抗うつ薬による治療
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 07:53 UTC 版)
抗うつ薬の効果は必ずしも即効的ではなく、効果が明確に現れるには1週間ないし3週間の継続的服用が必要である。NICEは処方に際し、患者と離脱症状(SSRI離脱症候群など)も含めて副作用について話し合わなければならないとしている。 抗うつ薬のうち、従来より用いられてきた三環系抗うつ薬あるいは四環系抗うつ薬は、口渇・便秘・尿閉などの抗コリン作用や眠気などの抗ヒスタミン作用といった副作用が比較的多い。これに対して近年開発された、セロトニン系に選択的に作用する薬剤SSRIや、セロトニンとノルアドレナリンに選択的に作用する薬剤SNRI、NaSSA等は副作用は比較的少ないとされるが、臨床的効果は三環系抗うつ薬より弱いとされる。 詳細は「抗うつ薬#抗うつ薬の種類」および「抗うつ薬#副作用」を参照 NICEは薬剤の選択について、他の抗うつ薬より危険性と利益の比率が良好であるため、一般的にSSRIを選ばなければならない (should normally be) としている。さらにNICEは、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチンは他のSSRIより薬物相互作用が起きやすく、またパロキセチンは他のSSRIより離脱症状の報告率が高く、三環系抗うつ薬はロフェプラミン(英語版)を除いて過剰摂取のリスクが高率 (greatest risk) であるとしている。 詳細は「抗うつ薬#効果の限界と方策」を参照 服薬から4週間後に患者の抑うつ症状が改善されていれば、さらに2-4週間の投与を続ける。効果を示さないとか、副作用が生じる、あるいは患者の申出があれば、他の薬に切り替える。 抗うつ薬の有効性および安全性については議論がある。うつ病は、治療を行わなくても長期的には自然回復することが多く、数ヶ月以内の自然回復率が50%を越えるため、各種治療法の有効性の判断は難しい。アメリカ国立精神衛生研究所(英語版) (NIMH) の専門家たちは、抗うつ薬が回復までの時間短縮に役立つ可能性はあっても、長期回復率の上昇には役立たないと考えている。SSRIはプラセボ程度の効果しかないとの見解もある。 NICEの2009年のガイドラインは、軽症以下の抑うつでは、危険性/利益の比率が悪いため抗うつ薬を継続的に使用してはいけないとしている。初期治療が効果を示さない場合、軽症から中等症では選択肢の一つであり、重症では心理療法と組み合わせて使用するとされる。 日本うつ病学会のガイドラインによれば、中等症・重症うつ病に対しては、1種類の抗うつ薬の使用を基本とし、十分な量の抗うつ薬を十分な期間に渡って投与すべきである、また寛解維持期には十分な継続・維持療法を行い、抗うつ薬の投与の終結を急ぐべきではないとしている。一方で軽症うつ病に対しては、薬物療法もしくは体系化された精神療法を、単独もしくは組み合わせて用いることを推奨しており、軽症うつ病への薬物療法の是非は議論が分かれるとしている。 詳細は「抗うつ薬#議論」を参照 抗うつ薬の投与は、抑うつ症状が見られなくなってから9-12ヶ月経過し、かつ日常生活を行うことができる状態であれば、投与中断を検討する。減薬に際しては離脱症状が起こりえるため、4週間以上の時間をかけて行う。重度の離脱症状の場合は投与を再開し、さらに時間をかけて減薬する。
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