家畜排泄物などによる影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 19:59 UTC 版)
家畜糞尿や屠殺場から排出される汚水に含まれるアンモニア・窒素・リン・油・糞便細菌・病原体などが環境汚染の原因となっている。 汚染経路はさまざまであり、家畜糞尿によるもの、家畜糞尿をたい肥化した肥料の過剰使用、屠殺場からの廃水排出によるものであったりする。 一年間に家畜排せつ物の量は、世界の全人口の排泄物の2倍に相当し、日本国内だけでも、年間、東京ドームの容積の約75倍に相当する家畜糞便が排出されている。通常、政府はヒトのし尿処理についての厳しい規制を設けているが、家畜排せつ物や屠殺場から出る汚水処理についての規制はそれらと比較して大幅に緩いものとなっており、適切に処理されなかった場合、窒素やリンが水系への富栄養化汚染を引き起こす。2017年に、国際連合食糧農業機関(FAO)が発表したレポート「農業からの水質汚染」は、急速に成長している畜産業が、水質に「深刻な影響を及ぼしている」と報告する。 家畜には多くの抗生物質が投与されるが(日本の場合は抗生物質の2/3が家畜に使用される)、一般的に有効成分の30〜90%は摂取後に排泄され、下水処理施設を介して環境に侵入することができる。畜産場の近くの土壌や水には、高レベルの抗生物質や抗生物質耐性菌が見られるという報告や、養豚場の近くにある集落の、感染症や貧血、腎臓病などによる死亡率は、他の地域よりも30%高いという報告がある。 また、家畜飼料には増体などを目的として様々な金属が添加されるため、家畜糞堆肥は、重金属汚染の主要な世界的発生源の1つとも考えられている。そして家畜排せつ物から発生するアンモニアは、人間の健康と生態系に重大な影響を与える可能性のある主要な大気汚染物質であり、土壌や水系へも悪影響を及ぼす。そのため、2021年、オランダの財務省と農業省の公務員は、家畜によるアンモニア汚染を減らすために、家畜の数を30%削減することを含む提案を作成している。 2021年のレポートによると、大量の肥料を持続可能な方法で管理する方法をサプライヤーに提供している大手食肉会社はなく、タイソン・フーズ、JBS、スミスフィールドといった大手食肉処理場(屠殺場)には、最大許容限度をはるかに超える汚染物質の排出の記録があることがわかった。 家畜糞便由来の窒素は温室効果ガスの一種でもある。2021年12月に発足したオランダの新連立政権は、気候変動対策として、2035年までに250億ユーロ(約3兆3000億円)を投じて家畜頭数を削減し、窒素排出量を抑制する取り組みを支援する意向を示している。 また、家畜排せつ物をスラリータンクなどで処理する過程における嫌気性分解では、温室効果ガスであるメタンが生成される。
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