ロー判決をめぐる論争
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/25 02:50 UTC 版)
「ロー対ウェイド事件」の記事における「ロー判決をめぐる論争」の解説
プロライフ派はこの判決により法律を通じて妊娠中絶を禁止することができなくなったため、中絶手術を行うクリニックでの座り込みや妊娠中絶を考えている女性への説得から養子縁組の推進まで、様々な草の根運動を繰り広げてきた。さらに中絶反対運動の中には、中絶手術を行っている医者への嫌がらせや極端な場合は殺人といった暴力的な手段に出るグループもあった。こうした強硬派は、医師の生命を絶つことで多くの胎児の生命が救われるとして殺害を正当化したが、プロライフ派の主流は暴力の行使に対しては強く反対している。また中絶と乳癌の関係が指摘され、テキサス州では実際に中絶を検討している女性に対して乳癌の危険性について知らせる文書を配布することを義務づける法律が制定されたが、アメリカ国立ガン研究所は中絶と乳癌の関係を否定している。さらに、中絶と精神疾患や不妊症との関係も指摘されている。 ロー判決が下された1月22日は、毎年ワシントンD.C.にある合衆国最高裁の建物の前で抗議活動が行われている。 一方でロー判決を支持する人も多い。特に女性団体は、女性の自己決定権を承認した本判決が女性の平等を達成する上で重要な判例であるとして、判例変更に強く反対している。プロチョイス派は、女性が望まない妊娠・出産を強制されることは男女平等に反するとし、中絶を防ぐには中等教育での性教育、避妊具の利用、両親の子どもへの関与などが効果的な手段であると主張する。中絶禁止を許容した場合、豊かな女性は他の中絶を合法としている州で中絶手術を受けられる一方、貧しい女性は危険な中絶手術を行い、結果として女性の健康が害されているとの指摘もある。 法律家の間でも見解は分かれている。ロー判決への最大の批判は、合衆国最高裁が憲法の明文にも制定者の意思にも根拠を持たない新たな権利を承認した点に向けられている。これに対してロー判決の支持者は、最高裁はこれまでも結婚の権利、子どもを養育する権利、避妊の権利など憲法に明文規定のない様々な権利を認めてきており、中絶の権利を認めたロー判決は何ら判例に反するものではないと主張している。また、胎児の生命の価値は憲法においてどのように位置づけられるべきか、中絶の権利の根拠をどの条項に置くかなどについても争いがある。 ロー判決の賛成派と反対派は現在でも激しく論争を続けている。合衆国最高裁のブレイヤー判事は2000年のステンバーグ対カーハート事件判決で、両者の対立を次のようにまとめている。 数百万人のアメリカ人が、生命は受精時に始まり、妊娠中絶は罪のない子どもの殺人であり子どもの自由の侵害であると信じ、法律が中絶を許容するという考えにためらいを感じている。他の数百万人は、中絶の禁止によって、多くのアメリカ人女性が尊厳なき生を強いられ、女性の自由が奪われ、最も貧しい女性を死と苦痛のリスクを伴った違法な中絶に追いやることになると信じている。
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