)を軽蔑(despise)・軽視(neglect)する気質(disposition)によって引き起こされる、我々の道徳感情(moral sentiments)の腐敗(corruption)について。
- 第1篇 - 適切性(propriety)という感覚(sense)について。- 全5章。
第2部
- 第2部 - 利点(merit)と欠点(demerit)について、あるいは、報奨(reward)と罰(punishment)の対象(objects)について。- 全3篇。
- 第1篇 - 利点(merit)と欠点(demerit)という感覚(sense)について。- 全5章。
- 第1章 - 感謝(gratitude)の適正な対象(proper object)と思えるものは何でも報奨(reward)に値すると思えるし、同様に、憤り(resentment)の適正な対象(proper object)と思えるものは何でも罰(punishment)に値すると思えるということ。
- 第2章 - 感謝(gratitude)と憤り(resentment)の適正な対象(proper objects)について。
- 第3章 - 恩恵(benefit)を授与(confer)する人の行為(conduct)に是認(approbation)が無いところでは、それを授受(receive)する者の感謝(gratitude)に共感(sympathy)はほとんど無い、そして逆に、災難(mischief)を為す人の動機(motives)に否認(disapprobation)が無いところでは、それを被害(suffer)する者の憤り(resentment)に共感(sympathy)は無いということ。
- 第4章 - (前章までの要約(recapitulation)。)
- 第5章 - 利点(merit)と欠点(demerit)の感覚(sense)の分析(analysis)。
- 第2篇 - 正義(justice)と善行(beneficence)について。- 全3章。
- 第1章 - それら2つの徳(virtues)の比較(comparison)。
- 第2章 - 正義(justice)の感覚(sense)について、悔恨(remorse)について、そして利点(merit)の意識(consciousness)について。
- 第3章 - 自然(nature)の構成(constitution)による功利(utility)について。
- 第3篇 - 運(fortune)が人間の感情(sentiments)に及ぼす影響(influences)について -- 行為(actions)の利点(merit)と欠点(demerit)を中心に。- 全3章。
- 第1章 - 運(fortune)の影響力(influence)の原因(causes)について。
- 第2章 - 運(fortune)の影響力(influence)の程度(extent)について。
- 第3章 - 感情(sentiments)の不規則性(irregularity)の究極原因(final cause)について。
- 第1篇 - 利点(merit)と欠点(demerit)という感覚(sense)について。- 全5章。
第3部
- 第3部 - 我々自身の感情(sentiments)と行為(conduct)に関する我々の判断(judgements)の基礎(foundation)、および義務感(sense of duty)について。- 全6章。
- 第1章 - 自己是認(self-approbation)と自己否認(self-disapprobation)の原理(principle)について。
- 第2章 - 称賛(praise)への、および称賛に値するもの(praise-worthiness)への愛好(love)について、また非難(blame)への、および非難に値するもの(blame-worthiness)への恐怖(dread)について。
- 第3章 - 良心(conscience)の影響力(influences)と支配力(authority)について。
- 第4章 - 自己欺瞞(self-deceit)の性質(nature)について、そして一般規則(general rules)の起源(origin)と使用(use)について。
- 第5章 - 道徳性(morality)の一般規則(general rules)の影響力(influences)と支配力(authority)について、そしてそれらが正当(justly)に神の法(the Laws of the Deity)として見做されるということ。
- 第6章 - 義務感(sense of duty)が我々の行為(conduct)の唯一の原理(sole principle)であるべき場合(cases)、また他の動機(other motives)と協働(concur)すべき場合(cases)。
第4部
- 第4部 - 是認(approbation)という感情(sentiment)に対して、効用(utility)がもつ効果(effect)について。- 全2章。
- 第1章 - 効用(utility)の心象(appearance)が全ての技芸(art)の生産物(productions)に付与(bestow)する美(beauty)について、そしてこの種の美(beauty)の広範な影響力(extensive influence)について。
- 第2章 - 効用(utility)の心象(appearance)が人間(men)の人柄(characters)や行為(actions)に付与(bestow)する美(beauty)について、またこの美(beauty)の知覚(perception)が、どの程度「是認(approbation)の原初的原理(original principles)」の1つと見做せるかについて。
第5部
- 第5部 - 道徳的(moral)な是認(approbation)や否認(disapprobation)という感情(sentiment)に対する、慣習(custom)や流行(fashion)の影響(influence)について。- 全2章。
- 第1章 - 我々の美(beauty)と醜(deformity)の観念(notions)に対する、慣習(custom)や流行(fashion)の影響(influence)について。
- 第2章 - 道徳感情(moral sentiments)に対する、慣習(custom)や流行(fashion)の影響(influence)について。
第6部
- 第6部 - 美徳(virtue)の特徴(character)について。- 全3篇。
