外国技術導入による製鉄所・鉱山設備
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「中小坂鉄山」の記事における「外国技術導入による製鉄所・鉱山設備」の解説
ガール、ウォートルスの指導により、主に輸入した資材で建設された中小坂鉄山の鉱山施設と製鉄所は、極めて効率的に設計されていた。まず鉱山施設については、中小坂鉱山は標高約440メートルの山の尾根付近にある露頭から、3本の鉱脈が山体内を下降しており、約500万トンの鉄鉱石が埋蔵されていると推定された。中小坂鉄山での鉄鉱石の採掘は、まず山の尾根にある露頭から坑道掘りで採掘が行われ、採掘された鉄鉱石は坑道内の立坑に設けられたシュートを用いて、標高約320メートルの位置に掘削された運搬用の坑道に落とされ、運搬用の坑道内で鉄鉱石はトロッコに入れられて搬出された。 採掘された鉄鉱石は引き続き、ほぼ等高線上に敷設された軌道の幅約60センチのトロッコで約668メートルの距離を運ばれた上、シュートを通って製鉄所上の焙焼炉にもたらされ、石灰石などとともに焙焼処理がなされた。焙焼処理が終了後、鉱石はクラッシャー、ハンマーを用いて高炉装入用に粒度を揃えられた。また高炉で用いられる木炭も、鉱山と反対側の沢筋に設けられた炭焼小屋から、やはりほぼ等高線上に敷設されたトロッコ軌道によって運搬された。そして焙焼処理が終了して高炉装入用に粒度が整えられた鉄鉱石と木炭は、捲揚機を用いることなくトロッコによって高炉上部に設けられた装入口より高炉に装入され、鉄鉱石と木炭を高炉まで運搬した後の、空になったトロッコは高炉上部を一周して高炉装入用の鉄鉱石と木炭の積み込み場まで戻るようになっていた。また製鉄所で用いる用水も沢筋から等高線にほぼ沿う形で製鉄所内に引水され、製鉄時に出るスラグもトロッコによってノロ捨て場に運び出すようになっていた。このように中小坂鉄山の鉱山設備と製鉄所は、運搬手段が未発達であった19世紀後半という時代において、鉄鉱石や木炭などの重量がある原料等を自然の地形を巧みに利用して運搬する効率化、省力化が図られており、その結果として製鉄コストの削減が実現されていた。 当時の中小坂鉄山で使用された木炭の原料となる木は、現在の下仁田町、安中市、南牧村にある山林から供給された。また現在の下仁田町から南牧村にかけて良質な石灰石が産出し、中小坂鉄山の製鉄に用いられた。近隣に豊富な森林資源と石灰石に恵まれた点も中小坂鉄山の経営を助けた。 ガール、ウォートルスの指導により建設された中小坂鉄山では、日本で初の蒸気機関、そして熱風の高炉内への送風を行うという方式で西洋式の高炉操業を実現し、更に高炉で生産された銑鉄を、パドル炉によって錬鉄とし、更に鍛鉄、そして銑鉄の鋳造設備も完備されており、高炉での銑鉄生産にとどまらず製品まで生産した総合的な製鉄所であるという特徴があった。1870年代当時、欧米の製鉄では転炉、平炉による鋼鉄製造がようやく広まり始めた時期であり、まだ中小坂鉄山に建設された方式と同様の、高炉、パドル炉による錬鉄製造、そして鍛鉄の製造という製鉄方法が主流であった。このような欧米で主流であった設備は当時の日本の技術力では製作が困難であったと見られ、中小坂鉄山と製鉄所の設備の多くは輸入に頼ることになった。例えば高炉の耐火レンガはイギリス製であったことが判明している。また鉱山と製鉄所の運営、管理も外国人であるウォートルス、ベルギレンの指導によって行われることになった。 中小坂鉄山のもう一つの特徴としては、鉱山での鉄鉱石採掘から鉄製品の製造に至るまでの一貫した設備を、民間資本の手によって比較的少額で建設したという点にある。丹羽正庸経営時の中小坂鉄山の建設費は、鉄鉱山と製鉄所の合計で約7万円であり、明治8年(1875年)に建設が開始された官営釜石製鉄所の建設費用に総額約237万円が費やされたことに比べて著しく安価であった。巧みに建設された鉱山設備等で省力化が図られていたこともあって、中小坂鉄山の銑鉄一トンあたりの製造単価は約36円となり、当時外国から輸入されていた銑鉄一トンあたり約50円という単価を下回ることが出来た。 このような当時の日本で最新鋭の設備を備えた中小坂鉄山で生産された鉄は、上、中、下の三種類に分別され、上は海軍省、中は高崎製鉄造所、東京鉄管製造に販売されたとの記録が残っている。明治から大正期に陸軍砲工学校で用いられた教科書には、当時世界的な鉄の産地として知られていたウエールズ南東部のブレナヴォン製鉄所製の鉄インゴットとともに、中小坂鉄山のインゴットが紹介されており、中小坂鉄山の鉄が高く評価されていたことを示している。また中小坂の製鉄所で鋳造された鉄瓶、鉄釜、火鉢などといった鉄製品も今に遺されている。
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