官僚支配と積み重なる課題 - 独法化前夜(- 2010年)
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「国立がん研究センター」の記事における「官僚支配と積み重なる課題 - 独法化前夜(- 2010年)」の解説
1962年に創立されて以降、胃カメラ、消化管二重造影法、気管支鏡の開発など世界的な業績を挙げてきた国立がんセンターもやがて制度疲労を見せ始める。 始めに、病院と研究所をつなぎ両者を補佐するとされた運営部の権限の肥大化である。杉村隆がこの点を指摘した2002年の段階では、すでに、運営部長が、がんセンターの現場を補佐、代表する役割から離れ、本省の意向を単に伝達する職になってしまっていた。この運営部長は、総長に次ぐポジションであり、病院長よりも上に位置しているにもかかわらず、本省から出向した現場を知らない官僚が座っていたからだ。総長をはじめセンター幹部の人事権は厚労省に握られているため、運営部長は本省の威光をかさに絶大な権限をふるったのである。加えて、看護師、放射線技師、臨床検査技師、事務職員についても、その任命権者は総長にありながら、実際の指名者が本省になってしまっており、総長や病院長によるガバナンスが機能不全に陥っていた。こうしたガバナンスの不在は、病院事務職員の3,040万円の横領事件や麻酔科医一斉退職、数々の週刊誌沙汰などとして現れることにもなった。 また、前述したように官僚主導の病棟新設による莫大な借金(600億)の存在も重荷となった。国の特別会計からの借り入れで金利は4-5%で、返済期間は25年。年間の診療報酬収入250億円に対して、この借金の利息だけでも30億円を費やしてしまうありさまであった。そして、そのしわ寄せは現場に及び、レジデント、リサーチレジデントの劣悪な就労環境(医師の約半数は非常勤で手取りの月給が20万円ほど)ならびに臨時職員化など、人件費節約による収支あわせのみを考えた経営姿勢が進み、研究業績の低迷などとなってあらわれることになった。 独法化前の病院長であった土屋了介の当時の発言を借りれば、「日本を代表するがんの臨床現場であり、専門家がそろったこのセンターで、いま必要とされているのは、現場の自主独立だ。官僚管理を脱しない限り、世界と伍してやっていけるはずがない」状況にあった。
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