時間予測モデルを用いる場合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 05:09 UTC 版)
「南海トラフ巨大地震」の記事における「時間予測モデルを用いる場合」の解説
「時間予測モデル (time predictable model)」は地震による変位量と次回の地震までの回復時間が比例するというモデルであり、これに相対する「すべり予測モデル (slip predictable model)」は前回の地震からの歪蓄積時間と地震による変位量が比例するモデルである。しかしどちらのモデルも不完全であることは明白であるとされる。 多くの断層は弱いながらも時間予測モデルに従う傾向があり、1977年に島崎邦彦は南海トラフ沿いの地震についても時間予測モデルが適用できるのではないかと考えた。 次に発生する可能性のある地震として、従来よりも幅広くM8 - 9クラスの地震を対象としている。高知県室津港の歴代南海地震(宝永・安政・昭和)における隆起量と、発生間隔との関係に基づく「時間予測モデル」をもとにすると、次回のM8クラスの地震は昭和南海地震から88.2年後と推定され、これをもとに下記の確率が計算された。 発生確率などの評価領域 様式 規模 (M) 30年以内の発生確率 南海トラフプレート間地震M8 - 9 クラス2013年1月1日時点60% - 70% 程度2018年1月1日時点70% - 80% 程度室津港の昭和南海地震における隆起量は、潮位の変化から求められた115㎝(津呂)、安政南海地震は室津港を管理していた港役人である久保野家の記録にある四尺 (1.2m)、宝永地震は久保野家の記録にある地震前と地震52年後の水深の差である五尺 (1.5m)を52年間の変動で補正した値である1.8mが推定されている。 時間予測モデルによって推定される88.2年を平均活動間隔にあてはめ、正平から昭和に至るまでの活動間隔のバラつきから最尤法で求めた変動係数(標準偏差)αの値は0.20であり、データが少ない点を考慮してαを0.20-0.24とした。確率密度関数としてBPT(Brownian Passage Time)分布を用いて30年以内の発生確率が計算された。 次に最大クラス(M9超)の地震が発生する可能性もあるが、その発生頻度は(古いものも含めて)100 - 200年間隔で発生している地震に比べて「1桁以上低い」とされた。 時間予測モデルを適用することについて以下の問題点が指摘されている。 南海トラフ沿いの巨大地震の震源域に多様性が認められるにもかかわらず室津港の隆起のみで評価できるか。 隆起量がそれを回復する時間に比例するならば、平常時の室津港の沈降速度は13mm/年となるが、水準測量による沈降速度5-7mm/年と大きく異なる。 島崎邦彦が時間予測モデルが適用できると挙げている地震は昭和南海地震の他、宝永と安政の2つの地震のみである。白鳳地震以降から適用するなら時間予測モデルは成立していないとの指摘もある。 また、ある地震(この場合、南海トラフの地震)が他の地震に誘発される場合があるならば、発生時期が誘発で拘束されるため時間予測モデルは成立しない。 地殻変動量に用いられた室津港の水深の変化の誤差が考慮されておらず、また地震前の水深の計測日が不明など久保野家の記録を用いた変動量そのものに疑義があり、問題点が多く指摘されているにもかかわらず、あたかも科学的な判断のみで結論されたと見做される状況を招いたとの批判がある。
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