- 第1篇 - 本人自身(his own)の幸福(happiness)に影響(affect)するかぎりでの個人(individual)の特徴(character)について、すなわち賢明さ(prudence)について。
- 第2篇 - 他人(other people)の幸福(happiness)に影響(affect)するかぎりでの個人(individual)の特徴(character)について。- 全3章。
- 第1章 - 各個人(individuals)が自ずと集団的な世話(care)や配慮(attention)へと促される順序(order)について。
- 第2章 - 各社会(societies)が自ずと集団的な善行(beneficence)へと促される順序(order)について。
- 第3章 - 普遍的(universal)な博愛(benevolence)について。
- 第3篇 - 自制心(self-command)について。
第7部
- 第7部 - 道徳哲学(moral philosophy)の体系(systems)について。- 全4篇。
- 第1篇 - 道徳感情(moral sentiments)の理論(theory)において検討(examine)されるべき問題(questions)について。
- 第2篇 - 徳(virtue)の性質(nature)について与えられてきたさまざまな説明(accounts)について。- 全4章。
- 第1章 - 徳(virtue)が適切性(propriety)に存在(consist)するという体系(systems)について。
- 第2章 - 徳(virtue)が賢明さ(prudence)に存在(consist)するという体系(systems)について。
- 第3章 - 徳(virtue)が博愛(benevolence)に存在(consist)するという体系(systems)について。
- 第4章 - 勝手気まま(licentious)な体系(systems)について。
- 第3篇 - 是認(approbation)の原理(principle)をめぐって形成(form)されてきたさまざまな体系(systems)について。- 全3章。
- 第1章 - 是認(approbation)の原理(principle)を自己愛(self-love)から導出(deduce)する体系(systems)について。
- 第2章 - 理性(reason)を是認(approbation)の原理(principle)とする体系(systems)について。
- 第3章 - 感情(sentiment)を是認(approbation)の原理(principle)とする体系(systems)について。
- 第4篇 - 道徳性(morality)に関する実践的規則(practical rules)を様々な著者(authors)が取り扱った方法(manner)について。
内容
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日本語訳
- 『道徳感情論』村井章子・北川知子訳、日経BP社〈日経BPクラシックス〉、2014年
- 『道徳感情論』高哲男訳、講談社〈講談社学術文庫〉、2013年
- 『道徳感情論』(上・下)水田洋訳、岩波書店〈岩波文庫〉、2003年
- 『道徳情操論』(上・下)米林富男訳、未來社、1969年
脚注
関連項目
外部リンク
- The Theory of Moral Semtiments (PDF) (英語) 原文
- The Theory of Moral Semtiments (PDF) (英語) 原文
- The Theory of Moral Semtiments (英語) 原文
道徳感情論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/05 00:01 UTC 版)
詳細は「道徳情操論」を参照 『道徳感情論』は、スミスがグラスゴー大学の教壇に立っていた時期に書かれた本であり、1759年に出版された。スミスは生涯に『道徳感情論』と『国富論』という2冊しか書物を遺していないが、『国富論』が経済学に属する本であるのに対して『道徳感情論』は倫理学に関する本とされる。 今日のような秩序だった社会において人々は法の下で安心して安全な生活を送ることができるが、その根幹には人間のどのような本性があるのだろうか。『道徳感情論』において、スミスはこの問題に応えようと試みた。スミスの師であるフランシス・ハッチソンがこうした社会秩序が人間のひとつの特殊な感情に起因すると考えたのに対し、スミスは社会秩序が人間のさまざまな感情が作用し合った結果として形成されると考えていた。『道徳感情論』の原題The Theory of Moral SentimentsのSentimentsが単数形ではなく複数形であるのも、こうしたスミスの思想が反影されている。 『道徳感情論』においてスミスが社会秩序の要因と考えた感情とは、端的に言えば同感(英: symphathy)である。スミスが重要視した同感とは、他人の感情および行為の適切性(英: property)を評価する能力であり、こうしたスミスの思想は現代の神経科学者や行動経済学者からも注目されている。 スミスは、同感を通じて人々が自身の感情や行為が評価されていることを意識し、是認されることを望み否認されることを嫌っていると考えた。しかし、現実社会にはしばしば他人の間にも利害対立があるから、人々が自身の感情や行為の適切性を測るためには利害対立から独立した中立的な基準が必要である。スミスはこの基準を公平な観察者(英: impartial spectator)と呼び、人々が具体的な誰かの視線ではなく胸中の公平な観察者の視線を意識しながら行動していると考えた。 ただし、偶然(英: fortune)の下では、公平な観察者の評価と世間の評価とが異なる場合がある。スミスはこのような不規則性(英: irregularity)が社会的に重要な意味があると考え、偶然の下で公平な観察者の評価を重視する行為者を賢人(英: wise man)、世間の評価を重視する行為者を弱い人(英: weal man)と呼んだ。人間は自己統制(英: self-command)によって胸中の公平な観察者の声に従おうとするが、激しい情念の下では自己欺瞞によって公平な観察者の声を無視しようとする矛盾した存在である。 『道徳感情論』は自愛心を主張するものとしてグラスゴー大学におけるスミスの後任者トマス・リードなどによって非難され、かつてはスミスの主著として読まれることも少なかった。
※この「道徳感情論」の解説は、「アダム・スミス」の解説の一部です。
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