性被害の暗数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 09:50 UTC 版)
中里見博は、「ポルノグラフィによって女性への性暴力が喚起・誘発される」という研究が確立されているとは言えないが、させないという研究も確立されておらず、ポルノグラフィがジェンダーをめぐる政治闘争である以上、論争は当たり前であるとした。「現実に年間数十万の強制わいせつ罪やドメスティックバイオレンスが発生している社会で、そうした犯罪を男性の娯楽として提供する商品を使って、マスターベーションする男性が数千万人もいるなか、犯罪の発生に因果関係がないといえるのか」と述べた。 この発言当時(2007年)の法務省「犯罪白書」によると、強制わいせつの認知件数は8326件、検挙件数は3779件だった。2017年の刑法改正前なので、対象は女性のみである。強姦罪の検挙件数は、1965年(昭和40年)頃は6000件を超えていたが、その後20年間ほどの長期にかけて次第に減少していき、1985年(昭和60年)の検挙件数は2000件程度となり、その後も、強姦罪の検挙件数は徐々に減る傾向にあり、近年のデータでは、強姦罪の検挙件数は1000件前後になっている。金城大学社会福祉学部助教授・准教授の高島智世は、日本の犯罪行為の実態は戦後を通じて改善してきており、専門家は「少なくとも今のところは日本は先進国の中でも飛びぬけて犯罪の少ない国である」という主張を採用しているとしている。 しかし性犯罪は親告罪で、暗数が非常に多い特殊な犯罪である。被害にあうことは恥ずかしいと考えられており、PTSDとの関わりも強い。数字は実際の犯罪のごく一部であると知った上で見る必要がある。 琉球大学大学院法務研究科教授の矢野恵美は、内閣府男女共同参画局が定期的に行う「男女間の暴力に関する調査」や、「犯罪被害実態(暗数)調査(原題:International Crime Victims Survey/ICVS/国際犯罪被害者調査)」における「性的な被害」等、警察に届けたかに関わらず、被害者に状況を聞くタイプの調査の結果にも目配りする必要があるとしている。これらの調査では、2012年の日本の場合、被害を届け出る女性は18.5%である。これに当てはめると、強姦は5346件、強制わいせつは33449件で合計38795件となり、1日あたり、強姦は15件、強制わいせつは92件起きていることになる。また、「日本の暗数が海外に比べてことさら高いとはいえず、同程度である」とされている。また国際犯罪被害調査(ICVS)からは、2000年を境にみると、日本の「性的暴行」の被害率は横ばいであること、一方で警察への届出率は上がっているという調査結果が得られている。 一方で高島智世は、1970年代からフェミニズム運動の異議申し立てに呼応して、保護法益の切り替え、レイプシールド法の設立、男女ともへの性侵害罪の適用など刑法における「性侵害犯罪の再定義」が行われたとし、日本でも性侵害罪の根本的な定義の見直しが求められるとした。この定義の見直しは2017年の刑法改正で行われたが、まだ十分ではないと指摘されている。
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