海上保安庁特別警備隊とは? わかりやすく解説

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特別警備隊 (海上保安庁)

(海上保安庁特別警備隊 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/10 14:24 UTC 版)

特別警備隊(とくべつけいびたい)は、海上保安庁警備実施等強化巡視船(特警船)に設置されている部隊。海上・港湾での警備業務を主任務としており、都道府県警察機動隊に相当する。略称特警隊[1][2][3][4]

来歴

昭和40年代の日本社会では公害が重大問題となっており、1967年には公害対策基本法が公布・施行されるに至っていた[5]。海でも事情は同様で、海洋汚染の原因企業等に対する漁業者の抗議活動や石油備蓄施設・発電所などに対する建設反対運動が多発し、海上保安庁はその対応に追われることになった。1971年2月には大阪セメント臼杵工場誘致を巡る海上警備、1973年6月には徳山水銀使用工場を巡る海上公害紛争警備、そして1975年1月には伊達発電所建設を巡る海上警備などが実施された[6]

また当時は安保闘争期でもあり、アメリカ海軍艦、特に原子力艦の寄港に対する反対運動も多発した。1964年8月にアメリカ海軍原子力潜水艦の日本寄港が閣議承認され、同年11月に「シードラゴン」が佐世保に初寄港した際には、反対派の海上行動に備えた海上警備が実施された。また1968年には佐世保エンタープライズ寄港阻止闘争もあって、現在に至るも、米艦出入港時の海上警備は継続されている[6]

当時、伊達発電所建設反対派が三里塚芝山連合空港反対同盟とも交流するなど[7]極左暴力集団の海上進出により、過激で悪質な妨害行為が予測される情勢にあった[2]。1974年8月の原子力船の「むつ」の大湊出港に伴う警備は、『海上保安庁30年史』で「前例のない大規模なもの」と形容されるものとなった。また1978年4月の七尾大田火力発電所建設を巡る警備では反対派による傷害事件が発生し、警備実施に大きな課題を残した[6]

これらの情勢を踏まえて、1981年7月、警備体制強化のため警備実施強化巡視船(特警船)の制度が発足し、横浜海上保安部の「いず」が第一号となった。そしてその警備実施の中核部隊として編成されたのが特別警備隊である[6][2][4]

編制

特警船は順次に増勢し、2019年現在、全国11管区で計12隻が指定されている[8]

なお海上保安庁では、集団警備力としての特警隊とは別に、被疑者の制圧を担当する要員として、本庁刑事課の主導で平成17年度に第1・2・7管区の巡視船に「機動警備隊」を設置したのち、翌平成18年度には「制圧班」と改称した上で全管区に水平展開しているが、この組織も、特警隊と並んでテロ対策訓練にしばしば登場している[6]

組織

上記の経緯より、特別警備隊は、警備の専門知識・技能を備えた中核部隊として、特警船の船内に設置されている[4]。任務としては警察の機動隊と同様であるが、巡視船は人数が少ないことから、基幹機動隊のようなフルタイムの専任要員とはできず、特別機動隊のようなパートタイムの兼務要員となっており、平時は他の乗員と同様に船舶運航・海難救助等に従事して、必要に応じて招集される体制となっている[2]

特別警備隊は、各船ごとに15名ずつの小隊を2個設置しており[1][3]、特別警備隊長の指揮のもと、規制班・採証班・広報班の3班がある[2]

規制班
暴徒化したデモ者を実力をもって鎮圧する暴動鎮圧要員。
採証班
犯罪行為を行なったデモ者を検挙した際に必要となる証拠を採集しておく要員。
広報班
警察機動隊のDJポリスと同様で、スピーカーを使って、デモ者に対して通告・慰撫を行う要員。

装備

雑踏警備・暴動鎮圧のため、規制班は機動隊と同様の出動服やヘルメットなどを着装し、大盾操法や逮捕術などの訓練を行なっている[2]

暴力団や外国の犯罪組織が関与していた場合には銃器による抵抗が懸念されるため、2000年以降、拳銃としては、装弾数が多いM5906が導入された。その他の武装は基本的に海上保安庁の標準的な装備品を用いており、64式7.62mm小銃89式5.56mm小銃、また特殊弾発射用およびドア破砕用としてレミントンM870 マリンマグナムが装備されている[9]

活動史

特別警備隊が対応した主な事件は以下のとおりである。

脚注

注釈

  1. ^ 当時、第11管区では石垣島での新空港建設への反対運動に対する雑踏警備を行っていたが、同管区には特警船がなかったために第七管区の特警船である「くにさき」が増援派遣されており、その警備を終えた直後でまだ第11管区の管内にいたため、引き続き増援を要請されたものであった[2]
  2. ^ またこのとき、乗船した「くにさき」特警隊を援護するため[2]、ヘリコプターで現場に進出していた海警隊も降下・乗船した[10]

出典

  1. ^ a b 柿谷 & 菊池 2008, pp. 141–152.
  2. ^ a b c d e f g h i 佐藤 2019, ファイル7 船内暴動を鎮圧せよ.
  3. ^ a b ストライクアンドタクティカルマガジン 2017, pp. 74–75.
  4. ^ a b c 立花 2009, p. 18.
  5. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ)『公害』 - コトバンク
  6. ^ a b c d e 川口 2014.
  7. ^ 朝日新聞成田支局『ドラム缶が鳴りやんで―元反対同盟事務局長石毛博道・成田を語る』四谷ラウンド、1998年、36頁。ISBN 978-4946515194 
  8. ^ 海人社 2019, p. 9.
  9. ^ 中名生 2015.
  10. ^ 柿谷 & 菊池 2008, pp. 107–140.

参考文献

  • 海人社 編「海上保安庁のすべて」『世界の艦船』第902号、海人社、2019年6月。 NAID 40021918394 
  • 柿谷哲也; 菊池雅之『最新 日本の対テロ特殊部隊』三修社、2008年。 ISBN 978-4384042252 
  • 川口大輔「海上保安庁の現況と警備業務の歩み」『世界の艦船』第800号、海人社、123-131頁、2014年7月。 NAID 40020105608 
  • 佐藤雄二『波濤を越えて 叩き上げ海保長官の重大事案ファイル』文藝春秋、2019年。 ISBN 978-4163910567 
  • ストライクアンドタクティカルマガジン 編『日本の特殊部隊』2017年3月。 NCID BB01834038 
  • 立花敬忠「海上保安庁のすべて」『世界の艦船』第714号、海人社、2009年11月。 NAID 40016812500 
  • 中名生正己「巡視船 武装の歩み(下)」『世界の艦船』第825号、海人社、168-173頁、2015年11月。 NAID 40020597434 

関連項目

外部リンク


海上保安庁特別警備隊(特警隊)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 04:15 UTC 版)

機動隊」の記事における「海上保安庁特別警備隊(特警隊)」の解説

海上保安庁全国の主要海上保安部警備実施等強化巡視船配置している部隊各都道府県警察機動隊とも合同訓練行なっている。所属管区に関係なく全国的に活動海上テロなどの重大事案が発生した際は、特殊警備隊SST)が到着するまでの間、初動措置実施する

※この「海上保安庁特別警備隊(特警隊)」の解説は、「機動隊」の解説の一部です。
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