三角館の恐怖
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『三角館の恐怖』(さんかくかんのきょうふ)は、 ロジャー・スカーレットの小説を江戸川乱歩が翻案した長編探偵小説。
概要
ロジャー・スカーレットの長編小説である『エンジェル家の殺人』を、江戸川乱歩が翻案・脚色・再構成した長編小説。本作は1951年(昭和26年)1月号から12月号まで、光文社の『面白倶楽部』に連載された。
乱歩は原作の『エンジェル家の殺人』を「初読、再読ひっくるめて、巻をおくあたわざる興味と興奮を覚えたのは、『僧正殺人事件』『赤毛のレドメイン家』「黄色い部屋』『Yの悲劇』の四作だったが、『エンジェル家』にも同じ興奮を感じた。」とベスト・テンに入れるほど評価した[1]。だが、「『面白倶楽部』に毎月書いているうちに、原本の文章があまりよくないこともわかり、その後の私のベスト・テンには入れていない。しかし、初読の感銘はこの引用文の通りであった。」と評価を改めている[2]。また、原作にはない「読者への挑戦」 が追加されている。
あらすじ
中央ホールとエレベータでL字型の西洋館を二分して2つの家族が住む館は、いつしか三角館と呼ばれるようになっていた。父の遺言に従い「長生きした側が全財産を相続する」と決めて四十年余、家族ぐるみで対立を続ける双子の老人健作と康造。自らの余命が幾許もないと悟った健作は、弁護士である森川五郎立ち会いの下、どちらが先に亡くなっても子供たちに平等に財産を相続させる契約を交わそうとするが、康造は承知しない。康造は芳夫に健作の提案を断ることと、自分の部屋の手提げ金庫から時々お金が盗まれていることを相談する。金庫を取りに行く途中の芳夫に、執事の猿田が客が来ていると伝えるが、玄関にも客間にも誰もいない。そして金庫を持ってきた芳夫と相談している最中に、健作が射殺される。猿田は客間で殴られて倒れていた。
健作は、互いの子供達に遺産を等分する康造との約束を守るため、契約書の作成を森川弁護士に依頼する。健作は皆を一階の客間に集まらせ、全員の前で契約書に判を押すため、エレベータで三階から一階へと降りて来る。だが、到着したときには健作はエレベータの密室の中で刺殺されていた。捜査担当の篠警部は、森川弁護士にエレベータ殺害のトリックを語る。そして篠警部は契約書を餌に犯人を誘き出して捕まえるため、森川弁護士と蛭峰家の男性四人に協力させる。契約書をしまってある金庫の前に現れた犯人は、意外な人物だった。
登場人物
- 蛭峰健作
- 三角館の一方の主で、康造の双子の兄。
- 蛭峰健一
- 健作の長男。
- 蛭峰丈二
- 健作の次男。
- 穴山弓子
- 健作の亡き妻の妹で、健一、丈二の母代わり。
- 蛭峰康造
- 三角館の一方の主で、健作の双子の弟。
- 蛭峰良助
- 康造の養子。
- 鳩野桂子
- 康造の養女。
- 鳩野芳夫
- 桂子の夫で、会社を経営している。
- 猿田
- 先代から使える老執事。
- 篠警部
- 警視庁捜査一課の係長。
- 森川五郎
- 弁護士。財産に関する契約書を作成するように健作に依頼される。
収録作品
- 光文社文庫『江戸川乱歩全集 第15巻 三角館の恐怖』(2004年2月)
映像化リスト
テレビドラマ
関連項目
- 江戸川乱歩の、海外の作品からの翻案作品。
- 『白髪鬼』(1931年)はマリー・コレリ作『ヴェンデッタ』を基にした黒岩涙香の翻案小説を江戸川乱歩がさらに翻案。
- 『渦巻』(1929年)はエドガー・アラン・ポー作『メエルシュトレエムに呑まれて』の翻案。乱歩が大渦巻を鳴門の渦に置き換えて書くようゴーストライターに指示したという。平井蒼太または井上勝喜による代作。
- 『緑衣の鬼』(1936年)はイーデン・フィルポッツ作『赤毛のレドメイン家』の翻案。
- 『幽霊塔』(1937年)はアリス・マリエル・ウィリアムソン作『灰色の女』を基にした黒岩涙香の翻案小説を江戸川乱歩がさらに翻案。
- 『鉄仮面』(1938年)はフォルチュネ・デュ・ボアゴベイ作『鉄仮面』を基にした黒岩涙香の翻案小説を江戸川乱歩がさらに小中学生向けにリライト。
- 『幽鬼の塔』(1939年)はジョルジュ・シムノン作『聖フォリアン寺院の首吊男』の翻案。
- 『死美人』(1956年)はフォルチュネ・デュ・ボアゴベイ作『ルコック氏の晩年』を基にした黒岩涙香による翻案小説を現代語に翻訳。
脚注
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