十字路 (江戸川乱歩)
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『十字路』(じゅうじろ)は、江戸川乱歩が発表した長編探偵小説。
概要
1955年(昭和30年)に、講談社の『書下ろし長篇探偵小説全集』の1冊として刊行された。「筋を立てるのに、初期からの探偵作家クラブ会員渡辺剣次君に助力してもらった。作中の雄大なトリック、ダムの湖水の底に死体を隠す着想や、新宿の十字路で二つの殺人事件が相交わるという着想は、渡辺君の創意によるものであった。渡辺君の立ててくれた筋を、私に書きやすいように多少の変更を加えて、文章は私自身が書いた。」と解説している[1]。そのため乱歩らしくない都会的なサスペンスが展開する異色作で、従来からの脱皮とみられ好評だった[2]が、結局それはつづかなかった。
あらすじ
伊勢商事社長伊勢省吾は愛人の沖晴美との密会を妻の友子に発見された。晴美を殺そうとする友子を省吾は誤って殺してしまう。省吾は以前ハイキングで訪れた、もうすぐ完成する藤瀬ダムに沈む予定の古井戸に死体を捨てることにした。晴美にはアリバイ工作として、友子に成りすまして熱海で一泊するように言い含めた。しかし死体をキャデラックに乗せて藤瀬ダムに行く途中、トラックと接触事故を起こしてしまい、交番で事故の聴取を受けるため車から離れてしまう。
一方、商業美術家の真下幸彦は恋人の相馬芳江の兄良介に、芳江との結婚の承諾を求めたことから争いとなる。幸彦になぐられて頭を打った良介はバーを出て附近の十字路まで行き、偶然止っていた省吾のキャデラックに乗りこむと同時に脳出血で死んだ。いきなり見ず知らずの男の死体が車にあった省吾は驚愕するが、友子殺害がばれるのを恐れ二つの死体をダムの古井戸に捨てた。捨てる直前に友子の靴がなくなっているのに気がついたが、いくら付近を探しても見つからなかった。それからしばらくして省吾は妻の、芳江は良介の捜索願いを警察に出した。
ある日芳江は街で良介に瓜二つの私立探偵南重吉に会った。芳江は南に良介失踪の調査を依頼する。南は警視庁に行き花田警部に会い、友子が良介と同じ日に失綜していることを知った。更に幸彦に会い、良介が消えたと思われる例の十字路に行くと、当夜良介の姿を見た街娼マリ子に会った。彼女の口から良介が乗りこんだ自動車が省吾のものと知り、藤瀬ダムに向かったと推測する。そして藤瀬集落に最後まで残っていた田中倉三を探し当て、省吾が何かを探していたと聞く。靴を探していたのではと推理した南は、なくした靴の偽物をもって省吾に会い、口止料に一千万円寄越せと脅迫する。追い詰められた省吾は南を殺害する。
死体を捨てに行く前に家に寄ると、花田警部が家に上がり込んでいた。省吾が友子の死体を運び出す時に落した友子の靴を見つけ出したので、省吾を逮捕しにやって来たのだった。靴は藤瀬ダムではなく、アパートから死体を運び出したときに落としたのだった。観念した省吾は花田警部にたった今南を殺害したことを話し、晴美に電話する許可をもらう。省吾は晴美に電話をかけながら、南から奪っておいた拳銃で自殺をした。電話越しに銃声を聞いた晴美も、自分のアパートの屋上から飛び下りて省吾の後を追った。
主要登場人物
- 伊勢省吾
- 伊勢商事の社長。歳は40を超えている。
- 沖晴美
- 省吾の秘書であり愛人。
- 伊勢友子
- 省吾の妻で日輪教の信者。
- 真下幸彦
- 商業美術家で、芳江の婚約者。
- 相馬芳江
- 良介の妹で幸彦の婚約者。
- 相馬良介
- 画家。妹の芳江に執着している。酒癖が悪い。
- 南重吉
- 元刑事の私立探偵。顔立ちが良介に似ている。
- マリ子
- 最後に良介を目撃した娼婦。片足がないため松葉杖をついている。
- 田中倉三
- 藤瀬部落の住人。集落がダムに沈むまで土地を離れなかった。
- 花田警部
- 警視庁の警部。月と手袋にも登場する。
収録作品
- 光文社文庫『江戸川乱歩全集 第19巻 十字路』(2004年9月)
映像化リスト
映画
死の十字路 | |
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監督 | 井上梅次 |
脚本 | 渡辺剣次 |
原作 | 江戸川乱歩 |
製作 | 柳川武夫 |
出演者 | 三國連太郎 山岡久乃 新珠三千代 大坂志郎 芦川いづみ |
音楽 | 佐藤務 |
撮影 | 伊藤武夫 |
製作会社 | 日活 |
配給 | 日活 |
公開 | 1956年3月14日 |
上映時間 | 100分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
『死の十字路』というタイトルで日活制作、配給で1956年に公開された。脚本は原作の原案を手掛けた渡辺剣次が担当している[3]。
キャスト
- 三國連太郎 - 伊勢省吾
- 山岡久乃 - 伊勢友子
- 新珠三千代 - 沖晴美
- 大坂志郎 - 相馬良介/南重吉(二役)
- 芦川いづみ - 相馬芳江
- 三島耕 - 真下幸彦
- 藤代鮎子 - 桃子
- 多摩桂子 - 池田澄子
- 安部徹 - 花田警部
- 永島明 - 岡刑事
- 小林重四郎 - 田辺刑事
- 四代目澤村國太郎 - 田中倉三
- 山田禅二 - 永田弁護士
- 東谷暎子 - マリ子
- 福田トヨ - 田村和子
- 鈴村益代 - 婆や
- 小柴隆 - ガソリンスタンドの男
- 峰三平 - 酔った会社員
- 山村邦子 - 島村夫人
- 星野昌子 - ルビー美島
- 三島謙 - トラックの運転手
- 光沢でんすけ - トラックの助手
- 美川陽一郎 - 派出所の巡査
- 鴨田喜由 - 熱海の巡査
テレビドラマ
脚注
出典
外部リンク
- “映画 - 日活 死の十字路” 2025年9月25日閲覧。
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