田中明彦の「新しい中世」論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/01/05 07:04 UTC 版)
「新しい中世」の記事における「田中明彦の「新しい中世」論」の解説
田中は、米ソの二極対立とイデオロギー対立によって特徴づけられる冷戦の終焉、アメリカの覇権の衰退、経済的相互依存の深化という趨勢によって、主権国家システムが大きく変化しているという認識に立ち、現代世界を「新しい中世」と名づける。田中の「新しい中世」論は、次の2つの仮説からなる。 「グローバリゼーションの進展によって、現代の世界システムが『近代』的なものから、『中世』的なものに変質する」 「『新しい中世』に向かう傾向には差異が存在し、その基準で考えると、現在の世界はおおむね3つの圏域にわけることができる」 現代世界とヨーロッパ中世とを比較したとき、主体の多様性、イデオロギーの普遍性という2点において類似している一方で、経済的相互依存の進展という現象に「新しさ」がある。すなわち主権国家以外に、多国籍企業、国際組織、NGOなどの非国家主体が登場し、その重要性が増していることと、イデオロギー対立であった冷戦の終焉によって、自由民主主義と市場経済というイデオロギーが世界的かつ普遍的に受容されている状況が、ヨーロッパ中世における主体の多様性と普遍的イデオロギーとしてのキリスト教の存在の点で、共通性を持っている。他方で、技術水準や経済度システムなど経済的な結びつきの点で、現代世界はヨーロッパ中世とは異なる。 さらに田中の「新しい中世」論の特徴は、世界システムの変容の度合いに応じた違いの存在を把握する方法として圏域モデルの提示と、それをアジア太平洋の秩序の動静分析に適用した点にある。「新しい中世」的特徴が全世界的に均一に生じているわけではないと指摘し、田中は、自由主義的民主制と市場経済の成熟・安定度を基準に、冷戦後の世界を「新中世圏」、「近代圏」、「混沌圏」の3つに分け、「新中世圏」から見た対「近代圏」および「混沌圏」との関係を検討する。そして仮説検証の事例として、田中は、このモデルにもとづいて、アジア太平洋の国際関係を分析し、また「新中世圏」の日本の採るべき戦略を提言する。 3つの圏域 主体争点特徴手段戦争脅威近代化新中世圏 多様 経済・象徴 調整 経済・説得 皆無 心理・社会 終了 近代圏 主権国家 軍事・経済 対立 軍事・経済 政策手段 経済・外敵 途上 混沌圏 域内集団 軍事 生存 軍事 戦争状態 無数 失敗
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