大規模な地殻変動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 04:07 UTC 版)
「東北地方太平洋沖地震及び津波のメカニズム」の記事における「大規模な地殻変動」の解説
地震前後および地震後の地殻変動(水平)を示した図 東北地方太平洋沖地震によって、極めて大規模な地殻変動が起こった。まず東北地方を中心とした東北日本全体が東に引っ張られ、かつ東北日本太平洋沿岸一帯が沈降した。最も大きな変位が観測されたのが宮城県の牡鹿半島で、東南東に約5.3メートル移動し、また約1.2メートル沈降した。また東北地方太平洋沿岸は軒並み数メートル東南東ないし東に移動し、数十センチから約1メートル沈降した。一方、東北地方の日本海沿岸は約1メートル程度しか移動していないため、東北地方全体としては最大で約4メートル程度引き伸ばされたことになる。そして茨城県南部から千葉県にかけては、2011年3月11日の15時15分に発生した最大余震による変動が、本震による変動を上回っている。 また東北大学と海上保安庁の海洋地殻変動観測点における観測結果では、宮城県沖の日本海溝の海溝軸に最も近い観測点では、東南東方向に31メートル移動しており、そして3.9メートルの隆起が観測された。また大きな変位が観測された観測点から少し離れると変位量が目立って減少していた。これらのことから宮城県沖の日本海溝の海溝軸では極めて大きなすべりが発生していることと、大規模なすべりが発生した地域は宮城県沖の海溝軸付近に限られると考えられる。 先述した通り、東北地方は約300万年前から基本的に隆起が続いていると考えられるが、ここ約100年の測量結果では太平洋沿岸のほとんどの地域で沈降が観測されている。そのため東北地方太平洋沿岸一帯を隆起させる未知の大規模なプレート間のすべりの存在が想定されていたが、東北地方太平洋沖地震では東北地方の太平洋沿岸一帯で顕著な沈降が発生しており、地形学的な観察結果と測地データ間に見られた矛盾の解消どころか更に矛盾が深まることになった。この矛盾の解決としては、やはり東北地方の太平洋沿岸の近くに未知の活断層があって、その活断層を震源とする未知の巨大地震が存在するという考え方、沿岸部を隆起させるプレート境界の深い部分で発生する地震によらないスロースリップがあるという考え方、そして東北地方太平洋沖地震の後に続く余効変動によって隆起が発生するなどといった可能性が指摘されている。中でも特に余効変動による隆起活動の継続を有力視する意見が多く出されているが、東北地方太平洋沖地震後に実際に観測されている余効変動による隆起量では、ここ数十年間で地震による沈降と地震前から続いている沈降を上回る隆起が起こるとは考えにくいとの結果が出されている。 一方、東北地方を東西から圧縮する力については、最近のGPSによる観測結果では東北地方に年30-50ミリ程度の短縮が観測されていた。地形学によれば年に数ミリ程度の短縮が推定されていて、実測値の短縮が理論値を大きく上回っており、東北地方太平洋沖地震によって東北地方が東西方向に最大で約4メートル引き伸ばされたことは、通常時に東西方向に大きく圧縮されていた東北地方が、今回のような巨大地震によって引き伸ばされることが明らかになったことによって、観測値と地形学の整合性が取れるようになったとの評価もなされている。しかし先述したように過去約100年間に東北地方はほぼ伸縮していないかむしろ伸長しているとの観測データもあり、このデータに従えば、100年以下のスパンで発生するマグニチュード7ないし8程度の地震によって、通常期に見られる東西短縮が解消されるとの解釈も可能であるため、矛盾が完全に解決を見たわけではない。
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