名称をめぐる紛争
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/20 09:11 UTC 版)
「バドワイザー」(Budweiser)の名称は、ヨーロッパ屈指の中世以来のビール産地として広く知られているチェコ・南ボヘミア州のチェスケー・ブジェヨヴィツェ市のドイツ語地名・ベーミッシュ・ブトヴァイス(Böhmisch Budweis、ボヘミア地方のブドヴァイス)にちなんだもの。本来は同市の自治都市理事会が地名の使用を許可したブジェヨヴィツェ市民醸造(pivovar převzat Budějovickými měšťany、現・ブジェヨヴィツェ市民醸造株式会社)生産の「ブドヴァイゼル・ベルゲブロイ」(英語・チェコ語:Budweiser Bürgerbräu)および「ブドヴァイゼル・ビール」(英語 : Budweiser Bier)と、チェコ合同醸造(Český akciový pivovar、現・ブジェヨヴィツェ・ブドヴァル国営会社)生産の「ブドヴァイゼル・ブドヴァル」(英語:Budweiser Budvar、チェコ語:Budějovický Budvar)の2ブランドを指す。 これに対しアメリカの「バドワイザー」は、ブジェヨヴィツェ市民醸造およびチェコ合同醸造とは無関係のドイツ系アメリカ移民のアドルファス・ブッシュ(英語版)が1876年、著名ビール名産地の「ブドヴァイス」にあやかろうと、自らが発売したピルスナータイプのビールに「バドワイザー・ラガー・ビール」(Budweiser Lager Bier)と勝手に命名して誕生した。 このとき米国では既にブジェヨヴィツェ市民醸造が「ブドヴァイゼル・ベルゲブロイ」の販売を行っていたが(1871年対米輸出開始)、アドルファス・ブッシュはアメリカ国内で「バドワイザー」の商標登録を行ったため、ブジェヨヴィツェ市民醸造およびチェコ合同醸造との間で商標を巡る訴訟に発展。1911年および1939年に、チェコ側が北米および米国保護領に限り商標権を放棄することで合意した。 この合意に基づき、現在もヨーロッパの主な国でアンハイザー・ブッシュ社は商標「バドワイザー」を使うことが認められず、製品は「Bud」(バド)「Busch」(ブッシュ)の名前で販売されている。逆にアメリカ、カナダでは、ブドヴァイゼル・ブドヴァルは「Czechvar」(チェコヴァル)、ブドヴァイゼル・ベルゲブロイは"Budweis City Bier"(ブドヴァイス市のビール)を略した「BB Bürgerbräu」(BBベルゲブロイ)の名前で販売している。アンハイザー・ブッシュ社は全世界でのバドワイザー販売を実現するため、ブジェヨヴィツェ・ブドヴァル国営会社に商標の買い取りを申し出たものの、ブドヴァル社側はこれを拒否している。 一方でアンハイザー・ブッシュ社はチェコ側に先んじて日本を含む世界各国で「バドワイザー」の商標登録を行い、ブジェヨヴィツェ・ブドヴァル国営会社に対してチェコ産「ブドヴァイゼル」ブランドビールの輸入・販売差し止めの訴訟を起こしている。 日本においてはアンハイザー・ブッシュ社が商標登録を行っており(登録商標第1665191号)、アンハイザー・ブッシュ社は2002年、日本への「ブドヴァイゼル」ビール輸出を始めたブジェヨヴィツェ・ブドヴァル国営会社に対し、「ブドヴァイゼル」ビールの輸入・販売の差し止めと損害賠償を求める訴訟を起こしたが、東京高等裁判所は2003年、チェコ側の商標権放棄範囲を北米などに限定した1911年および1939年の合意の有効性を認めた上で、両者が誤認混同される恐れはなくアンハイザー・ブッシュ社側の訴えは商標権の濫用であるとして、「ブドヴァイゼル・ブドヴァル」(Budweiser Budvar)「ブジェヨヴィキ・ブドヴァル」(Budějovický Budvar)と記されたチェコ社製ビールの輸入・販売は制限されないとの判決を下した。 この裁判でアンハイザー・ブッシュ社側は、商標"Budweiser"はアドルファス・ブッシュが独自に生み出したオリジナルの造語だと主張したものの、東京高裁はアンハイザー・ブッシュ社自身が広告でチェスケー・ブジェヨヴィツェ市産ビールにあやかって命名したことを広く宣伝していることを指摘。アンハイザー・ブッシュ社の主張は「到底採用できない」としてこれを退けた。 2006年には中国でも司法当局が同様の判断を下し、アンハイザー・ブッシュ社側の訴えを退けた。
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