四柱スター競演
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/02 10:17 UTC 版)
『人斬り』の主役となる岡田以蔵は、製作の勝プロダクション社長でもある勝新太郎が演じている。独立プロを持つ以前は市川雷蔵と共に「カツライス」と呼ばれて大映の二枚看板を担っていた大スター勝新太郎は、映画史に残る時代劇『座頭市』シリーズに代表されるように、迫力満点の殺陣の演技で定評があり、その怪物的なアウトロー役のスケールの大きさと貫禄は主役を張るのに充分であった。 岡田以蔵といえば、幕末の京都で土佐最強の「人斬り」として怖れられた冷徹な暗殺者という暗く殺気のあるイメージだが、勝新太郎の演じる以蔵はどこか人懐っこく感情表現豊かで、泥臭く人間味のある硬骨漢として登場する。また、以蔵が未来に明るい希望を宿しつつ挫折を味わい、絶望の淵から這い上がろうとする様も哀切風に描かれ、坂本龍馬や田中新兵衛との友情や、女郎・おみのへの情愛なども加味された演出となっている。 以蔵の生涯に大きな影響を及ぼした土佐勤皇党盟主・武市半平太役には、黒澤明監督の映画などで注目され『人間の条件』で不動の地位を得て重厚な演劇人として名高い仲代達矢が選ばれた。仲代はフジテレビ製作映画第1弾の『御用金』にも出演している。仲代の演じる武市は以蔵とは正反対の性格の人物として登場し、前半は清廉な革命家、物語後半は冷徹かつ非情な都の独裁者として描かれ、テロの首謀者といった趣の演出となっている。 武市や以蔵と同じ土佐藩出身ながらも、異なる手法で倒幕を図る坂本龍馬役には石原裕次郎が訥々と扮し、以蔵が武市の飼犬となり人斬りの道を盲目的に邁進するのを時に静かに諌め、以蔵の苦境を救う存在として登場する。竜馬は武市の冷酷さとは好対照な温かい友愛を示す人物として演出されている。日活の大スターだった裕次郎も、勝同様に個人事務所の石原プロモーションを当時すでに設立して活躍していた。 以蔵と同じく暗殺者として生きる「人斬り新兵衛」こと薩摩藩士・田中新兵衛に起用されたのは、民兵組織「楯の会」の主宰やノーベル文学賞候補として当時注目されていた文壇のスター三島由紀夫であった。三島の演じる新兵衛は、殺気みなぎる人物として登場し、見事な殺陣や以蔵との友情、突然の切腹死で鮮烈な印象を残す存在として演出されている。この『人斬り』公開の翌年、三島自身も「楯の会」同志と三島事件で壮絶な割腹自決を遂げることとなり、その後『人斬り』の価値がセンセーショナルな話題を呼ぶものとなった。
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