予定外の運用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/03 13:41 UTC 版)
「μ10 (イオンエンジン)」の記事における「予定外の運用」の解説
はやぶさの運用において姿勢制御用のX・Y軸リアクションホイール及びヒドラジンスラスタ2系統が故障した際、中和器からキセノンガスを噴射することで姿勢制御を行った。イトカワ着陸前後に相次いだトラブルの影響で、当初の予定より遅れて地球帰還のための軌道変換を開始。設計寿命以上の長時間運用を行うことになった。 2007年4月にイオンエンジンBの、2009年11月にはイオンエンジンDの中和器が、劣化が原因と思われる機能の極端な低下を起こした。残るイオンエンジンCだけでは2010年の地球帰還は困難であったが、「イオンエンジンB」と「イオンエンジンAの中和器」という変則(クロス)運転に成功し、いくらかの効率の低下はあったもののイオンエンジン1機相当の推力を確保し軌道変換を続けることができた。本来であればイオン源からの正の電荷を持つプラズマジェットに対し、定電流制御された電源によって中和器から放出された電子を機外に引き出し、プラズマジェットの正電荷を中和することで宇宙機筐体の電位を中立に保つシステムであるのだが、各エンジンのプラズマ生成部・中和器にそれぞれ独立した電源を用意したことと、厳しい重量制限ゆえに中和器の回路に洗練された回路を組めず、やむなく中和器の電源に並列にバイパスダイオードを付けたことでイオン源と中和器と独立して運転(論文中では『クロス運転』と記述)を可能にした。クロス運転時、このダイオードにより宇宙機筐体が負に帯電(約50ボルト)し、正常な中和器から空間に向けて電子を引き出すことに成功した。このような運転では宇宙機の電位を知ることが不可能な上に、宇宙機筐体の電位が負に沈んだ分だけイオンの加速電圧が下がるため、推力がテレメトリーによる観測値からの期待値より下がる問題がある(そのぶん針路予測で誤差が出る)受動的な制御によるそのような運転モードが可能なようにしておいたものが功を奏したものである。原理上、探査機全体の電位が本来とはずれた状態になることもあり、地上での試験は行っていなかったためぶっつけ本番の運用であった。予定されたミッションに必要な量以上の推進剤を搭載していたことも、直接噴射による姿勢制御やエンジンの変則的な運転(推力を発生していない側も推進剤供給はカットできないため、そちら側は「垂れ流し」とせざるをえなかった)といった予定外の運用を行う余裕を生んだ。
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