日本語の女性語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/25 05:42 UTC 版)
近代以前の日本では、女性の話し言葉には、地域や階層により大きな違いがあった。江戸時代には、武家や上流町人の間では「丁寧な言葉遣いを用いる」「漢語よりも和語を用いる」などが女性の言葉遣いとして望ましいとされ、また女房言葉や廓詞のような特殊な社会で発達した女性語の一部が上流階層の女性に広まることもあった。しかし、庶民層では言葉の男女差はほとんどなかった。江戸庶民の口語資料である『浮世風呂』には、下女が遊せ詞(遊ばせ言葉)を批判する場面があるが、その時の下女の台詞は次のようなべらんめえ口調である。 なんの、しやらツくせへ。お髪(ぐし)だの、へつたくれのと、そんな遊せ詞は見ツとむねへ。ひらつたく髪と云(いひ)ナ。おらアきつい嫌(きれえ)だア。奉公だから云ふ形(なり)になつて、おまへさまお持仏さま、左様然者(さやうしからば)を云(いつ)て居るけれど、貧乏世帯を持つちやア入らねへ詞だ。せめて、湯(註:銭湯のこと)へでも来た時は持前(もちめえ)の詞をつかはねへじやア、気が竭(つき)らアナ。 現代の日本で一般的に女性語として認識されている言葉の起源は、明治時代に有産階級の女学生の間で発生した「てよだわ言葉」である。「よくってよ」「いやだわ」などの言葉の流行は、尾崎紅葉によれば「旧幕の頃青山に住める御家人の(身分のいやしき)娘がつかひたる」とある通り、もとは山の手の下層階級の女性が使っていた言葉が女学生の間に伝播したもので、当時は「異様なる言葉づかひ」などと文化人の非難の的になったが、結果的には中流以上の女性層で定着し、規範的な女性語として扱われるようになった。 1980年代頃からは、男女ともに「だよ」「だね」「じゃん」といったユニセックスな言い回しが好まれるようになった。現在では「てよだわ言葉」の流れをくむ女性語は昭和中期以前に生まれた世代の女性が用いるほかは、オネエ言葉に誇張された形で残っている。ただし、一人称代名詞に関しては依然として男女差が強く意識されており、「僕」や「俺」を常用する女性は極めて少数派である(ボク少女を参照)。 話し言葉としては衰勢にある女性語であるが、話者が女性であることを際立たせるための役割語としては、現在も多用される。女性作家による作品では、女性の台詞は現実の言葉遣いを反映してユニセックスな言い回しであることも多いが、あえて女性語が多用されることもある。
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