ポーラロンの光吸収
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 01:15 UTC 版)
ポーラロンの磁気光吸収の表式は以下の通りである。 Γ ( Ω ) ∝ − I m Σ ( Ω ) [ Ω − ω c − R e Σ ( Ω ) ] 2 + [ I m Σ ( Ω ) ] 2 {\displaystyle \Gamma (\Omega )\propto -{\frac {\mathrm {Im} \Sigma (\Omega )}{\left[\Omega -\omega _{\mathrm {c} }-\mathrm {Re} \Sigma (\Omega )\right]^{2}+\left[\mathrm {Im} \Sigma (\Omega )\right]^{2}}}} ( 3 ) {\displaystyle (3)\,} Γ(Ω) は振動数 Ω の光に対する吸収スペクトルを与える。ここで ωc はバンドが変調を受けないとした場合(リジッドバンド)のサイクロトロン振動数である。 Σ(Ω) は「記憶関数」と呼ばれ、ポーラロンのダイナミクスを記述する。 Σ(Ω) は α や ωc 、温度にも依存する。 外部磁場がなければ(ωc = 0)、弱い結合の下でのポーラロンによる光吸収スペクトル(3式)は放射エネルギーの吸収によって決まる。吸収されたエネルギーはLOフォノンとして再放出される。結合がα ≥ 5.9にまで強くなると、ポーラロンは「緩和励起状態」(RES, relaxed excited state )と呼ばれる比較的安定な内部励起状態へと転移することができる(図2参照)。図のスペクトルでは、RESピークはフランク=コンドン型の遷移によるフォノンサイドバンド(FC)を伴っている。 Devreese、De Sitter、Goovaertsらが近似を含む経路積分のアプローチによって得た光伝導スペクトルを、ダイアグラム量子モンテカルロ法による近似を含まない数値計算と比較した結果が文献で与えられている。それによると(図3)、 α ≲ 3 {\displaystyle \alpha \lesssim 3} の場合については、数値計算によるフレーリッヒ・ポーラロンの光伝導度はDevreeseらの結果を完全に再現する。結合の強さが 3 < α < 6 の中間的な値の場合については、低エネルギーにおけるカーブと最大値の位置に関してはよく再現されている。それらを除けば、中間的な結合および強結合の領域において両アプローチの結果は定性的に異なっている。数値計算の結果では、RESピークの幅が広がっているほか、FCピークははっきりした極大を持たず、代わりにα = 6のスペクトルで顕著なようにフラットな肩となる。このようなふるまいの原因は二個以上のフォノンが参加する光学的過程にあると考えられる。ポーラロンの励起状態の性質を明らかにするにはさらなる研究が必要である。 光学フォノンの振動数 ωLO より振動数が低い光( Ω < ωLO )に対しては、光吸収(3式)が発散する条件がΩ = ωc + ReΣ(Ω)と表される。この条件によってポーラロンのサイクロトロン共鳴ピークと ReΣ(Ω) が対応付けられるほか、ポーラロンのサイクロトロン質量もここから導かれる。もっとも正確なポーラロンモデルを用いて Σ(Ω) を見積もると、サイクロトロン運動に関する実験データはよく説明することができる。 イオン結晶であるAgBrおよびAgClの中の電荷担体がポーラロン性を持つことは、16 Tまでの強磁場を用いた高精度のサイクロトロン共鳴実験によって証明された。これらの物質の磁気光吸収については、Peeters が広い範囲の α に対して[訳語疑問点]与えた予測が最良の定量的一致を示した。これは固体がポーラロンの性質を持つことの最も明白な証拠の一つである。 極性半導体であるCdTeの浅いドナーのエネルギースペクトルに関する研究では、遠赤外光伝導における磁気ポーラロン効果の実験データが利用されてきた。 LOフォノンのエネルギーを大きく超えるポーラロン効果については、II-VI族半導体などに対する超強磁場サイクロトロン共鳴実験を通じて研究が行われている。十分に強い磁場を用いてサイクロトロン振動数をLOフォノンのエネルギーに近づけると、共鳴ポーラロン効果が姿を現す。
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