造血幹細胞ソースとして各ドナーソースとの比較
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 03:05 UTC 版)
「臍帯血」の記事における「造血幹細胞ソースとして各ドナーソースとの比較」の解説
血液の元になる造血幹細胞は成人では骨髄の中に存在し、1960年代から白血病などの治療で失われた造血機能再建に骨髄移植が行われてきた。その後研究が進み、2012年現在、造血幹細胞のソースとしては骨髄の他に、末梢血動員幹細胞、臍帯血がある。 臍帯血移植は骨髄移植や末梢血動員幹細胞移植と比べると初期の治療関連死は多いが、再発率と移植片対宿主病(GVHD)の発症頻度は低く、全体としては無病生存率はほぼ同じである。 末梢血動員幹細胞移植 成人に顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を投与するとドナーの造血幹細胞が刺激されて、血液(末梢血)に大量の造血幹細胞が出現する。その大量の造血幹細胞が出現しているドナーの血液を採取し造血幹細胞を含む成分のみを取り出し、残りの赤血球や血漿はドナーに戻す。末梢血動員幹細胞移植では骨髄からよりもさらに多くの造血細胞が取れ造血の回復が早いというメリットがあるが、ドナーにG-CSFの副作用の恐れがあることと、患者に慢性GVHDが強い傾向があるというデメリットもある。G-CSF投与で採取された幹細胞は分化した傾向の物が多く、一生にわたる超長期的な造血の維持が出来るかについては疑問がもたれている。 造血幹細胞は胎児の血液(末梢血)中にも存在するが、1980年代には臍帯(へその緒)および胎盤の胎児側血管のなかの血液中にも造血幹細胞が含まれることが明らかになった。臍帯血に含まれる造血幹細胞は成人の骨髄中の造血幹細胞より未熟で、つまりより若い細胞であることが確認されている。その為に一旦生着して血球の回復が軌道に乗れば成人から得た造血幹細胞よりも高い造血能力があると考えられている。また、臍帯血中のTリンパ球はより未熟で移植患者を異物と認識して増殖する力が弱く、その為にHLA型が完全一致していなくとも(成人から得た移植ソースに比べ)移植片対宿主病(GVHD)が重症化しにくいと考えられている。ただし、骨髄や末梢血動員幹細胞に比べると細胞数が少ないために幹細胞の生着不全のリスクがあること、造血の回復が遅いことが不利な点としてあげられている。 細胞数や造血の回復の早さ・生着率では、末梢血動員幹細胞>骨髄>臍帯血。細胞の若さでは、臍帯血>骨髄>末梢血動員幹細胞となる。慢性GVHDのリスクの大きさも末梢血動員幹細胞>骨髄>臍帯血となる。 骨髄移植と比べて臍帯血移植の利点と不利な点利点不利な点HLA不一致でも移植可能 ドナー探索に必要な時間が短く短期間で移植が可能 GVHDのリスクが少ない ドナー(新生児・母体)への負担が無い ドナー由来の感染症のリスクが少ない 生着不全の可能性 移植の経験・知見・観察期間が少ない 造血の回復が遅い 同一ドナーからの再移植・ドナーリンパ球輸注が不可能 ドナーに遺伝的疾患があった場合に伝播の可能性 -文献『三輪血液病学』p.834及び神田 善伸 編集『みんなに役立つ造血幹細胞移植の基礎と臨床』上巻、p.255を改変
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