質量・半径の関係と質量限界
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/14 00:25 UTC 版)
「白色矮星」の記事における「質量・半径の関係と質量限界」の解説
白色矮星の質量と半径の関係性は、エネルギー最小化の議論から導出することができる。白色矮星が持つエネルギーは、重力のポテンシャルエネルギーと運動エネルギーの和であるとみなすことで概算することができる。白色矮星の単位質量片の重力ポテンシャルエネルギー Eg は、おおむね −G M ∕ R と表すことができる。ここで G は万有引力定数、M は白色矮星の質量、R は白色矮星の半径である。 E g ≈ − G M R . {\displaystyle E_{g}\approx {\frac {-GM}{R}}.} 単位質量当たりの運動エネルギー Ek については、これは主に電子の運動に起因するものであるため、N p2 ∕ 2m と近似することができる。ここで p は電子の平均運動量、m は電子の質量、N は単位質量あたりの電子の数である。電子は縮退しているため、p は電子の運動量の不確かさである Δp で近似されるとして推定することができる。この値は、Δp Δx は換算プランク定数 ħ で近似できるとする不確定性原理によって与えられる。Δx は電子間の平均距離と同程度であり、これはおおむね n−1/3,すなわち単位体積あたりの電子の数密度の立方根の逆数となる。白色矮星に含まれる電子の数は N·M 個であり、また体積は R3 のオーダーで表されることから、n は N M ∕ R3 のオーダーの値となる。 単位質量当たりの運動エネルギー Ek について解くことで、以下の式を得る。 E k ≈ N ( Δ p ) 2 2 m ≈ N ℏ 2 n 2 / 3 2 m ≈ M 2 / 3 N 5 / 3 ℏ 2 2 m R 2 . {\displaystyle E_{k}\approx {\frac {N(\Delta p)^{2}}{2m}}\approx {\frac {N\hbar ^{2}n^{2/3}}{2m}}\approx {\frac {M^{2/3}N^{5/3}\hbar ^{2}}{2mR^{2}}}.} 白色矮星は、その合計エネルギー Eg + Ek が最小の時に平衡状態になると考えられる。この時点で運動エネルギーと重力ポテンシャルエネルギーは同程度であるはずなので、両者を等しいとみなすことでおおまかな質量と半径の関係を以下のように導出することができる。 | E g | ≈ G M R = E k ≈ M 2 / 3 N 5 / 3 ℏ 2 2 m R 2 . {\displaystyle |E_{g}|\approx {\frac {GM}{R}}=E_{k}\approx {\frac {M^{2/3}N^{5/3}\hbar ^{2}}{2mR^{2}}}.} これを半径 R について解くことで、次の式を得る。 R ≈ N 5 / 3 ℏ 2 2 m G M 1 / 3 . {\displaystyle R\approx {\frac {N^{5/3}\hbar ^{2}}{2mGM^{1/3}}}.} この式において、白色矮星の組成のみに依存する量である N および普遍定数を除くと質量への依存性のみが残り、質量と半径の間に以下の関係があることが分かる。 R ∝ M − 1 / 3 . {\displaystyle R\propto M^{-1/3}.} すなわち、白色矮星の半径は、その質量の三乗根の逆数に比例する。 この解析は運動エネルギーについて非相対論的な表式 p2 ∕ 2m を用いているため、非相対論的なものである。白色矮星内の電子の速度が光速 c に近い状況について解析する場合は、運動エネルギー p2 ∕ 2m を極端な相対論的近似である p c で置き換える必要がある。これを代入することで、以下の式を得る。 E k r e l a t i v i s t i c ≈ M 1 / 3 N 4 / 3 ℏ c R . {\displaystyle E_{k\ {\rm {relativistic}}}\approx {\frac {M^{1/3}N^{4/3}\hbar c}{R}}.} これが Eg と等しいとすると、R が消え、質量 M は以下のように書き表すことができる。 M l i m i t ≈ N 2 ( ℏ c G ) 3 / 2 . {\displaystyle M_{\rm {limit}}\approx N^{2}\left({\frac {\hbar c}{G}}\right)^{3/2}.} この結果を解釈すると、白色矮星の質量を増加させると半径は減少し、そのため不確定性原理により電子の運動量は増加、すなわち速度は増加することになる。この速度が光速 c に近づくにつれて相対論的な解析がより正確になり、白色矮星の質量は限界質量の Mlimit に近づくはずである。したがって、この限界質量 Mlimit、つまり1.4太陽質量よりも重い白色矮星は存在しないことになる。 白色矮星の質量半径関係と限界質量のより正確な計算のためには、白色矮星の物質の密度と圧力の関係を記述する状態方程式の計算を行う必要がある。密度と圧力が共に天体の中心からの半径の関数に等しく設定されている場合、静力学方程式と状態方程式の連立方程式を解いて平衡状態の白色矮星の構造を決めることができる。非相対論的な場合でも、半径は質量の三乗根の逆数に比例することが分かる:式(80)。相対論的な補正を行うと、質量が有限の値で半径がゼロになるように結果が変わる。この限界値はチャンドラセカール限界と呼ばれ、白色矮星が電子の縮退圧によって自らを支えられなくなる質量である。右のグラフはそのような計算の結果を示している。白色矮星の半径が質量に伴ってどう変化するか、非相対論的なモデル (青い線) と相対論的なモデル (緑の線) の両方が示されている。どちらのモデルも、白色矮星を静水圧平衡の状態にある冷たいフェルミ気体として扱っている。また電子あたりの平均分子量 μe は 2 として計算を行っている。グラフ中で、半径は太陽半径で、質量は太陽質量で規格化されている。 これらの計算は全て、白色矮星が自転していないことを仮定している。白色矮星が自転している場合、回転座標系における遠心力を考慮して静水圧平衡の方程式を修正する必要がある。一様に自転している白色矮星の場合、限界質量はわずかに大きくなるだけである。白色矮星の自転が非一様であり、また粘性を無視した場合は、1947年にフレッド・ホイルが指摘したように、白色矮星が静的平衡になることが可能な質量には限界値はなくなる。これら全てのモデル天体が動的に安定であるわけではない。
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