聖家族と聖アンナ、幼児洗礼者聖ヨハネ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/28 19:55 UTC 版)
スペイン語: La Sagrada Familia, santa Ana y san Juanito 英語: The Holy Family with Saint Anne and the Infant Saint John |
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作者 | エル・グレコ |
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製作年 | 1600年ごろ |
種類 | キャンバス上に油彩 |
寸法 | 108.5 cm × 70 cm (42.7 in × 28 in) |
所蔵 | プラド美術館、マドリード |
『聖家族と聖アンナ、幼児洗礼者聖ヨハネ』(せいかぞくとせいアンナ、ようじせんれいしゃせいヨハネ、西: La Sagrada Familia, santa Ana y san Juanito、英: The Holy Family with Saint Anne and the Infant Saint John) は、ギリシア・クレタ島出身のマニエリスム期のスペインの巨匠エル・グレコが1600年ごろに制作したキャンバス上の油彩画である。作品はかつてマドリードに存在したトリニダー美術館に由来するが、1872年に同美術館がマドリードのプラド美術館と合併して以来、プラド美術館に所蔵されている[1]。
作品
聖母子に聖ヨセフを加えた「聖家族」図はルネサンス期以降、時に聖母の母聖アンナや父ヨアキム、幼児洗礼者ヨハネをともなって頻繁に描かれた。対抗宗教改革期の図像の特徴は、聖母の処女性を強調するためかつては老人の姿で控えめに登場していたヨセフが、聖母子の庇護者にふさわしい壮年期の男性像で表され、存在感を強めている点にある。16世紀スペインの偉大な神秘家、アビラの聖テレサは聖ヨセフを独立した崇敬の対象に押し上げたため[2]、16世紀半ばからスペインでは聖ヨセフ信仰が高まっていた[3]。
エル・グレコは1580年頃から1600年にかけて「聖家族」の主題に取り組み、現存するものに限っても少なくとも5点の作品を残している。これらは、聖母マリア、イエス、ヨセフ、アンナという限られたモティーフを組み合わせることで、様々なバリエーションがを作り出している[4]。
本作は、画面中心に座っている聖母マリアを全身像で表している。物思いに耽っている彼女は青色の外套を身に着け、その膝の上に幼児イエスが横たわっている[1]。マリアの右腕は襞のある白いベールを被った聖アンナを抱き寄せており、アンナはイエスの方に屈んでいる。ほかのエル・グレコの聖家族のヴァージョンでイエスは眠った姿であるが、本作ではアンナを見つめ返している。アンナは両手で持っている白い布でイエスをくるもうとしているところである[1]。
マリアの背後の右側からは控えめにヨセフが現われ、情景を見つめている[1]。エル・グレコは、彼を老人としてではなく壮年の男性として描いている。彼が身に着けている白いシャツと黄色がかった黄土色の外套を纏っているが、この服装は16世紀のスペインの職人が典型的に身に着けていたものである[1]。ヨセフの前の聖母の近くには、幼児洗礼者ヨハネが描かれている。彼はほかの人物たちからやや分離した印象を与えるが、それは彼の視線が画面外の不特定の一点を見つめているためというよりも、ほかの人物たちより小さなスケールで描かれ、目立たないためである。伝統的なラクダの毛皮を背中に纏っていることが仄めかされていること以外、ヨハネは全裸である。彼は果物の入った鉢を持っている一方、人差し指を口に当て、静かにするようにというジェスチャーをしている。人物群は、彼らの頭部に広がる雲を背景に狭い空間内に収まっている[1]。
エル・グレコの『聖家族』
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『聖家族』(1585年ごろ)ヒスパニック・ソサイエティ 、ニューヨーク
脚注
- ^ a b c d e f “The Holy Family with Saint Anne and the Infant Saint John”. プラド美術館公式サイト (英語). 2025年8月27日閲覧。
- ^ 大高保二郎・松原典子、2012年、42頁。
- ^ 大高保二郎・松原典子、2012年、32頁。
- ^ 『エル・グレコ展』、1986年、190頁。
参考文献
- 大高保二郎・松原典子『もっと知りたいエル・グレコ 生涯と作品』、東京美術、2012年刊行 ISBN 978-4-8087-0956-3
- 『エル・グレコ展』、国立西洋美術館、東京新聞、1986年
外部リンク
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