地獄の道化師
地獄の道化師
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『地獄の道化師』(じごくのどうけし)は、江戸川乱歩が発表した長編探偵小説。1939年(昭和14年)1月から12月まで、『富士』に掲載された。
概要
名探偵明智小五郎が活躍する、いわゆる「明智もの」の一つ。戦前の乱歩の作家活動の末期に属する。戦争中探偵小説が禁圧を受け、翌年あたりから探偵小説が書けなくなったため、この年に書いた本作と、『暗黒星』と『幽鬼の塔』の三つが戦前連載ものの最後であった[1]。明智が復活するのは、戦後の作品の兇器(児童向け作品では青銅の魔人)まで待つことになる。また、戦時体制下の連載だったため、雑誌に1年間連載されながらも中編ともいえるほどの長さになっている。
あらすじ
豊島区の踏切でトラックから落ちた石膏像が列車に轢かれて血を流すという事件が起こる。中には顔をつぶされた若い女が塗りこめられていた。運送を依頼したという綿貫創人なる変人彫刻家は、酔っ払って寝ている間に何者かに縛り上げられ、アトリエに放火されたところを踏み込んでいた刑事に助けられるが、件の彫刻のことは何も知らないという。そんなとき、死体の女は失踪した姉ではないかと、野上あい子なる若い女性が警察を尋ねて来て、死体の右腕の傷から姉のみや子だと断言する。みや子の失踪前日、そして今朝はあい子にも、道化師の人形が届けられており、さらに警察からの帰るさ、あい子は呪いの言葉を吐く道化師に追われる。姉みや子の婚約者であったピアニストの白井は、名探偵明小五郎に助力を乞うという話をあい子にもちかけたものの、その夜、あい子を迎えに来た車にはあの道化師が乗っており、あい子は車から脱出せんとするが、そこは断崖であった。「地獄の道化師」と名づけられた賊は、次に白井が懇意にしているソプラノ歌手相沢麗子の公演中に、彼女に対し舞台の天井からナイフを投げ落とし、明智にも「手を出すな」との脅迫状を送ってくる。相沢家で麗子の警備についた明智は、障子に道化師の影を映すといういたずらをした乞食少年の追跡を助手の小林少年に命じる。すると乞食少年は道化師に会って報酬をもらい、道化師は平屋のあばら家に消える。その知らせを受けて明智と刑事がそこに踏み込むが、屋根裏に顔を薬で焼かれ、頭がおかしくなった半裸の女がいるだけであった。女の悲しい歌声に同情した麗子はその女をひきとるが、女はある夜、寝ている麗子に毒薬を注射しようとしたところを老下男に扮装していた明智におさえられる。その女こそが地獄の道化師だったのだ。女であることがばれないように道化師の姿をしていたのだ。その女の驚くべき素性が明智の口から語られる。
主要登場人物
- 白井 清一(しらい せいいち)
- ピアニスト。婚約者のみや子よりも妹のあい子に惹かれている。
- 野上 みや子(のがみ みやこ)
- 第一の被害者。白井の婚約者だった。
- 野上 あい子(のがみ あいこ)
- みや子の妹。
- 相沢 麗子(あいざわ れいこ)
- ソプラノ歌手。白井と親しくよく共演する。
- 綿貫 創人(わたぬき そうじん)
- 彫刻家。奇人。
- 明智 小五郎(あけち こごろう)
- 数々の難事件を解決した名探偵。
- 小林 芳雄(こばやし よしお)
- 明智の助手。
収録作品
- 角川ホラー文庫『地獄の道化師』(2003年5月)
- 光文社文庫『地獄の道化師』(2005年)
- 角川文庫『D坂の殺人事件』(2016年)
- 集英社文庫『明智小五郎事件簿12 「悪魔の紋章」「地獄の道化師」』(2017年)
映像化リスト
テレビドラマ
脚注
出典
- ^ 河出文庫の自作解説より
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