在日認定に対する罰則
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 23:07 UTC 版)
ある特定の人物の氏名や出身地について事実と異なる情報を公に喧伝する行為は、仮にそれが価値中立的なものであるとしても、日本の場合は当該人物の名誉感情や人格的利益の侵害にあたるとされ、民法709条に基づく損害賠償責任を免れない。この点についてのリーディングケースとなったのが2006年に起きた土井たか子元衆議院議員に対する在日認定を巡る民事訴訟である。 訴訟の原因となったのは、元産経新聞編集部長の花岡信昭が論壇誌WiLL2006年5月号に寄稿した「拉致実行犯辛光洙釈放を嘆願した“社民党名誉党首”」と題する記事である。記事の中で花岡は「土井たか子は朝鮮半島出身で本名は『李高順』である」と土井に対する在日認定を行った上で、「そのことが土井の拉致事件を見る目を曇らせたのか、すべて知った上で政治的演技をしていたのか」と論じ、祖国・北朝鮮の利益を図るために日本の利益を蔑ろにしたのだと土井を婉曲的に糾弾した。 戸籍謄本および改製原戸籍謄本の記載によると土井は日本人夫婦の次女として兵庫県神戸市に生まれており、花岡による在日認定は事実に反していた。また花岡は土井に対する取材等の裏付けを全く行わず、インターネット上で流布されていた情報のみに基づいて在日認定を行っていた。これに対して土井は記事によって名誉感情や信用を含む人格的権利を侵害されたとして、2007年4月18日、WiLLを出版するワック・マガジンズと同社代表取締役(当時)の花田紀凱、記事を執筆した花岡の三者を相手取り、1000万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求める民事訴訟を起こした。 神戸地裁尼崎支部は2008年11月13日、記事はあたかも土井が朝鮮人であるがゆえに日本以外の本国の利益を優先して、日本国民の安全などの利益を蔑ろにするという日本の政治家としてあるまじき行為をしていたかのような印象を与えるものであり、土井の社会的評価を低下させたとして名誉権の侵害を、また虚偽の在日認定について以下のように述べて名誉感情および人格的利益の侵害をそれぞれ認め、被告らに対して200万円の賠償を命じた。謝罪広告については記事の影響力の小ささを理由に退けた。 …また、氏名は、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容として構成するものというべきであることや、人は、自己の氏名や出身地を人格の重要な構成要素として捉え、これらに強い愛着を抱くことが自然であること(原告が自己の氏名や出身地に強い愛着を持っていることは弁論の全趣旨から明らかである。)などによれば、本件記載が氏名や出身地について価値中立的な事実を摘示するものであるとしても、明らかに虚偽の事実を記述するものである以上、本件記載は原告の名誉感情や人格的利益を侵害するものということができる。 被告らは判決を不服として大阪高裁に控訴したが棄却され、さらに最高裁に上告したものの、2009年9月29日に上告を退ける決定が下された。これにより神戸地裁の判決が確定した。
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