冬季の離着陸
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/17 03:15 UTC 版)
南極の飛行場は極端な季節性気象や地理的な条件に制限され、規制が厳しい上にICAO標準を満たさないため、利用には別途、手続きが発生する。特に日照が全くない冬季は南極大陸への空路はほぼ閉ざされ、後述のような緊急対応の節には滑走路の輪郭を示すためドラム缶を並べて燃料油を焚く。 暗視ゴーグルを使い、冬季のペガサス基地(en)に着陸を成功させたのは2008年9月11日、アメリカ空軍機C-17 グローブマスターIIIである。 民間機による南極大陸の冬季離着陸は2001年4月、アムンゼン・スコット南極観測基地の当番医ロナルド・シメンスキーが肝炎を発症し、手術を行える病院への搬送が決まった時にさかのぼる。基地責任者の発請を受けたアメリカ空軍はC-130ハーキュリーズをニュージーランド(クライストチャーチ)から派遣するが、いったん着陸すると悪天候のため帰還できる見込みが立たず3機とも呼び戻している。 万策尽きた基地関係者はデンバー(アメリカ西海岸)の支援組織と相談すると、まずカナダ空軍と交渉し、次に極地輸送に精通する運輸会社のつてでカナダ・アルバータ州の民間企業ケン・ボーレック・エアに連絡を取る。同社には南極の航行実績がある操縦士がおり、カナダの極地方に適応したデハビランド製DHC-6 ツインオッター機でビクトリア州の遠距離通勤を支えていた。交代の医師を乗せバックアップ機ともども合計2機をカルガリーから出した同社は社是「地球上ならいつでもどこでも」("Anywhere, Anytime, World-Wide")を守る結果とはなるが、まさに綱渡りの搬送であった。カルガリーからプンタ・アレーナス(チリ)とイギリスのロセラ観測基地(en)を経て救援機が到着するまで10日、観測基地の職員は冬季の気象条件に対応していないトラクターを苦労して操り 2 km の滑走路を切り拓いた。 5日がかりでチリに到達したツインオッター機は南極半島のロセラ基地で天候回復を待ち36時間待機、10時間がかりで目的地に到着するが、駐機中に翼のフラップが凍結してしまい、「応急措置」で離陸する。操縦士は計器が正常に作動しているか疑いながら航行し、無事にチリに降り立った。こうして冬季の南極点を発したフライトが航空史上初めて成功した。カナダ政府は勇気ある搭乗員の偉業をたたえ、叙勲した。 航空機にはBT-67、Il-76、降着装置にスキーを採用し、離陸用にJATOをつけたロッキード LC-130などが利用されている[要出典]。
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