細胞周期の制御における役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/30 04:11 UTC 版)
「Smad」の記事における「細胞周期の制御における役割」の解説
成熟細胞ではTGF-βは細胞周期の進行を阻害し、G1/S期の移行を防ぐ。この現象は多くの器官の上皮細胞でみられ、その一部はSmadシグナル伝達経路によって調節されている。制御の正確な機構は細胞種によってわずかに異なる。 SmadがTGF-βによるcytostasis(細胞静止、細胞活動停止、細胞性塞栓)を促進する機構の1つは、細胞成長を促進する転写因子Mycのダウンレギュレーションである。Mycはp15INK4b(英語版)とp21CIP1も抑制し、これらはそれぞれCDK4とCDK2の阻害因子である。TGF-βが存在しない場合には、SMAD3と転写因子E2F4(英語版)、p107(英語版)からなるリプレッサー複合体は細胞質に存在している。しかし、TGF-βシグナルが存在する場合には、この複合体は核に局在し、SMAD4と結合してMycのプロモーターのTGF-β阻害エレメント(TGF-β inhibitory element、TIE)に結合することで転写を抑制する。 Myc以外にも、SmadはIDタンパク質(英語版)のダウンレギュレーションにも関与している。IDタンパク質は細胞分化に関与する遺伝子を調節する転写因子で、幹細胞の多能性を維持し、細胞周期の継続を促進する。そのため、IDタンパク質のダウンレギュレーションはTGF-βシグナルによって細胞周期を停止する経路の1つである。DNAマイクロアレイによるスクリーニングでは、ID2(英語版)とID3(英語版)はTGF-βによって抑制されるが、BMPシグナルによって誘導される因子であることが発見されている。上皮細胞でのID2とID3の遺伝子のノックアウトはTGF-βによる細胞周期の阻害を強化し、細胞静止作用の媒介に重要であることが示されている。SmadはIDタンパク質の発現を直接的にも間接的にも阻害する。TGF-βシグナルはSMAD3のリン酸化を誘導し、それによって細胞ストレス時に誘導される転写因子ATF3(英語版)が活性化される。その後、SMAD3とATF3は協働的にID1(英語版)の転写を抑制し、ダウンレギュレーションする。IDタンパク質のダウンレギュレーションは、SMAD3によるMycの抑制の二次的影響としても生じる。MycはID2のインデューサーであるため、MycのダウンレギュレーションはID2シグナルの低下をもたらし、細胞周期の停止に寄与する。 TGF-βの細胞静止作用に必要不可欠なエフェクターとなるのは、SMAD2ではなくSMAD3であることが研究から示されている。RNAiによる内在性のSMAD3の欠失は、TGF-βによる細胞静止を妨げるの十分である。しかしながら、同様の方法でSMAD2を欠失させると、TGF-βによる細胞周期の停止は終了するのではなく、むしろ強化される。このことは、SMAD3がTGF-βによる細胞静止作用に必要であるのに対し、SMAD2とSMAD3の比率が応答の強度を調節していることを示唆している。しかしながら、SMAD2の過剰発現によってこの比率を変化させても細胞静止応答に影響は見られない。そのため、SMAD2とSMAD3の比率がTGF-βに応答した細胞静止作用の強度を調節していることを証明するためには、さらなる実験が必要である。 Smadタンパク質はCDK4の転写の直接的な調節因子であることも判明している。ルシフェラーゼレポーターアッセイでは、siRNAによるSMAD4の抑制によって、CDK4プロモーター制御下に置かれたルシフェラーゼの発現が増加することが示されている。SMAD2とSMAD3の抑制では有意な影響は見られず、CDK4はSMAD4によって直接調節されていることが示唆される。
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