糸と布
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/01 21:03 UTC 版)
織物を総称して「布帛」(ふはく)といい、「布」は植物性の「ぬの」(特に麻布)、「帛」は絹織物を指すのが本来だが、以下、本項では煩雑を避けるためにいずれも「布」表記で統一する。染織品を指して「裂」(きれ)という用語も多用され、「名物裂」「正倉院裂」のように用いる。 人類は、植物性や動物性のさまざまな繊維から糸を作り、それを用いて、衣服、装飾品などの製品を作り出してきた。それは日本列島においても例外ではない。人々は蚕の繭から糸を引き出し、あるいは植物の茎や幹などの靭皮(じんぴ)繊維を引き裂いて繊維を取り出し、より合わせて糸を作ってきた。前者の作業を「紡(つむ)ぐ」、後者の作業を「績(う)む」と表現する。こうして紡いだり績んだりした糸は、そのままでは1本の線にすぎないが、これを機(はた)に掛けて、経糸(たていと)とし、これに緯糸(ぬきいと、よこいと)をからませて織り上げていくことによって、糸は布という二次元の「面」に変化する。この、糸を「線」から「面」に加工する作業が「織り」である。織物には、交差する経糸と緯糸とが1本ずつ交互に浮き沈みするだけの、もっとも単純な「平織」を基本に、織り方、素材、加飾方法などの違いにより、平絹(へいけん)、綾、繻子(しゅす)、錦、羅、紗、絽、金襴、緞子(どんす)、綸子(りんず)、縮緬など、さまざまな名称を持った布が作られる。織り上がった布は、その用途に合わせ、裁断し、縫い合わせ、色や模様を付けるなどの加工を施す。一方、植物や動物(虫)などから取った染料を用いて、糸や布に色付けをする作業が「染め」である。これにも、あらかじめ各種の色に染めた色糸を用いて織ることによって文様を表す方法(先染め)、これとは逆に、織り上がった布に色を付ける方法(後染め)など、さまざまな技法がある。布の加飾方法には「染め」以外にも刺繡、アップリケ、描絵(布面に直接絵を描く)、摺箔(金箔を貼り付ける)など、さまざまな技法がある。糸から布を作る方法にも「織る」以外に「編む」という方法があり、フェルトのように羊毛などの動物性繊維を圧着してからませる(縮絨)ことによって作る不織布もある。一般にはこうした技法も含め、繊維を素材とし、伝統的な素材・手法で製作する工芸品を染織工芸と称する。
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