危機にある精神薬理学
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2010年のCINPの会議ではヒトでの精神薬理学の870の論文のうち、4つだけが新しい機序を説明していたことが報告された。 2011年『ネイチャー』誌は「危機にある精神薬理学」という記事を掲載し、アストラゼネカやグラクソスミスクラインといった製薬会社が研究資金を削減し、研究チームも閉鎖していることや、欧州精神薬理学会が新しい治療法が危機に瀕していると報告していることを掲載した。『英国精神薬理学会』誌は、「消滅する臨床精神薬理学」という記事にて説明し、両2社は抗うつ薬や抗精神病薬によって莫大な利益を上げたにもかかわらず、この分野がリスキーであると判断したということである。2012年には『英国精神医学雑誌』も「精神薬理学の革命の終焉」とした編集者のコメントが掲載されており、これはまた別の意味であり、抗精神病薬の使用において、危険性が利益を上回るという証拠や、多様な治療法があるため、薬を服用しないという選択も考慮されることについて述べている。統合失調症やうつ病は1970年代に解明された機序を持つ薬によって未だ治療されており、(比較的最近の)第二世代の抗精神病薬は以前のものと同じ有効性であることが判明している。 リチウムの気分安定作用の革新的な発見に始まり、抗結核薬イプロニアジドの抗うつ作用、嘔吐抑制薬クロルプロマジンの抗精神病作用と続き、今では20以上の抗精神病薬と30以上の抗うつ薬があるが、主な障害の罹患率や死亡率の低下は見られておらず、この原因として抗うつ薬による治療の寛解率の低さや、抗精神病薬による治療の中断率の高さが見られている。現在のすべての種類の精神科の薬は偶然の発見であり、これに基づいて多くの薬剤が合成されてきたが、同じ作用機序をもつ模倣薬(me too drug)であり、新しい分子標的の観点から神経科学の知識を深めるということはない。 国際神経精神薬理学会(CINP)は、脳の複雑性のために未解決の問題が多く脳科学の研究を推進していく必要があり、薬の多くは根本的治療には程遠く効果と副作用に問題があり、薬の作用する新たな標的を探す必要があることから、EU、北米、日本、その他の国々の政府に対して革新的な創薬ができるようなアクションプランを提案した。
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