昆虫類などの特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/08 03:09 UTC 版)
「南硫黄島原生自然環境保全地域」の記事における「昆虫類などの特徴」の解説
南硫黄島の昆虫については1982年と2007年の総合調査時に調査が行われた。特徴としてはまず南硫黄島の昆虫は広域に分布が見られる種が多いが、続いて小笠原諸島の固有種が多く見られ、残りの種がミクロネシア、日本本土、東南アジアなどからやってきたと考えられることが挙げられる。つまり南硫黄島の昆虫は広域に分布を広げている種と小笠原固有種が中心となって構成されていると見られている。また南硫黄島全体としては昆虫相は貧弱であり、ハエ類やトビカツオブシムシなどを除くと採集される昆虫も少ない。これは南硫黄島の歴史の浅さ、3.67km2という狭さ、そして淡水系が存在しないなどの制約によるものと考えられている。 また淡水系がないために蚊や水生昆虫などが見られないという点も特徴として挙げられる。そして大陸などから隔絶し、これまで一回も大陸と地続きとなったことがない大洋島である南硫黄島には、島に到達して分布を広げることが出来た昆虫に偏りがあったため、南硫黄島の昆虫相には一般的な昆虫相から見て非調和が見られる。これは大洋島の生態系では多かれ少なかれ見ることができる特徴のひとつである。非調和の例としては、通常花粉の媒介を担っている昆虫はハチやハナバチ類が中心となっているが、ハチやハナバチが少ないため南硫黄島に分布している花を咲かせる被子植物の受粉は、メイガなど蛾の仲間などがその役割を担っている可能性が指摘されている。そして南硫黄島では活動的なアリ類がほとんど生息しておらず、またミミズ類も見られない。これらも大陸などから隔絶された海洋島が本来持つ生態系の特徴のひとつとされる。 南硫黄島では肉食の哺乳類、爬虫類や大型の食肉昆虫、猛禽類が生息していないが、島内では数十万羽以上の海鳥が繁殖している。これら海鳥の排泄物や死骸などはハエ類やトビカツオブシムシによって分解され、直接の捕食者ではないもののハエ類やトビカツオブシムシが水鳥の捕食者の代行のような位置を占めていると考えられる。そのためハエ類やトビカツオブシムシは南硫黄島内で大発生が見られる。 また南硫黄島の固有属とされるミナミイオウヒメカタゾウムシなど、南硫黄島では後ろ羽根が退化している昆虫も見られる。これもやはり大洋島に生息する昆虫の中に見られる特徴であるが、南硫黄島定着後に後ろ羽根が退化して飛翔能力が失われた可能性と、もともと後ろ羽根が退化して飛翔能力が失われた昆虫が南硫黄島にもたらされ、分布を広げた可能性が指摘されている。なおミナミイオウヒメカタゾウムシ属については、小笠原群島に近縁であるが別属のオガサワラヒメカタゾウムシ属が広く分布しており、その関係性が注目されている。 2007年の調査では、南硫黄島では8種のアリ類が確認された。うちミナミイオウムネボソアリとイオウヨツボシオオアリの2種が新種として確認された。イオウヨツボシオオアリは台湾から中国にかけて近縁種が見られるが、ミナミイオウムネボソアリは東アジア方面には近縁種が見られず、祖先が南硫黄島近隣から漂着した種ではない可能性がある。 南硫黄島の昆虫相は全体としては貧弱であるが、2007年の調査では父島と母島では絶滅したものとされていたオガサワラハラナガハナアブが再発見されたり、採集された昆虫の中でまだ分類が明らかになっていない種があるなどまだその全貌が解明されていない。また新種と考えられるクモ類、ササラダニ類が採集されたり、世界でこれまで確認されていない陸棲のミズムシ亜目の一種が採集されているなど、南硫黄島の生物相にはまだ明らかになっていない面が残っていると考えられる。
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