命中精度の低さ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/25 02:02 UTC 版)
基本的に弾道ミサイルの原理は、最初の数分間加速した後は慣性で飛行するというだけである。つまり最初の数分間で到達した速度によって、着弾地点はほとんど決まる。加速終了地点から着弾地点までの距離が短ければその差はそれほど問題にはならないが、弾道ミサイルは数千km単位で飛ぶためその誤差は徐々に大きくなり着弾地点では大きな差となってしまう。よって弾道弾が長射程になるほど、その誘導装置は高度な技術が必要で高価となり、開発国の技術レベルが国家の戦略にも影響を与える。 命中精度の指数であるCEP(半数必中界)は100m-2km程度で、優秀であるほど兵器としての運用の柔軟性を持つ。米ソ(ロシア)の保有するICBMの飛翔距離は1万キロメートルを超える射程であるにもかかわらず、CEPは100-200メートルである。CEPが小さければ、統計的に見て着弾地点を目標に近付けることができるため、弾頭威力が低くとも目標に対して十分な破壊力を発揮する事ができる。 弾頭威力が低くても構わないということは(その技術があると言う前提ではあるが)弾頭の小型化を図ることができ、弾道弾の搭載量が充分であれば多弾頭化(MRV)を行う事ができる。誘導技術がさらに進歩するならば、複数個別誘導再突入体(MIRV)が可能になり、さらには大威力弾頭で大雑把に広範囲の施設を破壊するだけのカウンターバリュー戦略から、軍事目標を選択して重要な拠点のみを攻撃するカウンターフォース戦略に選択肢を広げる事が可能となり、膨大な火薬の使用や不必要な破壊を防ぐ事ができる。 この誘導装置の能力(命中精度)から、目標を破壊するための所要威力が算定され、その威力を発揮する核弾頭の小型化が困難であれば、弾頭は大型化し、弾道弾のペイロードを食いつぶすために必然的に単弾頭化し、射程も短くなる。弾道ミサイルには艦船や特定施設(レーダーサイト・港・空港・原子力発電所・司令部等)を、通常弾頭で命中を期待できるピンポイント攻撃能力はなかったが、1960年代のソビエト連邦はアメリカの技術的な進展を危惧して、地図上の重要都市を実際の場所から数十キロ単位で意図的にずらして表記するなどの対応を行っていた。21世紀では海上の艦船を攻撃対象とした対艦弾道ミサイルの開発が中国やインド、イランで行われている。通常弾頭の場合、弾道ミサイルで海上にいる艦船を正確に攻撃する必要がある。 北朝鮮は、保有する弾道ミサイルの誤差が1kmほどであり、弾道ミサイルと核兵器をセットで開発して、敵目標の壊滅効果を高めている。弾道ミサイルを原子力発電所など「特定の施設」に狙って撃ち込まれるという誤解があるが、そもそも命中率が低いからこそ、弾頭に核兵器を積んで『目標の誤差などを無視』して、攻撃目標を殲滅させるのである。
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