生命の起源と酵素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/17 09:15 UTC 版)
「生命の起源」も参照 現存するすべての生物種において、酵素を含むすべてのタンパク質の設計図はDNA上の遺伝情報であるゲノムに基づいている。一方、DNA自身の複製や合成にも酵素を必要としている。つまり、酵素の存在はDNAの存在が前提であり、一方でDNAの存在は酵素の存在が前提であるから、ゲノムの起源においてDNAの確立が先か酵素の確立が先かというパラドックスが存在していた。最近の研究では、このパラドックスについて、いまだ確証はないものの以下のように説明している。 1986年にアメリカのトーマス・チェックらによって発見されたリボザイムは、触媒作用を持つRNAであり、次の3種類の反応を触媒することが知られている。 自分自身に作用してRNAを切断する。(グループ I, II, III イントロンの自己スプライシング) 他の RNA に作用してRNAを切断する。(リボヌクレアーゼP) ペプチド結合の形成。(リボゾーム23S rRNA) 特性1.および2.からは、RNAは自己複製していた段階の存在があるとも考えられる。また、特性3.からは、RNAが酵素の役割も担う場合があることがわかる。このことから、仮説ではあるが、現在のゲノムの発現機構(セントラルドグマと言い表される)が確立する前段階において、遺伝子と酵素との役割を同じRNAが担っているRNAワールドという段階が存在したと考えられている。 なお、特性3.の例として挙げた23S rRNAは、大腸菌のタンパク質を合成するリボゾーム内に存在する。大腸菌のリボゾームにおいては、アミノアシルtRNAから合成されるペプチドにアミノ酸を転位・結合させる酵素の活性中心の主役が、タンパク質ではなく23S rRNAとなっている。さらに、この場合の酵素作用(ペプチジルトランスフェラーゼ活性)は、23S rRNAのドメインVに依存することも判明している。 また、リボザイムが自己切断する際には鉛イオンが関与する例が判明している。このことから、RNAもタンパク質酵素の補因子と共通の仕組みを持っているという可能性が示唆されている。 RNAワールド説によると、ゲノムを保持する役割はDNAへ、酵素機能はタンパク質へと淘汰が進んで、RNAワールドが今日のセントラルドグマへと進化したと考えられている。その段階では、次のようなRNAの特性が進化の要因として寄与したと推定されている。 遺伝子の保管庫がDNAではなくRNAであったと仮定した場合、RNAには不利な特性がある。それは、リボース2'位の水酸基が存在するため、エステル交換によって環状ヌクレオシド(環状AMPなど)を形成してヌクレオチドが切断されやすいという性質である。これに対してDNAは、リボース2'位の水酸基を欠くため環状リン酸エステルを形成せず、RNAの場合より安定なヌクレオチドを形成する。 また、立体構造の多様性について考察すると、RNAの立体構造はタンパク質に比べて高次構造が単純になることが判明している。したがって、RNAから構成される酵素に比べ、タンパク質から構成される酵素の方が立体構造の多様性が大きく、基質特異性の面や遷移状態モデルを形成する上でより性能のよい酵素になると考えられる。
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