空間を包み込む生地
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/09 04:48 UTC 版)
「シクロール仮説」の記事における「空間を包み込む生地」の解説
シクロールに関する5つ目の論文(1937年)において、リンチは、2つの平面シクロール生地を、化学結合の角度を保ったまま平面間の角度をつけてつなぐことができる条件を明らかにした。リンチは数学的に単純化して、平面ではない6員環の原子を、化学結合の中点からなる平面の「中点六角形(median hexagon)」で表現できることを突き止めた。この「中点六角形」の表現により、平面間の二面角が四面体結合角δ = arccos(-1/3) ≈ 109.47°と等しければ、シクロール生地の平面が正しく結合できることが容易に理解できた。 この基準に合致する幅広い種類の閉多面体を構築することができ、そのうち最も単純なのが切頂四面体や切頂八面体、八面体である。これらはプラトン立体(正多面体)または半正多面体である。最初の一連の「閉シクロール」(切頂四面体をモデルとしたもの)を考えると、リンチはそのアミノ酸の数が72n2(nは閉シクロールのCnの添え字)として二次関数的成長(英語版)することを示した。したがって、C1シクロールは72残基、C2シクロールは288残基(以下同様)を有する。この予測は、マックス・ベルクマン(英語版)とカール・ニーマン(英語版)が行ったアミノ酸分析により予備的な実験的支持を得た。このアミノ酸分析は、タンパク質は288個のアミノ酸残基の整数倍(n=2)で構成されていることを示唆していた。より一般的には、球状タンパク質のシクロール模型は、タンパク質の分子量が整数で結ばれたいくつかのクラスに分類されることを示唆していたテオドール・スヴェドベリの初期の超遠心分析の結果を説明した。 シクロール模型は、折り畳まれたタンパク質に当時備わっているとされた一般的な特性と一致していた。(1) 遠心分離の研究では、折り畳まれたタンパク質は水よりもかなり密度が高く(約1.4 g/mL)、したがって密に詰め込まれていることがわかっていた。リンチは、密な詰め込みは規則的な詰め込みを意味すると考えた。(2) タンパク質は大きいにもかかわらず、容易に対称性を有する結晶になるものがあり、これは会合時に対称面が調和するという考えに合致する。(3)タンパク質は金属イオンと結合するが、金属結合部位は特定の結合形状(八面体など)をしているはずなので、タンパク質全体も同様の結晶形状をしていると考えるのが妥当である。(4) 前述のように、シクロールモデルは、変性や、折り畳まれたタンパク質をプロテアーゼで切断することの難しさを、簡単な化学的説明で表していた。(5) タンパク質は、他のタンパク質を含むすべての生物学的分子の合成を担っていると考えられていた。DNAが複製の際に自身を鋳型にするというワトソン–クリック概念と類似して、固定された均一な構造は、タンパク質が合成の際に自らを鋳型にするのに有用であると、リンチは指摘した。また、糖やステロールなどの多くの生体分子が六角形の構造を持っていることを考えると、それらを合成するタンパク質も同様に六角形の構造を持っていると考えるのが妥当である。リンチは、このモデルとそれを裏付ける分子量の実験データを3つの総説にまとめた。
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