正定値行列の特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/09/23 04:18 UTC 版)
n × n エルミート行列 M に対して、以下の条件は何れも M が正定値であることと同値である。 M の任意の固有値が正の実数であることM の固有値分解を M = PDP−1 とする。ここで、P は M の固有ベクトルのなす正規直交基底をその列ベクトルとして並べて得られるユニタリ行列で、D は対応する固有値をその主対角成分に並べて得られる対角行列である。このとき行列 M は P の列ベクトルからなる基底に関して表したとき、対角行列 D と見做すことができる。特に、一対一の変数変換 y = P−1z によって、z∗Mz が任意の複素ベクトル z に対して正の実数となるためには、y∗Dy が任意の y に対して正の実数となること(即ち、D が正定値であること)が必要十分であることがわかる。対角行列に対してこれが成り立つのは、その主対角成分(従って今の場合 M の固有値)が全て正である場合に限られる。スペクトル定理によればエルミート行列の任意の固有値は実数であることが保証されるから、実対称行列 M の固有多項式が使える場合には、デカルトの符号律 を使って固有値の正値性を確かめることができる。 M に付随する半双線型形式が内積となること行列 M の定める半双線型形式とは、任意の x, y ∈ Cn に対して 〈x, y〉 := y∗Mx と置いて得られる函数 〈,〉: Cn × Cn → C を言う。任意の複素行列 M に対してこの形式は各々の引数に関してそれぞれの線型性の条件は満足するから、従ってこれが Cn 上の内積であるための必要十分条件は、〈z, z〉 が任意の非零ベクトル z に対して正の実数となることであり、これは即ち M が正定値である条件に他ならない。(実は Cn 上の任意の内積が、正定値エルミート行列からこの方法によって得られる)。 M が線型独立なベクトルに対するグラム行列となっていること内積 〈,〉 を持つ適当な複素線型空間 の線型独立な n 個のベクトル x1, …, xn に対し、mij := 〈xi,xj〉 で定義されるグラム行列 M = (mij)1≤i,j≤n は必ず正定値となることが証明できる。逆に M が正定値ならば、その固有値分解 P−1DP(P はユニタリで、D = (dij) は対角行列かつその対角成分 dii = λi が正の実数)が取れるから、x1, …, xn を P の各列ベクトルにそれと対応する固有値 λi の平方根を掛けたものとすれば、これらのベクトルは互いに線型独立であって、Cn の標準内積(つまり、〈xi,xj〉 = x∗ixj)に関してそれらベクトルから得られるグラム行列は M に一致する。 M の首座小行列式が全て正であること行列 M の k-次首座小行列式とは、その左上から順番にそのまま成分を取ってできる k × k 小行列の行列式を言う。行列が正定値であるための必要十分条件は、全ての首座小行列式が正となることであると示すことができる。この条件はシルベスターの判定法(英語版)と呼ばれ、対称実行列の正定値性の効率的な判定法を与える。具体的には、ピボットの過程で行列式の符号が保たれることに注意して、ガウスの消去法の前半部分と同様に行基本変形を用いて行列を上半三角行列に簡約化すれば、三角行列の k-次首座小行列式は第 k 行までの対角成分の積であるから、シルベスターの判定法は行列の対角成分が全て正であることを確かめることに他ならない。この条件は三角行列に新たな行 k を考えるごとに確かめることができる。 M が一意なコレスキー分解を持つこと行列 M が正定値であるための必要十分条件は、真に正の実数を対角成分に持つ下半三角行列 L で M = LL∗ を満たすものがただ一つ存在することである。このような分解は M のコレスキー分解と呼ばれる。 同様の理由により、 エルミート行列が負定値、半負定値、半正定値となるための必要十分条件が、それぞれその固有値が全て負、非正、非負となることであることが分かる。また、不定値の場合には正負両方の固有値が現れることで特徴付けられる。 小行列式の言葉で言えば、エルミート行列が負定値となる条件は、その k-次の首座小行列式が、k が奇数のとき負かつ k が偶数のとき正となることである。また、半正定値となるための必要十分条件はその任意の主小行列式が非負となることである。ここで首座小行列式を考えただけでは不十分であることは、なんとなれば成分が 0 と −1 しかとらないような対角行列について確かめてみるとよい。 エルミート行列 M が半正定値となる必要十分条件は、それが適当なベクトルからなる集合のグラム行列として得られることである。正定値の場合との違いは、これらのベクトルが必ずしも線型独立である必要が無いことである。 任意の行列 A に対して、行列 A∗A は必ず半正定値であり、かつ rank(A) = rank(A∗A) が成り立つ。
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