瞑想する立ち姿の聖フランチェスコとは? わかりやすく解説

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瞑想する立ち姿の聖フランチェスコ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/12 01:05 UTC 版)

『瞑想する立ち姿の聖フランチェスコ』
スペイン語: San Francisco en oración
英語: Saint Francis Standing in Meditation
作者 エル・グレコ
製作年 1580-1585年ごろ
種類 キャンバス上に油彩
寸法 115.6 cm × 102.9 cm (45.5 in × 40.5 in)
所蔵 ジョスリン美術館オマハ

瞑想する立ち姿の聖フランチェスコ』(めいそうするたちすがたのせいフランチェスコ、西: San Francisco : Saint Francis Standing in Meditation)、または『祈る聖フランチェスコ』(いのるせいフランチェスコ、西: San Francisco en oración: Saint Francis Praying) は、ギリシャクレタ島出身で主にマニエリスム期のスペインで活動した画家エル・グレコが1580-1585年ごろ、キャンバス上に油彩で制作した絵画である。画面左下の紙片に「Δομήνικος Θεοτοκόπουλος」という画家のギリシャ語の署名が記されている[1]。作品は1942年に購入されて以来[2]米国ネブラスカ州オマハジョスリン美術館に所蔵されている[1][2]

主題

作品の主題である聖フランチェスコは1181年にイタリアアッシジで生まれた[3]。父親は裕福な毛織物商であったといわれているが、財産の相続を放棄し、世俗を離れ、修道士として奉仕・布教活動に入った。彼の思想に共鳴した同志たちと合流し、フランシスコ会を創設した後、ローマ教皇ホノリウス3世に承認される。1224年[3] (または1226年[4]) にはヴェルナ英語版の山で聖痕を受ける奇跡を経験し、身体にイエス・キリストと同じ傷を持った[1][3][4]。フランシスコ会の修道服である暗褐色の粗衣と腰紐が聖フランチェスコのアトリビュート (人物を特定する事物) である[3]

聖痕を受ける聖フランチェスコの主題は中世より受け継がれたものであるが、16世紀後半に幻視と恍惚によって神との一体化をはかる神秘主義者の支持するところとなり、イタリアとスペインでは美術作品に頻繁に登場するようになった[1]。エル・グレコもこの主題を好み、私的にフランシスコ会を信奉していた彼は、当時の対抗宗教改革時代の神秘的、感情的精神主義の本質的な表現を生み出した[4]

作品

聖フランチェスコは、エル・グレコが生涯にわたって取り組んだ主題の1つである。彼はこの聖人を主題に各種各様の作品を制作し、その数は研究者ハロルド・エドウィン・ウェゼイ英語版が真筆と認めたものだけでも25点に達する[1]。エル・グレコが聖フランチェスコの思想なり生涯にどれほどの関心を抱いていたかは定かではないが、この聖人を描くことにかけてはスペインで第一人者と見なされていた[1]

エル・グレコ『悔悛するマグダラのマリア』(1585-1590年ごろ)、カウ・フェラー美術館英語版 (シッチェス)
エル・グレコ『瞑想する立ち姿の聖フランチェスコ』(16-17世紀)、個人蔵

スペインの画家・著述家のフランシスコ・パチェーコは、自身の『絵画芸術』の中で以下のように述べている。「もしアントニオ・モエダーノ英語版がこれらの指示に従っていたならば、私見ではあるが、彼はこの聖人 (聖フランチェスコ) の画家として当代最も著名な画家と謳われていただろう。しかし、この栄誉はドメニコ・グレコのために取っておかなけらばならない。なぜならグレコの絵は歴史が語るものにいっそう合致しているからである。とはいえ彼はフランチェスコに修道僧のような粗末な服を着せている。それは厳密に見ればフランチェスコの服ではない」[1]

本作は瞑想する男性の聖人というエル・グレコ好みの主題を扱っているのに加え、ゆるぎない構図と見事な色彩対比を持ち、彼の聖人像の中でも高い完成度を示している[1]。聖フランチェスコは右手を胸に当て、目を大きく見開いて沈思しているが、その表情は決して感傷に流されず、精神的緊張を保っている。顔と手は冷たい光の中で白く輝き、灰色の僧衣、背後の黒い岩、エル・グレコらしい劇的な空が顔と手の美しさを引き立てている[1]。画面下部左側の悔悛の象徴である髑髏、崖に描かれた「不滅の愛」を表すツタ[5]など細かな点にも周到な配慮がなされている[1]。なお、この絵画の構図とモティーフは、シッチェスにあるカウ・フェラー美術館英語版蔵の『悔悛するマグダラのマリア』と基本的に一致する。ただし、色彩と技法によりシッチェスの作品の方が後に制作されたと考えられる[1]

本作には2点の別ヴァージョンがあり、マドリードバルセロナの個人コレクションに所蔵されている[1]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l 『エル・グレコ展』、1986年、183-184頁。
  2. ^ a b Saint Francis Standing in Meditation”. ジョスリン美術館公式サイト (英語). 2025年8月28日閲覧。
  3. ^ a b c d 岡田 2011, p. 153.
  4. ^ a b c Saint Francis Receiving the Stigmata”. ウォルターズ美術館公式サイト (英語). 2025年8月15日閲覧。
  5. ^ 『エル・グレコ展』、1986年、184頁。

参考文献

外部リンク




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