現実主義への挑戦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/19 06:55 UTC 版)
「社会構成主義 (国際関係学)」の記事における「現実主義への挑戦」の解説
新現実主義が、構成主義の形成期において、国際関係論の支配的な言説であったので、構成主義の初期の理論的業績の大半は、新現実主義の基本的な前提に挑戦することであった。ケネス・ウォルツの『人間・国家・戦争』で最初に展開され、新現実主義の中心的テキストである彼の『国際政治の理論』で明確化された主張、つまり国際政治の重要な内容の多くが国際システムの構造によって説明されると主張する意味で新現実主義者は基本的に「構造主義者」である。とくに、国際政治は、国際システムがアナーキーである、つまりいかなる上位の権威もなく、その代わり形式的に平等なユニット(主権国家)から成るという事実によって主に決定される。ユニットはすべて自らの領土に対して主権を行使する。そのようなアナーキーは、誰にも頼ることなく安全を自らで獲得するという「自助」などの特定の行動を諸国に強いる。このような国家の行動、そしてパワーによる自己利益の擁護は国際政治の多くを説明すると新現実主義者は論じている。このため、新現実主義者は、ユニットあるいは国家次元での国際政治の説明を退ける傾向にある。ユニット次元への注目は、ウォルツによって還元主義と攻撃されている。 構成主義は、とくにウェントの初期の業績では、新現実主義者によって「構造」に帰せられた因果的パワーが実際には「所与」ではなく、構造それ自体が社会的実践によって構築されていることを提示することによってこの前提に挑戦した。システムにおける主体のアイデンティティと利益の性質、そして(アナーキーを含む)社会制度がアクターに対して有する意味に関する前提から離れてしまうと、新現実主義の「構造」は、何も明らかにしていない、「二つの国家が友好国なのか敵対国なのか、相互の主権を承認しているのか、王朝的紐帯を持っているのか、修正主義国家なのか現状維持国家なのかなどについて予測しない」とウェントは論じる。このような行動の特徴がアナーキーでは説明できず、その代わりに主要な主体が持つ利益やアイデンティティに関する証拠の導入を必要とするので、システムの物質的構造(アナーキー)への新現実主義の焦点は誤っている。しかし、ウェントはさらに議論を進めて、アナーキーが国家を拘束する方法が 国家がアナーキーを知覚し、国家自身のアイデンティティや利益を知覚することに依拠しているため、アナーキーは必ずしも「自助」のシステムでさえもないと論じる。ある国家にとっての安全の獲得がほかの国家にとって安全の喪失を意味する、競争的かつ相対的な概念として安全を見る国家に関する新現実主義の仮定に従う限りで、自助を国家に強いるに過ぎない。もし他国の安全に否定的な影響を与えることなく自らの安全を最大化できる「協調的」安全保障であれ、あるいは国家が他国の安全を自国にとっても価値あるものとみなす「集団的」安全保障であれ、安全保障の代替概念を国家がその代わりに持っているならば、アナーキーは、決して自助につながらないのである。新現実主義の結論は、こうして、社会制度の意味が主体によって構築される方法に関する不問の仮定にほとんど依拠している。重要なことに、新現実主義者はこの点を認識できないために、そのような意味が不変であると誤って仮定し、新現実主義の観察の背後で重要な説明作業を実際に行っている社会構築の過程の研究を排除している。
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