ポーラロンの概念の拡張
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 01:15 UTC 版)
「ポーラロン」の記事における「ポーラロンの概念の拡張」の解説
共役ポリマーや巨大磁気抵抗ペロブスカイト、高温超伝導体、層状超伝導体MgB2、フラーレン、擬1次元導体、半導体ナノ構造などの物性に関する研究の中で、ポーラロンを拡張した以下のような重要な概念が提案されてきた。 音響ポーラロン 音響フォノンと電荷が結合したもの。 ピエゾポーラロン 極性音響フォノンとの圧電相互作用によって形成されるもの。 電子ポーラロン[訳語疑問点] 電荷と励起子場の相互作用による準粒子。 束縛されたポーラロン(bound polaron) 電荷を持つ欠陥に束縛されたポーラロン。 スピンポーラロン 電荷担体のスピンが周囲の媒質の磁化と結合した準粒子。 分子ポーラロン 分子上に自己束縛されたポーラロン。 溶媒和ポーラロン 溶媒和電子(英語版)と周囲の媒質とが結合したもの。 ポーラロン励起子 電子と正孔がフォノンを介して相互作用しているもの。 ヤーン・テラーポーラロン ヤーン・テラー効果による電子-格子相互作用によって形成されるもの。 バイポーラロン 二つのポーラロンがフォノンを介して相互作用しているもの。 多ポーラロン系 ポーラロンとバイポーラロンが高温超伝導体のメカニズムに関与している可能性が指摘されたことから、多ポーラロン系の物性、特に光学特性への関心が再燃した。このため、1ポーラロン系の理論的取り扱いを多ポーラロン系へと拡張する試みがなされてきた。 半導体ナノ構造ではポーラロン概念の新しい側面が見出された。ここでは励起子-フォノン状態は断熱的な「仮の解」(en:Ansatz)の積に因数分解することはできず、「非断熱的」な扱いが必要になる[訳語疑問点]。励起子⁻フォノン系の「非断熱性」により、フォノンが関与する遷移の確率は(断熱的に扱われたものと比べて)増大する。また半導体ナノ構造では珍しくないことだが、電子⁻フォノン結合定数が小さい場合であっても、多重フォノンの光学スペクトルはフランク・コンドン的な一連の遷移(progression)とは少なからず異なったものとなる。 生物物理学において、タンパク質のαヘリックス上を伝播する自己束縛されたアミドI励起をダヴィドフ・ソリトン(英語版)という。ダヴィドフ・ソリトンはアミドI励起子と格子フォノンとの相互作用を表すダヴィドフ・ハミルトニアンの解である。その解析にはポーラロン理論で発展された数学的技法の一部が用いられた。この文脈において、ダヴィドフ・ソリトンは以下の性質を備えたポーラロンだといえる。 ラージポーラロン―連続体近似が適用できる大きさであるため。 音響ポーラロン―励起子の自己束縛はフォノンの音響モードとの相互作用によって起きるため。 弱結合―非調和エネルギーはフォノンのバンド幅に比べて小さいため。 ボース=アインシュタイン凝縮中の不純物が成す系もまたポーラロン族の一つであることが示されている。この系ではフェッシュバッハ共鳴を用いて相互作用の強さを操作できるため、従来実現できなかった強結合領域における現象の研究が可能になった。近年、二つの研究グループにより、ボース=アインシュタイン凝縮の中にポーラロンが存在することが、引力・斥力相互作用の双方について強結合領域も含めて実証された。
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